見出し画像

オリジナル短編小説 ーAM00:00、異星の土地で。ー

作:ハリトユツキ
(Twitter:https://twitter.com/sayonara_yutuki

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+

「今から、あなたにいくつかの質問をするね」
黒猫はこちらを見つめて優しく微笑むと、そういった。毛並みの整った、育ちの良さそうな猫だった。
「ねえ、この世界に幽霊はいると思う?」
「いると思う」
俺が間髪を入れずに答えると、黒猫は小さく頷いた。
「そうかい……それじゃあ、死後の世界は? 君が死んだら、そのあとはどこへいくと思う?」
「わかりません」
どうやら俺の答えは欲しいものではなかったらしい。黒猫は不機嫌そうにしたりとそのふさふさとした尻尾を鳴らす。揺れる尻尾を俺はしばらく見つめていた。しばらくの無言のあと、ゆっくりと黒猫は口を開いた。
「そう。それでは最後の質問だ、あなたにとって幸福とは——」
黒猫の言葉は暗い光に遮られて、瞬間消え去った。


ずっと遠いところで鐘の音が鳴った。
音は繰り返し鳴り響きながら、薄い暗闇の中を近づいたり遠のいたりしている。時間はちょうど真夜中、零時を過ぎた頃。窓の外の世界は平等に言葉を失って、視覚も聴覚もみなベッドの上に置かれている。時折、車のエンジンを蒸す音、それから救急車のサイレンが離れていく音が聞こえる。電車の終電が今、最寄り駅を通過していった。
美しい黒猫が跳ねる様にジャンプをしてしたりと俺の体に近付き、「大丈夫かな?」と耳元で囁く。整った毛並みを毛繕いする音。少し神経質な程に、丁寧に。黒猫はきっと完璧主義者なのだろう。しかし、俺はそれに興味を抱くことがない。
俺はゆっくりと瞼を開けて、意識を浮上させようとしている。瞼はわずかに痙攣していて、その部分を手のひらで軽く撫でる。身体は鉛の様に重たく、右腕を顔まで持っていくことすらひどく億劫だ。それでも瞳は確かに開いて、眠りたいと願っているのにもう一度眠りにつくのはもう難しかった。永遠と浅い眠りの中で浮き沈みを繰り返し続けている。生きていくことに絶望しそうになる。

ここから先は

3,863字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?