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グレイヘアにしたら、やさしさの意味を知った

ナチュラリストでも、崇高な信念があったわけでもない。
しいて言えば、ちょっとかゆくて、面倒になった。

髪を染めるのが。

■2016年9月

月1で美容院でヘアカラーしていたが、1か月もたなくなり、さらに時々地肌がかゆい。
ぼりぼり頭をかく自分がカッコ悪く思えた。
かゆいって切実なのに、痛いに比べてあまり同情されなずどことなく笑っちゃう。
かゆい自分は嫌だ。
そこに、「白髪増えたんじゃない?」と美容師さんのとどめの一言が。

名コピー「いつかはクラウン」のように
「いつかは白髪」にと思っていた。
思っていたけど、まだまだ先で、仕事を辞めて引退した時かなとのんびり構えていた。
でも急に、やめたくなった。

仕事じゃなくて、髪を染めるのを。

しょっちゅう美容院に行くの面倒。
自分で染めるのも冬は寒くて面倒。
幸い会社は、髪が何色でも許してくれる社風。
ありのままOK、レリゴー!

が、一番の不安は髪が伸びるまで、いったいどんな感じになるかだ。
ネットでいろいろ検索してみたが、途中経過はほとんどない。
ビフォアーもあまりなく、アフターのオンパレード。
途中が知りたいの。途中が!
街でグレイヘアの人を見かけると、「そうなるまでどれくらいかかりました?その間どうしていました?」と聞きたくなった。
不安はそれだけじゃない。
勝手にロマンスグレイっぽいいい感じをイメージしているけど、どこにどれくらい白髪があるのか、わからない。
伸びてみたら意外と少なくて、黒の中にちょぴっと白、になるかもしれない。

そんな不安を、美容師さんの
「けっこう白髪だから大丈夫ですよ」
が背中を押してくれた。

当時の私は耳が半分隠れる位のショートカット。
髪は1か月に1cm伸びるそうだから、この長さでも、いや短さでも、髪が伸びきるまで1年以上はかかりそうだ。
長い。
でも、いつかどこかでこの1年を経験するなら、それが今でも悪い理由はない。
グレイヘアを検索すると、出てくる出てくるステキな方々。

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自分もこうなれる気がした。
敏腕編集長になれるかも。
世論をぶった切れるかも。
味のある演技派になれるかも。
とにかくかっこよくなれるかも。
上品でエレガントになれるかも。
男になれるかも。とは思わなかったけど。(笑)
自分の顔はすっかり忘れて、新しい自分、違う自分になれる気がした。

きっと気が違っていたんだと思う。
その証拠に、まずは金髪にすることにしたのだ
というのも、当時、髪を茶色に染めていて、そこに白が伸びてきたらかなり目立つ。金ならうまくなじんでそれほど目立たないんじゃないかと思ったからだ。
美容師さんに相談したら、
「いいんじゃない」と。
いいの?
ほんと?
その時私60歳。
グレイヘア計画スタート!

■2016年10月

グレイヘアの道は金髪から。(私の場合)
染める前はこんな色。真ん中辺り、白髪が伸びてきています。

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一度色を抜いて、それから金髪にすると言われ、途中、この色じゃどこにも行けないと不安になった段階があったが、最終的にはなかなかの時間とお金をかけて、金髪になった!
いいんじゃないの。いいわ、すごくいい!

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         ▲実際はもう少し黄色っぽい金髪

ヤンキーや不良とは縁がないまじめ一筋の人生だったので、まさか自分が金髪になる日がくるとは思わなかった。
美容院からの帰り道、すれ違う人がみんな私を見ていると思ったけ。
気のせいだった。

家に帰って、髪を触ってびっくりした。
弱々しい。
ひょろひょろしてる。
息絶え絶えでかろうじて生きてますって感じだ。
わー、ごめん。
髪にものすごく悪いことをしたと思った。
責任とります。途中でくじけないで、ちゃんと立派なグレイヘアになります。
心に誓う。
※美容師さんから、金髪が退色しないように、白髪が黄ばまないように
ムラシャン」を使うといいよと言われた。
「ムラシャン」って??
Amazonで検索すると、紫のシャンプーで、黄ばみや退色を防ぐと書かれている。

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     ▲エンシェールズカラーシャンプー ムラサキシャンプー

さっそく購入。鮮やかな紫色に最初びびったけど、2日に1回ほど使用してみる。
グレイヘアになるまで、白髪が黄ばまなかったのはこのシャンプーのおかげなのか、元々の髪質なのかは不明。
金髪が伸びてからも3年近く使っていたけど、美容師さんから、「髪が紫色っぽくなっている」と言われて、今は使っていない。

さて、会社に行ったら、普段話したことがない人に話しかけられた。
「攻めてますね!」
そうじゃない。「染めてます」だ。
グレイヘアになるまでの過渡期なのよ。
「似合ってます」と言ってくれる人もちらほらちら。
ほとんどの人は何も言わずに黙って受け入れてくれた。
ありがたい。


■2016年11月(1か月後)

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1cm位伸びた。金髪にしても白髪は目立つ。ところどころ黒髪もいる。
髪が傷んでいて、バービー人形の髪の毛みたい。

■2016年12月(2か月後)

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頭頂部は目立つと言えば目立つけど、横からみると、髪の重なりで伸びたところがあまり目立たない。

■2017年1月(3か月後)

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白髪がだいぶ勢力を増してきているが、全体は金髪のイメージ。
髪の重なりってすばらしい。

■2017年3月(5か月後)

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頭頂部は白髪優勢、横は金時々茶髪と黒、年取った三毛猫のよう。
上が白で下が金。泡の多い生ビールか私。
前髪部分にかなり白髪があったので、前から見るともうグレイヘアの気分。
つくづく思う。
前から見た様子がだいじなのだと。
横や、ましてや後ろは気にならない。
これは私があまり鏡を見ないからか?

■2017年8月(10か月後)

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間があいて、いきなり10か月後になってしまった。
毎月撮ろうと思っていたのに……。三日坊主ならず、5か月坊主。
それだけ年取った三毛猫に違和感がなかったんだと思う。
気が付けば、下の方に少し金髪が残っている程度で、ほぼグレイに。
会社では「だいぶいい感じになりましたね」と声をかけてくれる人が、
一人。

■2017年11月(13か月後)

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こんな写真で失礼します。
写真がないのです。グレイな自分に慣れきって一年後を撮っていない。
なので、今思えば、この写真を見れば、なのですが、一年たって、ほぼ髪は伸び切り、白髪の量もいい感じに。

めでたくグレイヘアになった!

当たり前だけど、敏腕編集長にも、世論をぶった切れるようにも、味のある演技派にも、とにかくかっこよくも、上品でエレガントにも、もちろん男にもなれなかった。
新しい自分、違う自分なんているわけない。
髪が何色でも私は私。顔も頭脳も能力も変わらない。
それでも、地肌のかゆみはなくなり、瀕死の髪は元気になった。
何より、髪が伸びた時のあのプリン状態を気にしなくていい。毎月髪を染めなくていい。楽ちんこのうえない。
そして、赤とか緑とかこれまであまり着なかった色を着てみようかと思うようになった。(この頃はまだ着ていない)

同年代の人から「私もそうしたいんですけど、どれくらいかかりました?」と聞かれること多々。
「最初、金髪にしてから」と話すと、みなさん「え、金髪、私は無理だわ」と。
確かに仕事をしている方は、金髪がOKな職場は多くないと思う。
参考にならなくてごめんなさい。

グレイヘアになって、髪を染めるストレスから解放されて、よかったよかった。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
物語はもう少し続きます。

そんなある日のこと

電車で席をゆずられた。

初めては、若い男子。
「どうぞ」と言われた時、私じゃなく、後ろにいる人に声をかけたのかと思って振り向いたら、
誰もいなかった。
あ、私か。
私なの?
今、私が席をゆずられたの?
状況がよくわからず、「大丈夫です」と断ってしまったら、その場がなんだか気まずい雰囲気になり…。
あちゃー。
わかるよ、私も席をゆずって断られたらちょっとショックだもの。
ごめん、断って。でも私、ゆずられるほど年寄りじゃない。

次の日もゆずられた。
今度は女子から。
またなの?
心中複雑だったけど、気まずい雰囲気にするのは不本意だから、
「ありがとうございます」とゆずられてみた。
その場がほっとした空気に包まれた。
♪それでいいのだー♪
頭の中に天才バカボンのテーマ曲が流れた。

大変だ。
61歳でゆずられる側になってしまった。
これは想定していなかった。
思いのほかショックだった。
服が大好きで、着るものには気を使っている。
お腹のあたりはまずいことになっているけど、おばあちゃんのファッションではないはずだ。(自分調べ)
まだまだ若いのに。(と思うことがすでに若くはないことはわかってる)
まだまだまだ座らなくても生きていけるのに。(ほんとは一駅でも座りたい)

グレイヘアのせいだ。
白髪→お年寄り→席ゆずる
心根がステキな人ほど、このチャートが身についている。
やさしい気持ちでゆずってくれることはよーくわかる。
でも、「私、ゆずられるほど年寄りじゃない」
この気持ちが捨てきれない。
ゆずってもらって座ると、なんだかずるしているような気持になってくる。
いいのかなあ、座っても。
いや、これはきれいごとだ。
年寄りに思われるのが嫌なんだ。
だってまだまだ私は若いから。
若いと思っているから。

■2018年8月

思いあまって、落語好きの私は、春風亭一之輔師匠がwebで連載している<師いわく ~不惑・一之輔の「話だけは聞きます」>に席ゆずられる問題を相談してみた。

音沙汰がないまま1年4か月が経った。

■2019年12月

編集部からメールが来た。
「あなたの悩みを採用させていただきました。つきましては、お礼のサイン入りクリアファイルをお送りしたく、住所を教えてください」。
今ごろ?
相談メールを送った直後は毎月チェックしてたが、最近はサイトをのぞいてもいない。ひどい。
しばらくぶりにのぞいたら、なんと最終回ではないか。
終わっちゃう前に、きた相談にはみんな答えようというやさしい気持ちなのか。
私の悩みはたいしたことがないと見えて、落語でいうと開口一番、大御所のの悩みに入る前に使われていた。
悩みの前座だ。
でもありがたい。
天下の一之輔師匠に答えてもらえるなんて!
サイン入りクリアファイルがもらえるなんて!

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        ▲サイン入り特製クリアファイル

これもグレイヘアにしたおかげ!

一之輔師匠からは、屈折しているけど愛のある回答をいただいた。
「やさしくされた側も、相手の行動に「やさしく」対応する。座ることが相手へのやさしさ。他人に比べて自分は若いと思っている人(私のこと)にまで若者が席を譲るなんて、いい世の中じゃないの。鏡をみてごらん、ほら、あなたは立派なババア」
詳しくは↓


そうか、そうだよね。
やさしさの意味を知った。
以後、ゆずられた時はありがたく座らせてもらっている。
ゆずられることにも少しずつ慣れて、疲れている時は、むしろゆずってくれないかとさえ思うほど、図々しくなった。
それでも、心の片隅に「私、ゆずられるほど年寄りじゃない」はある。
そして、まだ席をゆずることもある。

■2021年1月

電車のなかでいきなり肩をたたかれた。
振り向いたら全然知らない人が、「こっちに座りませんか」」とほほ笑んでいる。
えええーーー、初めてのパターン。
今までは、自分の前に座っている人がゆずってくれるパターンで、遠くから呼びにきてくれたことはない。
心の準備ができてなく、次の駅で降りるから(事実)と断ってしまった。
私はついに、「目の前」から「呼ばれる」にレベルアップしてしまったのだ。
これは、かなりショックだった。
ショックというか腹立たしい気持ちさえある。(ゆずってくれた人ごめんなさい)
でも考えてみれば、グレイヘアになってから約4年経っている。
その分、歳をとっているってことだ。
もう若くない。どころか、他人からみたらオバさんじゃなく、おばあさんなのだ。
だけど、「呼ばれる」のは嫌だ。まだ早い。

そうだ、また金髪にしよう!
金髪の自分はけっこう気に入っている。
でもそれは本末転倒。染めたくなくてグレイヘアにしたのに、染めてどうする。
それに金髪にした時のあの弱々しい髪を忘れたの?
すんごい派手な服を着ようか?
それは、よけい年齢を強調しそうだ。

グレイヘアにする間も、してからも、いろいろなことが起きる。
「呼ばれる」の次はなんだろう?
私はいったいどこまでレベルアップしていくのだろうか。

自分の老いを受け入れることは難しい。
いつまでも若くいたいと思うけど、「若作り」はしたくない。

「四十にして惑わず」どころか、惑い続け、
「五十にして天命を知る」わけもなく、
「六十にして耳順う」こともできずにいる。
「七十にして心の欲する所に従えども、矩を踰えず」となりそうもない。

「六十三にしてやさしさの意味を知り、六十四にして、呼ばれるのを恐れる」by凡人

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