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いっていっぱいいって


いっていっぱいいって
/位置原光Z


 「白泉社の楽園(自称恋愛系コミック最先端)で掲載されてた非常識系対話型ショートショート作品集」と説明すると、平方イコルスンだけでなく位置原光Zまで該当してしまうから不思議だ。どちらも全編手書き文字だし、トーンを極力使わない徹底した線描派であるところまで似通っている。まるで同人文化の延長にあるようなフリーダムで個性迸る作風だけど、しかし両者はやはり決定的に異なる才能であるのも間違いない。

 位置原光Zの真骨頂はエロネタである。下品さという意味では下ネタと言うべきかもしれん。なんせこの作者、一般向けとはいえワニマガジンの快楽天に連載を持っていたぐらいなのである。変な方向性の性欲や性癖を抱えた若い男女が織り成す、色んな意味で際どいコミュニーケーションを描いたドタバタコメディ作品集……ではあるのだけどこれが不思議なことに、何故だか、位置原光Zの作品からは仄かに「健全さ」のようなものを感じたりする。いや内容的には全くもって健全なわけがないのだけど、むしろ平方イコルスンのほうがよっぽど不健全に思えてしまうぐらいに安心感がある。

 エロネタも、下ネタも、簡単に一線を越えてしまったらコメディから遠ざかってしまう。重要なのはエロや下品の一線を越えないスレスレまで如何に際どく攻めることが出来るかである。確かに変な方向性の性欲やら性癖やらをバラエティ豊かに次々と繰り出せるのも特異な才能なのだけど、そうやって用意したシチュエーションの何処に最後の一線があるのか、何処まで最後の一線に近付けるのかの嗅覚がこの作者は非常に鋭いのだ。登場人物達の誤解や擦れ違いをそのまま読者へのフェイントに転用し、荒唐無稽で非常識な男女のコミュニケーションをそれとなく巧みに誘導し、どんなにバタバタした展開であろうとぴったり最後の一線を越える寸前でFinへと辿り着く。勢い任せな行き当たりばったりな作風に思えて(多分実際に行き当たりばったりな部分もあるのだろうけど)何故か安心して読めてしまう、そんなギャップがこの作品集の奇妙な魅力になっているのだと思う。

 因みに、空き頁に描かれてる美少女イラストは普通に一線を越えてエロい。そして一般向けとはいえ快楽天が初出である『青春リビドー山』は明らかに最後の一線を超えたところでコメディを展開している。そのへんの位置原光Zの底知れなさについては、また別の機会ということで……

★★★★★★★★☆☆
9784592712343 白泉社


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