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商店街のあゆみ


商店街のあゆみ
/panpanya


 ところで先に挙げた『ふたりで木々を』も『いっていっぱいいって』も、作品論というよりむしろ作家論になってない? などと思われた方々。うん、然りである。ショートショート作品集なので1000字では大掴みでしか語れないというのもあるけど、平方イコルスンも位置原光Zも余りにも個性が安定し過ぎていて単行本ごとの評価を付けづらいのだ。なので点数についても無難に8点でお茶を濁してたりする。

 本作もまた白泉社の楽園(自称恋愛系コミック最先端)からpanpanyaの最新短編集である。人間の生活を構成している「もの」や「まち」に対する独特の偏愛と想像力、懐かしさと不安を同時に感じさせるレトロで緻密な描写、空想的な無茶を強引に押し切るDIY精神、胡乱で出鱈目だけどやたら説得力のある解説……そして繊細な感性が滲み出る日記と解題。総じて趣味性の強いアングラな作風ではあるけれど、極端にふわっとデフォルメされた主人公達がナビゲーターとなって物語の輪郭をはっきりさせてくれるので案外と読み易い。既に十冊も単行本を出しているが安定感も抜群である。

 そう、個性の安定感が抜群だからこそ、ついつい大掴みな作家論でお茶を濁してしまいがちになる。ピカソの前衛的な作品を鑑賞して「ピカソだなぁ」といういつもの感想に落ち着いてしまう感覚。単に僕の到らなさが大きいのだけども……とはいえ個性の安定感だけで本作を語るのはやはり勿体無いとも思う。ごく身近な人工物の造形や用途、僕達が見逃してしまうような些細な街の光景、そういった有り触れた無機質な「もの」や「まち」をじっくりと観察し、その生々しい存在感を空想的に拡大し、尤もらしい屁理屈を並べて形態を固定し、まるで有機的な異形の生命であるかのように「騙ってしまう」手際はやはり天才としか言い様がない。家屋や自動車は融合するし、ビルディングは育成出来るし、商店街は移動するし、挙げ句に自分が何処にいるのかすら分からない、そんな悪夢じみた非現実な世界でありながら、人間の生活の手垢がじっとり染み付いたリアルな質感が立ち現れているのだ。

 確かな観察眼と途方もない空想力によって描き出される、唯一無二でありながら馴染み深くもあり、何処にでもありそうで何処にもない世界。そしてこんな孤高の才能がコンスタントに商業で単行本を出せる環境を用意してる楽園(自称恋愛系コミック最先端)の凄さよ……

★★★★★★★★★☆
9784592712312 白泉社


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