東山未怜

あったかくて、せつない。 そんなお話が好きです。 別名義でオリジナル小説やノベライズを…

東山未怜

あったかくて、せつない。 そんなお話が好きです。 別名義でオリジナル小説やノベライズを出版してきました。 何を隠そう、崖っぷちです。 どうぞよろしくお願いいたします。

最近の記事

ビワの木のこと

最後の晩餐はビワがいい。 きっとそのときには病気なら食べる力がなくなっていて、あるいは地球滅亡の直前とかでショックで食欲不振で、大好きな鶏の唐揚げは油っぽくて食べられないだろうから、ビワがいい。 そこまで好きなビワ、これがけっこうお高い。 それでも毎年ビワの季節には買い求める。 だけど私は必ず思う。 あのビワの方が美味しかった、と。 うちの裏庭には、大きなビワの木があった。 みかん色の、小さくてころんと丸い実を、いくつもつけてくれた。 その実には小さなアリがけっこうな確

    • 鈴虫とおばあちゃん

      茄子を切ると思い出すことがある。 たとえば虫の声が聴こえるようになる、秋という季節はとくに。 その昔、小さい頃に同居していた祖母が、知人から分けてもらって鈴虫を飼いはじめた。 心臓を病んでいた祖母は、いつも辛そうだった。 それでも毎日、鈴虫の世話を欠かさなかった。 その数、十匹ほど。 水槽の底に敷いた土に、霧吹きで水をかける。 しわくちゃの手で茄子を切っては、爪楊枝に通し、土の上に刺す。 鈴虫たちにごちそうを与えることを、たいせつな自分の役目としていた。 祖母が鈴

      • ざっことドジョウと私

        ザリガニを食べたことのある私でも、ドジョウは食べたことがない。 柳川鍋には江戸っ子の粋なイメージを抱いているものの、どうにも手が出ない。 以前、うちにはときどき、ざっこ屋さんが来てくれていた。 「ざっこ」とは、「雑魚」のこと。 いろいろな種類の小さな川魚や川エビが、ビニール袋にたくさん詰まったものを、ざっこ屋さんは売りに来た。 自転車にそれらを積んだおばちゃんが、えっちらおっちらやって来た。 買い求めた母は、川エビを乾煎りしてから、酒と塩で炒めた。 ざっこは、しょうが

        • オタマジャクシのこと

          カエルの中でもアマガエルが好きだった。 中学生の頃、庭の水道のそばに住み着いていたアマガエルの「おばあちゃんガエル」と、よく会話を楽しんでいた。 彼女は外灯に群がる虫を求めて壁によじ登り、いつもグレーっぽい保護色をしていた。 「もうすぐ雨が降るよ」 そんな声が聞こえた気がすると、やがて雨が降りだしたことがあった。 カエル好きの私は、もちろんオタマジャクシも大好きだった。 中学生になっても、オタマジャクシがかわいくて、捕りに行きたくてたまらなかった。 飼って、あの音符が泳ぐ

        ビワの木のこと

          桜の下の友

          どうして歳を重ねるごとに、桜の花が好きになっていくのだろう。 一昨年より、去年より、今年のほうが待ち遠しかったし、開花したときのうれしさも強くなっている気がする。 あの控えめなピンク色がいい。花びらの一枚一枚に切れ込みが入っているのもいい。 近くで見ても、遠くから愛でてもよし。散り際まで美しい。 まれに「今年の桜は見たくない」、そんな恐怖にかられることもあるけれど、それでも桜はいつだって春になると、だまってそこで咲いてくれる。 桜が好きだからこそ、見るのが怖くなるのだ

          桜の下の友