小説_ZEROから始める血盟生活

ZEROから始める血盟生活 No.30

体長20メートルにも及ぶアルファーと思しき化け物は、小屋を破壊し、今現在、私達が居る場所に向かって来ていた。

「あ、あれがアルファーだって言うの?何故あんな姿になっちゃったのよ!」

「それは俺にもよく分からんが、兎に角あの化け物を何とかしないと、俺達はおろか、村の住人にも被害が出ることは間違いないってことだ!!」

この時スバルは焦っていた!エルザを撃退し、ペテルギウスを倒したまではいいが、それらにこちらの戦力を大幅に削られた為、今戦えるのは自分か治療魔法で魔力の殆ど残っていないエミリアくらいしか居ないからである。

自分はおそらく、この中で最弱に近いだろう、エミリアも魔法が使えないのならば、ほぼ普通の女の子と変わらない。
この戦力では、あの化け物とまともに戦うことなど不可能に近い。

ならばこの絶対絶命の状況で自分に出来ることと言えば…

「ねこ、いいか。これから俺が、あの化け物を暫くの間足止めする。その間に一旦この場から離れて、何とか体制を整えてくれ!」

「ちょっと!足止めするって言うけど、一体どうやって?こう言っちゃぁなんだけど、スバルには少し荷が重すぎるんじゃない?」

私は彼の全て見たわけではないが、少なくともあの化け物を足止め出来るほどの力があるとは到底思えなかった。

「俺だって伊達に修羅場をくぐってきた訳じゃない。お前らみたいな達人には効かなくても、理性を失った化け物を足止めする方法なら持っているんだ。まぁ、仮に失敗しても、又最初からやり直せばいいって事だ!」

最初からやり直すとは死に戻りをするということになる。スバルはそこまでの覚悟を決めて、アルファーの足止めをするのだ。

私は彼の目を見ながら静かに頷くと、差し出された握り拳と同じ形に握った拳をグッと合わせて、スバルの立てた作戦が成功するようにと、お互いを励まし合ったのだった。

「それじゃぁ行きますかー!!」

そう言うと、スバルは化け物と化したアルファーに向かって走り出して行った。

「うおぉぉ〜!!これを使うのは久々だからなぁ、頼むから上手くいってくれよぉ〜。
シャマァ〜ク!!!」

スバルが呪文!?を唱えると、彼の周りから黒煙が立ち登り、周囲を真っ黒な闇が覆っていった!!

……………。

……………。

……………。

暗闇の中でアルファーは全く動かなくなってしまう。眠っている? いや、考えことか?
何かこう、瞑想のような状態にも見えた。

スバルはそれを見届けると一旦シャマクの外に出て、彼の作戦通りに体制を整えるためにアルファーから離れようとする私達を呼び止めた。

「おい、ねこ!!何か様子が変だ!ちょっとこっちに来てくれるか!?」

それを聞いた私達はスバルの元に駆け寄り、全く動かなくなってしまったアルファーの警戒をしながら、もう一度作戦会議を始めるのだった。

「これがスバルの言っていた作戦なの?こんな凄い魔法が使えるなら始めっから使えばよかったのに。」

「いや、シャマクにここまでの効果は無いはずなんだ、精々少しの間だけコイツを足止めするくらいが関の山だと思ってたんだけどな…。」

「そうなんだ… で、これからどうするの?いっそこのまま人が居ない山奥にでも連れて行く?」

「う〜ん。下手に刺激して、又暴れ出したりしたら面倒だからなぁ。」

「それもそうね…。」

アルファーをこのままにしておく事も出来ない、かと言って無理に動かす事も危険が伴う。私達がどうすれば良いのか思案していると、不意に私の頭の中で以前何処かで聞いた事のある声が聞こえてきた。

(( お母さん… お母さん… ごめんなさい…。))

「え!? スバル。 今何か言った?」

「うん? 俺は何も言ってないぞ。」

((お母さんごめんなさい…私が悪い子だから))

「ほら、また聞こえたわ!!」

「さっきからどうしたんだ?俺には何も聞こえなかったぞ?」

「変ねぇ…。皆んなにも聞こえていないの?」

私がエミリアやルウさん達に尋ねるが、皆んな揃って首を横に振るだけだった。
どうやら私だけ聞こえているようだ…
それにしても、この声は何処かで聞き覚えがある声だった、何処で聞いたのか…思い出せない…

「「おい、ねこ!おいったら…ねこ…」」

………。
………。

聞き覚えのある声を思い出そうとしているうちに、いつの間にか私は深い眠りに就いてしまっていた……

何も無い草原…辺りは暗い闇に覆われている…

「あ!? 思い出した!ここは夢で見た所だ。何故今まで忘れていたんだろう…。」

私は気がつくと、前回夢に見た場所に立っていた。辺りを見回すと、やはり一人の少女が座り込んでシクシクと泣いている。

今なら、あの少女がアルファーだとハッキリ
分かる。そして私は彼女の元に行き、話し掛けることにした。

「どうしてまた泣いているの?」

「お母さんが居なくなって…お父さんまで居なくなっちゃったの…」

お父さん…ペテルギウスのことか…
私達には厄介な相手でも、アルファーにとってはたった一人の親代わりだったのだろう…そんな人を失った悲しみと怒りから、あんな化け物と化したとしても…
現に、私も牛かつさんが殺されてしまったと思い込み怒りに任せてペテルギウスを殺したのだから…
しかしアルファーをこのままにしておくわけにもいかない。
そう思った私は、アルファーを何とか説得しようと心みることにした。

「どうしてお母さんは居なくなったの?」

「私が悪い子だから居なくなったの。」

「悪い子? あなたが何かしたの?」

「うん、お母さんがお父さんのお友達に虐められていたから、そのお友達を殺してしまったの。そしたらお父さんが怒ってお母さんを何処かへ連れて行ってしまったの…」

「それはあなたが悪いんじゃないわ!お母さんを助けてあげただけでしょ?」

「うん。でも、お父さんは私が悪い事をしたからお母さんが居なくなったって言われたの。」

ホムンクルスであるアルファーの母親とは育ての親なのか…それとも、彼女を創り出す為に母体として使われた産みの親なのか…
どちらなのかは分からないが、子供にとって母親とは掛け替えのない存在であることは間違いない。それを理不尽に引き離しておいて尚、彼女が悪いと教え込むとは…ペテルギウスは何と悪どい事をするのか…
そんな奴のことだ、恐らくはその母親ももうこの世には居ないであろう。
暫く考えた結果、私は一つの結論を導き出した。

「あなたは、お母さんを連れて行ったお父さんをどう思っているの?」

「お父さんは私には優しくしてくれたの。お菓子もいっぱいくれたし、沢山お話しもしてくれた。一緒に遊んでくれて…」

「お父さんのこと好き?」

「うん、大好き!」

「お母さんよりも?」

「それは…」

ここでアルファーは少し躊躇してしまった。
やはり母親の方が好きなのか、答えを出せないでいる。

「アルファーよく聞いてね、虐めた人を殺すのは良くないけど、お母さんを助けたのは悪い事じゃないの。寧ろ、それを悪い子って教えた父さんの方が間違っているのよ。」

「そうなの?」

「うん。お父さんはあなたに優しくしてくれたかも知れないけど、それは試練の儀式って言うのを受けさせる為に利用しようとしていただけなの。本当のお父さんじゃないし、とても悪い人だったのよ。

「……。それじゃ私はこれからどうしたらいいの…」

「何も心配する事はないわ!これからは、私があなたのお母さんになってあげる。」

「お姉さんがお母さんになってくれるの?」

「そうよ!あなたは私が責任を持って育ててあげるわ。だからもう泣かなくてもいいのよ。」

「お母さん。私の新しいお母さん!!」

アルファーは元気を取り戻し、私をお母さんと呼びながら抱きついて来てくれた。
彼女を救う為とは言え、私に突然小学生ほどの子供が出来てしまった!!

「じゃぁ、お父さんは?お父さんは誰なの?」

「え!? お、お父さんは…ぎ、牛かつさんかな…」

「牛かつお父さん?何だか美味しそうなお父さんだね!食べてもいいの?」

「ダメ!!食べたら絶対にダメ!因みにお兄ちゃんはレオニールかな?」

「レオニールお兄ちゃん?お兄ちゃんも食べちゃダメなの?」

「いいよ!お兄ちゃんは食べても大丈夫。でも、痔になるかも知れないから、あまりお勧めはしないかな。」

「ふぅ〜ん。じゃあ要らないや!」

「そうだ!あなたに新しい名前を付けてあげる。アルファーじゃあ記号みたいで可哀想だしね。」

「名前?どんな名前を付けてくれるの!」

「そうねぇ〜どんなのがいいかなぁ〜…
う〜ん、じゃあZEROに因んで〝ロゼ〟っていうのはどうかな?」

「〝ロゼ〟!!私の新しい名前!!嬉しい、ありがとう!お母さん。」

「それじゃ、ロゼ。皆んなも心配してるだろうから、そろそろ帰ろうか!」

「うん、分かった!お母さん。」

こうして親子になった私達は夢の世界から抜け出し、深い眠りから目を覚ますことにした。

………。

………。

「「こ!!…ねこ!…おい、ねこ大丈夫か?」」

スバルに体を揺すられ目を覚ますと、私は『ムクリッ』と上半身だけ起き上がり、辺りを見渡した。
すると、私が寝ていた真正面の少し先に元の可愛らしい姿に戻って倒れているロゼを発見する。

「ああ、あの化け物は、お前が眠って暫くしたら元の女の子の姿に戻ったんだ。」

スバルは、私が眠ってしまってからの状況を説明してくれた。

「それより、ねこは大丈夫なのか?急に倒れたかと思ったら、グーグーと眠りだしたんだぞ!」

ペテルギウスとの死闘で疲れていたとはいえ、あの状況下で眠るなど普通ならばあり得ない。そんな私を心配してスバルが尋ねるのだが。

「心配させてゴメンネ。ちょっと夢の中で〝ロゼ〟と話をしていたの……」

私は夢でのやり取りを事細かく皆んなに説明したのだった。
特にZEROの皆んなは私がロゼの母親代わりになり、彼女を私の子供として育てると話した時は、かなり驚いてはいたが、ロゼの身の上話を語ると納得といった表情を見せていた。
そして、説明を終えた辺りでロゼがようやく目を覚ましだした。

「う、う〜ん。ここは何処デスか?」

化け物の状態から子供の姿に戻った為、服が破れて裸同然であるロゼに、エミリアが自分の着ている上着を着せてあげて、優しく彼女の頭を撫でながら、抱きかかえるように立たせると私の元まで連れて来てくれた。

「ロゼ、何処も怪我とかしていない?もう何も心配しなくてもいいのよ。お母さんがあなたを大切に育ててあげるからね。」

「う、うぇ〜ん。お母さん、お母さん、お母さんは何処へも行かないでね〜 」

「うん、うん、何処へも行かないよ!これからずっと一緒にいようね!!」

私は泣きじゃくるロゼにつられて涙を流すと、彼女をしっかりと抱きしめた。
この子を一生大事にしようと心の中で自分に言い聞かせながら……

らんちゃん♪
@rantyann_0627
https://twitter.com/rantyann_0627

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