「かわいいムーブ」というメタバースの文化についての現状と考察 ~VRChatイベント「かわいいムーブ講集会」の主催経験を通して~
☆はじめに
これを開いた読者の皆様は、どういった理由で本Noteに興味を持ったのであろうか? かわいいムーブについて知りたいから? それとも、筆者と個人的な繋がりのある方々が興味本位で覗いてくれたのであろうか? どちらにせよ、本Noteに興味を持ってくれたことに関して、まずは謝辞を述べたい。本Noteを通して、「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」について筆者が考えていることをできる限り伝えられるよう努めるつもりである。一意見として、そして「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」について考えるきっかけとして、本Noteが活用されるのであれば、これ以上の喜びはない。
本Noteの目的
本Noteは、メタバースで見かける「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」とはどのようなものかについて、VRChatでかわいいムーブの交流会イベント「かわいいムーブ講集会」を主催している"Love/旅川愛(以下、筆者)"が、参加者と交流していくうちに得た知見や、かわいいムーブに対するVRChatterの姿勢に対する印象を元に、「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」の現状整理とそれに対する考察を行うことが目的である。
なお、本Noteで用いる「メタバース」という単語については、「VRChatやCluster、Neos VRなどのVRプラットフォーム」のみに焦点を当てて用いることとする。「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」と呼称される行動は、VRChatだけで見られる特異なものではない。ClusterやNeos VRなどのプラットフォームにおいても、「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」は確認されている。それらを意図的に排除しないためである。
ただ、メタバースについての定義は未だ曖昧であり、論者によって定義が異なるのが現状だ。「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」を語る上で、クリエイターエコノミーやブロックチェーン技術などの概念を包括することもある「メタバース」という単語を再定義せず安易に用いてしまうと、理解を難解にしてしまう恐れがある。そのため本Noteでは、「かわいいムーブ、及びkawaiiムーブが観測されているVR空間」を表すために「メタバース」という単語を用いることを許されたい。
なお、筆者は今回初めてNoteを執筆しており、粗のある文章、主張が目立つであろう。その点は、何卒ご容赦いただきたい。あくまで一つの意見としてお目通しいただければ幸いである。
☆「かわいいムーブ」「kawaiiムーブ」とは?
1.「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」という表記について
まず、「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」に関する表記問題について取り上げたい。本Noteでは、意図的に「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」という表記を用いているが、元々は「kawaiiムーブ」表記が一般的である。具体例を見ていこう。
本来ならば、X(旧Twitter)の投稿を統計学的手法や口頭調査などを行うことが適当と言えよう。しかし、それらの手法を用いることはせず、記事やYouTubeのタイトルなどのわかりやすいものを主に具体例を挙げた。
以下、「kawaiiムーブ」と記載されている記事やYouTube配信、動画のタイトルをまとめたものである。
この「kawaiiムーブ」という表記は未だ顕在であり、X(旧Twitter)で「kawaiiムーブ」と検索をかけると、2024年1月現在もそれらの単語を含む投稿が散見される。著作権の関係上、スクリーンショットなどは貼れないため、もし興味があれば、X(旧Twitter)で「kawaiiムーブ」と検索をしてみると面白いかもしれない。
これらのことから、2024年1月までの間でメタバース上で普及した表記は「kawaiiムーブ」の方であると言えよう。
しかし、筆者はあえて「かわいいムーブ」という表記を用いることとした。これは、筆者が主催するイベント「かわいいムーブ講集会」という名称にも表れている。
その理由の前に、そもそも「kawaiiムーブ」とはどのようなものを示すのかについて触れねばならない。
2.「kawaiiムーブ」のこれまでの定義
まず、いきなり拍子抜けしてしまうかもしれないが、「kawaiiムーブ」の定義について、確立したものは未だ存在しないというのが筆者の考えである。
ただ、2018年に「kawaiiムーブ」について言及された記事は存在する。以下引用である。
ここでは、とりわけ女性的なキャラクターの仕草を「kawaiiムーブ」として述べている。また、「特に男性が」という文言が入っており、2018年当時は女性が「kawaiiムーブ」をすることはあまり想定されていなかったとも読み取れる表現が用いられていることも確認ができる。
揚げ足取りのようになってしまうかもしれないが、この「kawaiiムーブ」の説明について、筆者は3つの疑問が浮かび上がった。順に見ていこう。
1つ目が、「女性アバター」に限定している点である。男性アバターでも、可愛い動き自体をすることは可能であると考える。例えば、シピルカくんや、狐耳の男の子アバターのルナトくんは、設定上の性別は男性である。女の子と言われても違和感のない外見であると感じる人もいることは留意せねばならないが、設定上は少なくとも男性なのである。かわいいムーブ講集会にも、シピルカくんやルナトくんを使うユーザーの参加が確認できる。これは、そのアバターを用いてかわいい動きをしようという意志の表れであろう。
もっと言うと、人型・亜人型のアバターでなくても、可愛い動きをすることは可能であろう。それは「kawaiiムーブ」には含まれていないのだろうか。筆者としては、疑問を抱く点である。
2つ目が、「(特に男性が)」という点である。言うまでもなく、メタバース上で可愛い動きを表現する女性は存在する。しかしこれは、メタバースの住人は現在も男性の割合が高く、記事が執筆された2018年当時、女性ユーザーの割合は2024年現在よりもっと低かったことが予想される。
ここで、ソーシャルVRライフスタイル調査2023「物理性別」を参考にしよう。2023年現在、日本の男性割合は84%、女性割合は15%という結果が出ている。
2018年当時、「kawaiiムーブ」が広まる主な層が男性であり、それが広がる土壌が整っていたのであろうというのは想像に難くなく、それを加味した上で「(特に男性が)」と記載した説明を用いたのであろう。これは時代の流れによって生まれた2018年当時と2024年現在の差異であると考えられる。再度申し上げておくが、かわいい動きを行う女性は存在するのである。女性を排除する必要性は無いと筆者は強く言いたい。
3つ目が、「kawaiiムーブは、"文字通り"「(女性)キャラクターのかわいいしぐさを指す」という点である。この文脈を見ると、あたかも「kawaii」と「かわいい」が同義であるように述べられている。本当にそうなのだろうか?
「kawaii」と英語表記をすると、近年日本から海外に広まった「KAWAII文化」と混同してしまう恐れはないだろうか。「KAWAII文化」については、未だ研究が進められている分野であるし、何より筆者が浅学であるため、本Noteで詳しく述べることは控える。しかし、「KAWAII文化」について筆者は「コスプレ文化や日本のアニメ・漫画・キャラクター文化を表現するために、海外へ逆輸入された言葉」という印象を抱く。もしそうだとすれば、「KAWAII」とは主に日本のサブカルチャーを元にしたファッション要素を包括した概念であると考えられる。メタバース上で現実の自分と容姿が違うアバターを用いることを、いわゆる「アバターを服のように着る」ファッションやコスプレの一種であると捉えられかねない。そしてこれは同時に、「kawaiiムーブ」はメタバース上でファッションの一種として行うものであると、将来的には断定してしまう危険性があると言えよう。
さて、話を戻そう。では、この村上(2018)の「kawaiiムーブ」の説明について、一貫していることはなんなのだろうか。それは、「kawaiiムーブを第三者視点から見ること"のみ"について言及している」点である。もちろん、他者から見て「かわいい・kawaii」と感じるか否かは重要な視点であるが、「kawaiiムーブ」を行うメタバースの住人たちの理由や思想については一切触れられていない。可愛い動きを行うのであれば、そこには何かしらの理由や思想があるはずである。その可能性を考慮せず、外側から見た可愛い動きにのみ着目をして「kawaiiムーブ」と呼ぶには、いささか不十分であると考える。ただ単にメタバース上で見られる可愛い動きのみを示したいのであれば、単に「かわいい動き」と言えば良いのではないか。
では、「かわいい動き」と「kawaiiムーブ」の違いはなんなのだろうか?
ここが、筆者最大の疑問であり、本Noteにおける議論の対象としたい。
次に、「kawaiiムーブ」をメタバースに広めた功労者の一人であると言われている、のらきゃっと氏の言葉を見ていこう。
3.「kawaiiムーブ」の功労者、のらきゃっと
のらきゃっと氏は、2024年1月現在、X(旧Twitter)のフォロワー数は8.5万人を超えており、自身のYouTubeチャンネルでの生放送において、「kawaiiムーブ」や、合成音声を使っているが故に垣間見えるかわいい言い間違いなどが魅力的なVTuberである。のらきゃっと氏は、バーチャル美少女ねむ/Nem氏、及びおぎの稔氏とのコラボ配信において、「kawaiiムーブ」について自身の見解を述べている。
この発言は、「kawaiiムーブ」とは、ただ単に可愛い動きについてのみ言及された概念ではないことを示していると言えよう。「かわいくなれ」ではなく、「かわいく"在れ"」と、「kawaiiムーブ」を行う者に対して生き様を説いているのは、管見の限りだと彼女のみである。これは大変興味深い視点である。
これらを踏まえた上で、筆者は次のように考察した。
のらきゃっと氏の述べる「kawaiiムーブ」へ取り組む態度や哲学こそが、「kawaiiムーブ」と「かわいい動き」との大きな違いではないだろうか。態度なき「kawaiiムーブ」は「かわいい動き」であり、「かわいい動き」に自分なりの思想や哲学など、動き以外の要素が加わることで、「かわいい動き」と「kawaiiムーブ」の間に明確な差別化ができるようになる、のではないか、と。
しかし、筆者はのらきゃっと氏の言う意味での「kawaiiムーブ」を語るメタバースの住人を見たことがない。もしかすると、この「kawaiiムーブ」への考え方は、2024年現在は形骸化してしまったのであろうか。もしくは、そもそも広まっていなかったのだろうか。もしそうであれば、これは大変悲しいことである。「kawaiiムーブ」を広めた功労者として語られるのにも関わらず、思想や哲学は伝わらず、「kawaiiムーブ」という言葉が一人歩きをし、前述した村上(2018)の述べた「VR空間で女性アバターが自分をかわいく見せるしぐさ」などのように、第三者視点からしか語ることのできない概念に矮小化してしまったということになる。
本Noteでは、「kawaiiムーブ」は、とりわけかわいい動きにのみ注目を浴び、当初ののらきゃっと氏の述べる意味合いが矮小化した概念であると仮定したい。
☆「かわいいムーブ講集会」のアレコレ
次に、前述した「kawaiiムーブ」についての考察を元に、筆者が「かわいいムーブ」表記を用いる理由を述べよう。
そのためには、筆者が主催するVRChatのイベントである「かわいいムーブ講集会」を通して得た経験が重要な位置づけとなる。まずは「かわいいムーブ講集会」について述べよう。
1.「かわいいムーブ講集会」とは?
「かわいいムーブ講集会」とは、かわいいムーブのやり方について情報交換ができる交流会イベントのことである。開催している主なプラットフォームはVRChatである。筆者であるLove/旅川愛が主催を務めており、副主催者としてバ亀/bakameを任命している。運営メンバーは主催、副主催を合わせて計5名である(2024年1月現在)。
「講習会」ではなく「講"集会"」という名称を用いた理由は、「講義形式の講習会のようなイベントではなく、お互いに自分の考えるかわいいムーブを語り合える、教え合える空間にしたい」という筆者の願いが元である。しかし、開催から約1年経過した2024年1月現在、見事に「かわいいムーブ"集会"」という名称で定着しつつあるが、正しくは「かわいいムーブ講"集会"」である。これは体感であるが、VRChat上でイベントの名前が出るときは、9割くらいは「かわいいムーブ"集会"」と言われる。これはわかりにくい名称をつけた筆者のネーミングセンスが残念なことを恨むしかない。涙が出るなぁ。
2.「かわいいムーブ」と、全て日本語表記に統一した理由
では、筆者が「kawaiiムーブ」ではなく「かわいいムーブ」という表記を用いた理由について述べよう。
1つ目は、筆者が「kawaiiムーブ」という英語表記と日本語表記が混在した表現について懐疑的であるからだ。英語表記の「kawaii」が示すことに関して、筆者が浅学であるため、あくまで私見であるが、「KAWAII文化」との混同を懸念した。「KAWAII文化」について筆者は「コスプレ文化や日本のアニメ・漫画・キャラクター文化を表現するために、海外へ逆輸入された言葉」という印象を抱いている。そのため、メタバース上で現実の容姿と違うアバターを用いることを、「アバターを着る」というようなファッションの一部としてまとめたくなかったのだ。
アバターを使うことに関しては、様々な意見が考えられる。もちろん、アバターを服のように着用している感覚の者もいるだろう。しかし、アバターと自分を同一視し、メタバースの姿こそが自身の姿であるというアイデンティティを持った人の存在も考えられる。その他意見もありえよう。筆者は、個々の思想は尊重されるべきであるということが大前提であると考えており、個人によってアバターの心理的位置づけが変容すると考えられるものをファッションという言葉で一括りにはしたくなかったのだ。
2つ目は、既存の「kawaiiムーブ」という言葉を安易に使うことを恐れたからである。実は、当初のイベントの仮称は「kawaiiムーブ講集会」であった。しかし、当時は現在よりもさらに「kawaiiムーブ」に対する知見が浅く、安易に「kawaiiムーブ」という単語を用いることで、自身の活動が「kawaiiムーブ」という概念に余計な先入観や誤解を与えてしまう可能性を懸念したのである。
3つ目は、日本語の「かわいい」という言葉が持つ広い意味に期待したからである。日本語の「かわいい」とは、様々な意味を包括する言葉であり、故に説明することが難解な概念でもある。しかし、意味が広く、難解であるという特性を利用し、各個人が考える「かわいい」をできる限り包括したいと考えた。「かわいい」というのは人それぞれであるし、正しい・正しくないで語られる概念でもない。人の数だけ「かわいい」は存在しており、そのどれもが尊重されるべきであるという筆者の考えを反映するには、「kawaii」という英語表記ではなく、元々の日本語表記の「かわいい」が適当であると考えた。
4つ目は、どうか笑わないでいただきたい。筆者が個人的に、「kawaii」より「かわいい」の方がかわいいと思ったからだ。
以上4つの理由から、筆者は意図的に「かわいいムーブ」という日本語表記を用いているのである。
3.「かわいいムーブ講集会」における「かわいいムーブ」の意味合い
では、「かわいいムーブ講集会」における「かわいいムーブ」とは、どのような意味合いで用いられているのか。
正直に申し上げて、筆者が名前を付けた時点(2022年12月頃)の考えでは、「かわいい動き」の身体的な方法論について主眼を置いたイベントであった。これは、筆者のX(旧Twitter)に宣伝動画として、「かわいいムーブ講座」という動画をアップロードしていることからも確認できる。
本Noteでは、「kawaiiムーブ」とは、とりわけかわいい動きにのみ注目を浴び、当初ののらきゃっと氏の述べる意味合いが矮小化した概念であると仮定している。
ここまでの内容と照らし合わせれば、筆者はイベント発足当時、第三者視点から見える範囲であれば、「かわいいムーブ」(イコール)=「(矮小化した)kawaiiムーブ」として取り扱っていたと言っても良い。
そのため、「かわいいムーブ講集会」とは、「かわいい動きの方法論を相談したり、話し合ったりできるイベント」であるという認識で問題はない。
このイベントの「かわいいムーブ」における意味合いに関して、筆者は特に不満を抱いているわけではないし、2024年1月現在は変えるつもりもない。そのため、これまでイベントに参加したことのあるユーザーの皆様は、安心してこれからも参加をしていただきたい。
しかし、イベント開催の回数を重ねていくにつれて、筆者の中で「かわいいムーブ」とはなんなのか、筆者なりの答えが形になりつつある。これは現在思案中であり、今後変容する可能性がある。ただ、「かわいいムーブ」という概念の発展の礎になる可能性も否定はできないため、本Noteの最後に示そう。
次章では、「かわいいムーブ」について、筆者なりの答えが形成されるに至った、関わり深い事例を見ていこう。
【コラムという名の小休憩:筆者のアバターに対する認識】
☆イベント主催経験を通して見えた「かわいいムーブ」の様々な形
ここからは、「かわいいムーブ講集会」での経験や筆者の活動を元に、「かわいいムーブ」の様々な形を挙げていこう。筆者の経験に基づいていることや、「"かわいいムーブ"講集会」での経験があってこそ見えてきたものであるため、ここでは「kawaiiムーブ」ではなく「かわいいムーブ」という表記を用いることを許されたい。
また、本Noteでは、あくまで存在するという提示に留めておくこととする。なぜならば、これらの存在は今後発展し、変容する可能性があるからだ。安易に言葉で枠組みを作り、発展の妨げになるようなことは筆者の本意ではないため、その点はご容赦いただきたい。
1.コミュニケーションツールとしての「かわいいムーブ」
「かわいいムーブ」をコミュニケーションと絡めて述べている一つの意見として、ともち~。氏のNoteを引用しよう。
ここでは、「かわいいムーブ」について、コミュニケーションの中で生じるコンテンツであることが語られている。これは、「かわいいムーブ」を行う場所、場面について言及した意見であるとも言える。
また、ボディーランゲージという、非言語コミュニケーションに注目している点も興味深い点と言えよう。
これは、本Noteにおいて、かわいい動きについてのみ言及した「(矮小化した)kawaiiムーブ」には含まれていない視点である。
「かわいいムーブ」とは、コミュニケーションの中で表現されるものであり、コミュニケーションツールの一種として認識している人もいるようだ。
2.「無言勢」×「かわいいムーブ」という存在
「かわいいムーブ」を語る上で「無言勢」の存在は語られるべきであろう。そのためにはまず、無言勢とは、どのようなプレイスタイルのことを指すのであろうか。以下、Yullshul_ユルシュル(2023)のNoteを引用しよう。
ここで述べられる非言語的な方法とは、主に「ジェスチャー/手話/動き/表情/ペンでの筆談/テキストチャット」のことを指している(Yullshul_ユルシュル,2023)。
無言勢にとって「動き」や「表情」は、非言語コミュニケーションとして多用するものなのであろう。
実は筆者も、VRChatをプレイする際は大半を無言勢で過ごしている。その際に、コミュニケーション方法は「動き」と「表情」、「ペンによる筆談」を主に用いているため、無言勢というプレイスタイルには馴染みが深い。「ペンを使ってかわいくフレンド申請をするには?」という内容でかわいいムーブに関する動画をアップロードしたこともある。
筆者はこの無言勢に関して、「かわいいムーブ」に一番身近な存在なのではないかと考えている。前述した「コミュニケーションツールとしてのかわいいムーブ」について、もっとも用いる頻度が多いのはこの無言勢というプレイスタイルであろう。非言語的なコミュニケーションを主に扱うという特性を持つ無言勢が、「かわいいムーブ」をコミュニケーションツールとして用いることで、会話の円滑化を目指し、同時に「その人らしさ」を動きによって体得していく。この過程にこそ、筆者は「かわいいムーブ」の発展の可能性を感じている。
しかし、全ての無言勢が「かわいいムーブ」を行っているわけではない点は注意が必要である。
ここでは、「かわいいムーブ」の発展を担う可能性のある「無言勢」という存在の提示のみに留めておこう。
3.ロールプレイとしての「かわいいムーブ」
筆者は、「メタバース上の容姿に、かわいいムーブを用いてなりきるユーザー」が存在していると考えている。ここで、ソーシャルVRライフスタイル調査2023「発声技術・ボイスチェンジャー・音声読み上げソフトを使っていると答えた方は、最も当てはまる利用目的を教えてください」における調査結果を参考にしよう。
調査結果を見ると、「男声を女声に変換するため」という理由が70%と大きな割合を占めている。
なぜ男声を女声に変換する必要があるのかについては、明確な調査結果は得られておらず、今後の課題としたい。
あくまで筆者の私見であるが、よく聞く意見としては「かわいいアバターから男の声が出るのが嫌だ」という意見である。そのため、ボイスチェンジャーや普段と違う発声方法を用いて、女性の声に近づけるといった行動が見られるのではないだろうか。
この「かわいいアバターから男の声が出るのが嫌だ」という意見については、メタバースで時間を過ごすにつれて、「声」だけではなく「動き」をさらに「(かわいい)アバター」に合わせようという行動に変容する可能性も否定できない。しかし、再度申し上げるが、「なぜ男声を女声に変換するのか?」という詳しい調査結果は得られておらず、考察には限界がある。
ここでは、自身の使うアバターに適した声や振舞いを行うことを、広義の意味で「ロールプレイ」と呼び、「メタバース上の容姿にかわいいムーブを用いてなりきるユーザー」の存在を提示するのみに留めておきたい。
4.映像作品としての「かわいいムーブ」
次に、映像作品としての「かわいいムーブ」である。
これは主に筆者の活動を取り上げたい。筆者は「かわいいムーブ」を用いた動画をX(旧Twitter)上に投稿している。動画の内容としては、「サフィーちゃんが帰りを待っていてくれて、『おかえりなさい』と出迎えてくれるワンシーン」を切り取った映像となっている。(動画はこちら)
この動画を投稿した理由は、もっと多くの人に「かわいいムーブ」を認知してもらいたいという筆者の願いが主である。「いかにアバターに適した動きができるか」という点と、「そのアバターが映えるシナリオはどのようなものか」を追求しているものであり、「3Dモーション」や「演技」といったものと近しい形で「かわいいムーブ」を扱っていると言ってもよい。
私見であるが、メタバースに馴染みのない人々とって、「かわいいムーブ」は違和感のある行動であるように思える。メタバース上で行われる「かわいいムーブ」は、一般的には現実世界で行われている動きではないことが多いのである。やはり、アニメのキャラクターなどの二次元的な動きに影響を受けているような印象がある。「かわいいムーブ」を映像作品という馴染み深い媒体を通して扱うことで、その違和感を軽減し、そこを入り口に「かわいいムーブ」に興味を持ってもらいたいと考えている。
この活動の効果はまだ未知数だが、「かわいいムーブ」の一つの形として、存在の提示をしておこう。
5.その他の「かわいいムーブ」
これまで「かわいいムーブ」の様々な形を提示したが、これらはあくまで一例である。本Noteで全ての「かわいいムーブ」の形を網羅できるとは考えていない。ここで述べた以外の「かわいいムーブ」の形も存在するだろう。その可能性を否定しないためにも、「その他」のかわいいムーブという項目を残しておく。
☆「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」に対する課題
ここでは、「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」における課題を筆者の私見を元に挙げていく。
1.「棲み分け」を意識する必要性
まず課題として、「棲み分け」の必要性を挙げよう。
「かわいいムーブ」については、多種多様な意見があることが考えられる。その中には、そもそも「かわいいムーブ」に対して否定的な意見を持つ者も考えられる。
参考までに、筆者の実体験を紹介すると、メタバース上で「かわいいムーブ」を行いながらユーザーとコミュニケーションを取っていると、全く会話と関係のない第三者から「女性はそんな動きしないに決まってる」「なんで男がかわいい動きなんかしてんの?」「別にかわいい動きをしてもいいけど、喋らないでくれるかな」と言われたことがある。そのため、残念ながら「かわいいムーブ」を行うことに対して否定的な意見がないとは言えない。
この問題に関して、筆者はX(旧Twitter)上でアンケート機能を用いて、簡易的な調査を行った。調査内容は以下の通りである。
「かわいいムーブについて、あなたの印象は?」
という質問文を用いて、「男性」「女性」「無言勢」が「かわいいムーブ」を行うことは好ましいか、好ましくないか、を投票してもらうという印象調査である。
ここで述べる「かわいいムーブ」とは、簡略化のため、「メタバース(VRChatやClusterなど)上で行う、可愛いアバターを用いたかわいい動き」とした。また、回答数に違いがみられるのは、X(旧Twitter)のツリー機能を用いたからであると考えられる。
結果は以下である。
この回答のみを見ると、物理性別を問わず「好ましい」「(どちらかと言えば)好ましい」の割合が高いことが確認できる。
しかし、このアンケートだけで「かわいいムーブ」に対する印象は良いという意見が多数である、と結論付けるのは早計である。本アンケートは筆者のX(旧Twitter)アカウントから募集したものであり、フォロワーには筆者の友人や「かわいいムーブ」に興味を持った人が多いことが予想される。また、アンケート機能の都合上、物理性別によって「好ましさ」が変化するかどうかという点も判別がつかない。そのため、あくまで参考程度に留めておいてほしい。
しかし、この回答のみを見ても、物理性別を問わず「(どちらかと言えば)好ましくない」「好ましくない」に投票をしている人も確認ができる。不必要なトラブルを避けるためにも、「かわいいムーブ」の棲み分けは念頭に置いておいた方が無難であろう。
2.男性ユーザーが「かわいい動き」を行うと、女性と間違われる
これは筆者の経験に基づくことであるが、やはり「かわいい動き」を意識して「無言勢」としてプレイしていると、しばしば女性と間違われることがある。当人がそれで問題を感じないのであれば、そこを否定するつもりはない。しかし、現実の性別が知られることで、あらぬトラブルに発展する恐れがあることは認識しておかなければならないだろう。
3.現実への波及
「かわいいムーブ」を行っていると、現実の動きに影響が出る場合があるようだ。よく聞く事例で言うと、「手を振る」「首をかしげる」「内股になる」といった事例が挙げられる。
例えば、筆者の友人は、現実世界で警察官に向かって手を振ったことがあるという。これは「かわいいムーブ」を行う上注意するべき点であると言えよう。
うっかり現実で動きが出てしまわないように、注意が必要である。
「かわいいムーブ」の今後の展望と筆者の願い
最後に、「かわいいムーブ」の今後について、筆者が2024年1月現在、感じていることを示そう。
1.「かわいいムーブ」のジャンル化の兆し
筆者は、「かわいいムーブ」について、ジャンル化が始まっているのではないかと考えている。というのも、「かわいい」という概念に関しては様々であり、一言で表すことは難しい。「かわいいムーブ」の扱う範囲は広く、例えば清楚な動きやお姉さんの動き、小動物のような快活な動き、それらすべてを含めて「かわいいムーブ」と呼ぶことができると考えられる。そのため、動きの特徴を捉えるために、「かわいい」という大きな概念ではなく、ジャンル分けが行われていくのではないかと考えている。
具体的には、「お姉さんムーブ」や「メスガキムーブ」、「サキュバスムーブ」などが挙げられるだろう。これらは、「かわいいムーブ」という大きな概念から細分化し、ジャンル分けされたものではないかと考えている。
「かわいいムーブ」や「ジャンル分けされたムーブ」の因果関係や、どちらが先かという前後関係は不明であり、この辺りは今後の課題としたい。
2.「ムーブ」の意味合いの変容
筆者は、「かわいいムーブ」という言葉について、すでに変容が始まっていると考えている。
特に感じるのは、「ムーブ」という部分だ。本Noteでは、「動き」という意味で「ムーブ」を扱っていたが、それが少し不適切になりつつあるのではないかと考えている。筆者は、「かわいいムーブ」における「ムーブ」とは、日本語で言うと「振舞い」といった方が適切であるような印象がある。
これは、前述した「かわいいムーブのジャンル化の兆し」で触れたことと関係している。例えば、ここでは「メスガキムーブ」を例として挙げよう。ここで触れるメスガキについては、以下のものを引用する。
メスガキを彷彿とさせる動きは様々ある。例えば「人を小馬鹿にした表情を用いて、人差し指を口の前に持っていく」などである。
しかし、メスガキとは、「生意気で相手をからかうような挑発、罵倒をする」という要素も含んでいる。そのため、メスガキを表現するには、扱うセリフも重要な位置づけとなろう。メスガキで有名な言葉としては、「ざこ」「よっわ」などの罵倒が挙げられる。これは音声言語を使って表現されるメスガキの形であり、「動き」のみでは到達することの難しい領域であると言えよう。
それら音声言語も駆使し、メスガキになりきるユーザーを筆者は認知している。「言葉」と「動き」を駆使して自身のかわいいを追求し、「メスガキムーブ」として昇華させる取り組みは、「かわいいムーブ」の新たな形ではないだろうか。
そのため、本Noteでは、「かわいいムーブ」の「ムーブ」が「動き」のみではなく、「その人の言葉や態度を含めた振舞い」を指す言葉として変容しつつあるのではないか、という可能性の示唆に留めておきたい。
☆「かわいいムーブ」に対する筆者の考え
最後に、これまでのNoteを踏まえて、筆者が考える「かわいいムーブ」とはどのようなものなのかについて述べて、本Noteの締めとしよう。
なお、これから述べる「かわいいムーブ」に対する筆者の考えは、あくまで一意見として留めていただきたい。2024年1月現在の「かわいいムーブ講集会」の運営方針や、イベント内容とは全く関係のないことであるということは強く強調しておく。
1.筆者なりの「かわいいムーブ」とは?
本Noteでは、前提として「kawaiiムーブ」は、とりわけかわいい動きにのみ注目を浴び、当初ののらきゃっと氏の述べる意味合いが矮小化した概念であると仮定している。そのため、のらきゃっと氏の述べた「かわいいで"在れ"」などの思想や哲学を排除し、「かわいい動き」のみについて言及した表現を「(矮小化した)kawaiiムーブ」とする。
この仮定を元に、筆者の考える「かわいいムーブ」は、次のことを指す。
上記のことを指すと述べよう。
本Noteにおいて、「kawaiiムーブ」は矮小化したと述べたが、これは大変悲観的な見方であることは自負している。「kawaiiムーブ」がなければ、今こうして「かわいいムーブ」について語ることは無かったと言えよう。そのため、先人たちの努力と研鑽の結晶である「kawaiiムーブ」という概念に最大限敬意を払い、筆者の考える「かわいいムーブ」の起点とさせていただいた。
ここで今一度、「kawaiiムーブ」の功労者と呼ばれるのらきゃっと氏の言葉を見ておこう。
のらきゃっと氏の述べた、いわゆる「kawaiiムーブへの哲学」は筆者も大変感銘を受けており、これが矮小化したままであるのは大変心苦しい。そのため、筆者の述べた「かわいいムーブ」が、今後は人の生き様を語ることができるような概念に昇華することを心から祈っている。
☆おわりに
筆者は「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」が大好きだ。筆者の短い人生の中で、これほどまで真剣に向き合ったものは無いと言えるほどである。筆者は「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」というメタバース文化があったからこそ、イベントを主催したり、交友関係を築いたり、動画を作成したりといったチャレンジをすることができたのだと強く感じている。「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」を通して得た経験は、確実に筆者の人生を大きく変えたと言って良い。これだけは断言できる。
筆者は、これからも「かわいいムーブ」の発展に寄与すべく、活動を続けていきたいと考えている。もし本Noteを読んで、「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」に少しでも興味を持ち、これについて考えるきっかけを作ることができたのであれば、それだけで筆者は報われる。
本Noteにおいて、「kawaiiムーブ」について悲観的な視点を用いたことによって、不快な思いをさせてしまったかもしれない。その点は何卒、ご容赦いただきたい。
最後になるが、ここまでお目通しいただいた読者の皆様には、心から謝辞を述べたい。筆者の活動である「かわいいムーブ講集会(X(旧Twitterへのリンク))」は、2024年1月現在も活動中である。もし興味があれば、「かわいいムーブ」のきっかけとして、イベントに足を運んでいただけると大変嬉しい。はたして、これから「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」はどのような発展を遂げるのであろうか。その発展を支えるのは、筆者以外の第三者なのかもしれない。どのような形であれ、筆者は「かわいいムーブ・kawaiiムーブ」という文化の発展を心から願っている。
それでは、筆者の願いと、イベントの宣伝を最後に、本Noteの筆を置くこととしよう。