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熱海で乳牛になった話
新年明けましておめでとうございます。
わが家の年越しの瞬間は、23時58分頃タイミングよく起きたぼうやの泣き声とともに笑、家族3人で迎えました。
風邪やインフルエンザにコロナ、ほかにも耳慣れない病気が流行っているようですが…
昨年飲み始めた腸活ドリンクで免疫力が上がっているのか、いまのところそういった不調とは距離を置くことができています。
おもえば産後1年くらいは、健康が取り柄の私だったのにちょくちょく風邪をひいたり、数年に一度出るか出ないかだった熱を1年に3回も出したり。
「一晩寝れば回復する」ものも、寝たいときに思いっきり寝られるとは限らない赤ちゃんとの生活で長引いて、ベースの生活と免疫力との関係を思い知らされました。
うってかわって2024年はほぼ風邪もひかず。
ぼうやの夜泣きはいまだにありますが、睡眠に健康が大きく左右されずにいるのは腸内環境が劇的にととのったおかげなのかなあ、なんて思っています
そんな昨年ですが、一度だけ40度近い高熱を出しました。
その体験がなかなか私には強烈だったので、今日はそれを書き留めておこうと思います。
わが家ではなりゆきで市販のミルクはつかわず、母乳だけで子育てをしていました。
いわゆる完母というやつです。
ぼうやにいろいろアレルギーがあるから、というのも理由ではありますが、今はアレルギーっ子用のミルクもあるので、市販のミルクを飲ませることももちろんできます。
なりゆきというか、単に私が、授乳大好き人間になってしまったこともあり「せっかく出るんだし…」と母乳だけで育てていました。
ごはんを食べるようになり2歳となったいまでも、授乳はつづいています。
さてぼうやが2歳を迎える2ヶ月ほど前、私は知人が企画した熱海旅行に参加することにしました。
子連れで行くか迷ったのですが結局、産後はじめて一人で外泊することに。
夫は授乳以外のぼうやケアは完璧にできるし、寝かしつけに関しては私の数倍上手なので、夫に子を託すことにはなんの不安もありません。
ただ、気がかりなのは私の胸まわりです。
出産してから1年と10ヶ月、
まる一日子どもと離れて過ごしたことがないので、生成された母乳が一日以上吸い上げられない、というのは未知の経験…
心配ならば搾乳機を持っていくという手もありますが、産後すぐのころ試してみて、搾乳機と私とは相性がよくないのかまったくしぼることができなかったので、持参することは考えませんでした。
ま、だいじょうぶでしょう。
そんなことより、ひとりで新幹線に乗れるなんて。
移動中に静かに本が読めるとは、なんてこと!
身軽にひとり分の荷物だけを持てばよく、駅でエレベーターを探して遠回りすることもなく、階段をスタスタのぼりおりできるなんて〜!
と、じつにひさしぶりなあれこれにうきうきして出発したのでした。
ところが案の定その日の夜には、ぼうやと明日まで会えないという事情なんて知る由もない私の胸はぼってりと重たくなってきました。
母乳で張った胸を「りんごのよう」と形容することがあるのですが、これは大げさではなくて、授乳間隔があくと本当に胸は「りんごでも入ってるのかな?!」というくらいにかっちこちになります。
嘘じゃないです。
明日の夜までぼうやに会えないのに。
再会までまだあと20時間もあるのに。
早くもりんご化の予感しかしない。。
温泉の脱衣所で浴衣をぬぎ、鏡の前に立ちます。
授乳がスタートしてから、私の胸は憧れのまあるいお椀型バストになっていたけれど、うっとりしている場合ではないんですね。
いまにもはち切れそうな胸は不吉であり、あと20時間果たしてもってくれるのか…?
さながら両胸に時限爆弾を抱えているような気分。
大浴場の洗い場で、まわりに人がいないのをこれさいわいと、必死にしぼること15分。
まったく枯れる気配のない母乳と手の疲れに絶望的な気分になりながら、それでも「お風呂場がいちばん乳搾りに適した場所なんだから、いまがんばらなくては!」
そう言い聞かせて自分を奮い立たせます。
そのあと露天風呂でもタイミングよく私ひとりだったので、縁に腰かけてしぼり、また洗い場でもしぼり…
合計40分くらいはがんばったものの、多少胸の硬さがやわらいだだけ。
これは寝ている間にかっちこちのりんごになっているだろうなあ、と、翌日の重さと痛みを思ってためいきが出ます。
翌朝も起きるや否やいそいそと大浴場へ。
鏡の前に立つと、そこに映っていたのは少年漫画に出てくる”巨乳キャラ”でした。
男性向けの漫画やパチンコ店のポスターに描かれている、「こんな女の子いないでしょ!」とつっこみたくなる、非現実的なあれです。
「こんなイラストを見て育って女性に変な理想を抱いたり、”おっぱいは大きければ大きいほどいいんだ”って不健全な価値観を持った男子が育つのかなあ」と、女性としてざわざわした気持ちになる、あれです。
ここに詰まっているのは男の夢や憧れではなくひたすらに乳。
「私っていま、乳牛みたいだな〜」と思ったのでした。
無責任に描かれた「男の理想」とはほど遠く、不自然なほどの”巨乳”の現実は乳牛なのです。🐮
しかし泣いても笑っても、これが帰宅する前最後の搾乳チャンス。
朝の限られた時間を最大限乳しぼりにささげ、不安いっぱいで2日めがスタートしたのですが、日中も内心胸が気になって気になって観光どころではありません。
なにしろぼっっってりと胸がどんどん重たくなってゆき、硬くてパンパンに張ったそれが不気味に熱を帯びてくる。
「授乳のことを考えなくていいから、久しぶりに着ちゃおうっと」と持参したワンピースには授乳口も前開きボタンもないから、お化粧室に駆け込んでさっとしぼることもむづかしい。
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絶対に搾乳できないワンピースを着て行ってしまいました。
せっかくの熱海でも考えるのは「早く帰ってぼうやに吸ってもらいたい」というただそればかり。
しまいには、熱海駅で帰りの新幹線のチケットを購入したころにはなんだか寒気までしてきました。
「真夏なのに寒気がする…そんなにさっきの場所の冷房きつかったっけ?」と思いながらパーカーを羽織って新幹線に乗り込むと、あきらかに体がおかしい。
体温計は持っていなかったものの、かんかんにほてった胸を発生源として、熱が出ていることは明白でした。
不幸にも、ちょうど熱海から京都へ直通の新幹線がない時間帯。
もっともはやく京都に帰りつく手段でも「熱海〜名古屋間は各駅停車」&「名古屋で乗り換えが必要」という、体調不良者には地獄の復路の始まりでした。
三島、新富士、静岡、掛川、浜松、豊橋、三河安城……
往路では停まらなかった駅に新幹線がいちいち停まるたび、「なんで静岡と愛知にはこんなに駅があるんだよう!」と、熱くてぼんやりした頭で恨みがましく考えながら、読書に集中することもできず。
ただただ「一分一秒でもはやくぼうやに吸ってもらって楽になりたい…」とうわごとのように思うしかできませんでした。
まさかおっぱいを発生源とした高熱が出るなんて……。
やっと新幹線が名古屋に着いたときの安堵感と言ったら。
ここまで信じられないくらい長かった。。
さあ、京都まではあと一駅。
胸の痛みと熱でふらふらしながら次の車両に乗り込むと、私は指定席ではなくお手洗いへ直行しました。
すでに爆発した時限爆弾。
これ以上放置することはできないので、狭いお手洗いでワンピースをえいやっと脱ぎ、必死の乳しぼりです。
自分の手でしぼるのと赤ちゃんに吸ってもらうのとでは出る量が雲泥の差のようで、自分でいくらがんばっても焼け石に水でしかないのだけど、とにかく何もしないよりはまし。
たまった母乳を少しでも外に出さないとますます胸は痛みと重みを増し、熱も上がってしまいそう。
ある程度落ち着いたら席に座ろうと思っていたのですが、結局京都駅に着くまでひたすらお手洗いに立てこもって母乳をしぼりだすという、後にも先にもない(と願う)体験をしました。
しぼった母乳は狙ったところに着地してくれるわけではなくいろんなところに飛び散るので、狭いお手洗いの壁や床は白い乳だらけに…
(降車するときにできる限り拭きましたが、糖度の高い母乳で床はぺたぺたしていたかもしれません。。ごめんなさい)
京都駅まで夫に迎えにきてもらうことも考えましたが、ぼうやの食事やお風呂の時間帯なのでなんとか自力で帰ってきてほしいとのこと。
京都駅からタクシーに乗るにはおそらく長蛇の列に並ばないといけないので、最後の力をふり絞り、熱々のりんごを両胸に貼り付けながら電車で帰宅。
熱を測ると、40度近くてびっくりしたのでした。
生まれてはじめて母親とまる一日以上晩離れて過ごしていたぼうや。
やはりすこしさみしがったようですが、しっかりごはんを食べ、お水も飲み、母乳を飲まずとも元気いっぱいで過ごしていた様子。
いっぽう私は授乳できなかったことで、まさかの高熱でふらふらになりながらの帰宅……
行く前は「マミーがいなくてだいじょうぶかなあ🥺」なんて言っていたのに、大丈夫ではないのは私の体だったのでした。
そして熱海で2日間、必死に手でしぼっても熱を出すほどに張ってしまった私の胸は、ぼうやに吸ってもらうとほどなくして元通りに。
熱も翌日には下がりました。
妊娠や出産を通じて女のひとの体ってよくできてるなあと驚かされることばかりでしたが…今回も、「他人の食べものである」からこそのすごい体験をしました。
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