小説_ZEROから始める血盟生活

ZEROから始める血盟生活 No. 31

ロゼが目を覚ましてから約一刻ほどの時間が経過したか。私達は行方不明になった、ある人物を探していた。

「ねぇ、そっちはどう!見つかった?」

私を含め、ロゼ、ルウ、牛かつ班は小屋があった西側を捜索していたが見つからず、集合場所である瓦礫となった小屋まで戻って来ていた。

一方スバル、エミリア、レム、レオニール班の4人は小屋の東側の担当であったが、こちらも見つからなかったのか、私達と同じく集合場所である小屋まで戻って来た。

「いんゃダメだった。一体何処へ行っちまったんだ、アイツは… 」

ZEROのメンバーならば既に気付いていると思うが、さっきから私達が探している人物とは何を隠そう、あの問題児娘アウローラさんなのである!

私達が幽閉されていた水車小屋とは別の小屋に向かったレム達と一緒に行動していたはずなのだが、いつの間にか姿が見えなくなっているとレオニールさんが言い出し、皆んなで手分けして捜索している真っ最中なのだ。

「もぅ!やっとループから抜け出し、問題が解決して帰れると思っていたのに。あの子は何処に行っちゃったのやら… 」

「お母さんは誰を探しているのデス?」

私が腕を組んでイライラを募らせていると、牛かつさんに肩車されて遊んでいたロゼが不思議そうに話しかけてきた。

(いいなぁロゼは。私も牛かつさんに肩車や、お姫様抱っこされてみたいよ…)

「え!?あ、うん。えっとねぇ…私達とこの世界にやって来た、アウローラさんって言うお姉さんを探しているのよ。」

「ローラお姉ちゃん?それならロゼ何処に居るか知ってるデス!」

何とロゼは、アウローラさんの居場所を知っているのだと言い出した!驚いた私達は、ロゼに詳しい話を聞くことにした。

彼女が言うには、夢の中で私が現れる少し前にアウローラさんがやってきて、お喋りをする内に仲良くなったのだとか。(オイオイw)
それからアウローラさんがその場を立ち去る前に、これからこの世界を見物する旅に出る! 最初の目的地はメイザース領の隣にあるグルニカ共和国城跡地だと言い残していったらしい。(アウさん…)

「グルニカ共和国城跡地なら、ここからほぼ一本道だから、今から急いで行けば途中で追いつくかも知れないわね。」

ロゼの話を聞いたエミリアがそう言うと、私達はスバルの竜車に乗り込んで、急いでアウローラさんを追い掛ける事にした。

「エミリアたん、目的地まではどの位かかりそうなんだ?」

「そうねぇ。このスピードなら半日ってところかな。」

「そりゃヤバイな、このままだと目的地に着くのは深夜になっちまうぞ!」

今は、日がかなり沈んで夕暮れ間近といったところだった。地球の感覚でいえば、午後5時を少し回った辺りか…
日本は文明が進んでいるので夜でも街頭や街の明かりなどで十分と言っていいほどに明るいが、この世界の夜はそんなことはなく、精々月明かり程度だろう。まして、今竜車が進んでいる道の周りは森が鬱蒼と茂っており、明かりといえば竜車に備え付けられているランタンしかない。
そんな中で人一人見つけるのは、不可能であろう。
それを心配したスバルは、暫く考えてから、結論を出した。

「今日は諦めて何処か宿に泊まって、明日の朝一番にグルニカ共和国城跡地にアウの奴を探しに行こう。」

「でも、グルニカ共和国城跡地って言っても観光名所なんかじゃなくて、只広いだけの荒廃した城下街跡だよ!そんな所でその子を探し出せるのスバル?」

「そうだな、難しいと思うが、夜にこの森を進む方が危険も多いし、探すのにも困難だと俺は思うぜ!」

結局は皆ながスバルの意見に賛成することにし、この日は山道から少し外れた宿場町の宿屋に泊まることにした。

宿に着くとレムが受け付けカウンターに行き8人分の部屋を用意してもらう。

「8人で一泊したいのですが、部屋は空いていますか?」

受付には腰の低そうな30台前半の男が立っていた。男はこの宿の亭主には見えず、、雇われ番頭か何かに見えた。
その番頭はレムの問いかけに対してこう答えたのである。

「すみませんが、今日は大変混み合っていて、4人部屋が一つと、二人部屋が2つしか空いていません。それでも宜しいですか?」

それを聞いたレムが部屋割りをどうするか皆んなに相談しに来た。

「そうだなぁ…男3人に女5人かぁ。誰か一人は俺達男と一緒の部屋になるけど、誰がいい?」

男3人の中に女が一人だとぉ!?じゅ、じゅルリッ!私は思わずヨダレをこぼしそうになったが寸前でそれを拭い取り、動揺を隠しながら右手を上に挙げて立候補しようとしたが、それをつぶさに察知したレムが私の前に移動して阻みに来た!

「では、ここはメイドである、このレムが4人部屋に泊まる事にします。」

「ちょ、ちょっと待った〜!!」

「何ですかお客様。主人であるスバル君のお世話をするのはメイドとして当然の事です!何か問題でもあるのですか?」

「そんなこと言ったらエミリアだって主人じゃない!エミリアは王選候補なのよ。当然エミリアの方が立場は上のはず!普通ならレムとエミリアが二人部屋に泊まるべきじゃないの?」

「くっ!! しかしそれではスバル君の隣で寝ることが…もとい、お世話は誰がするのです!!」

私とレムが口論している間に、呆れた皆んなは、ロゼを4人部屋に入れる事に決め、それぞれの部屋に向かっていた。そして誰も居なくなったロビーでは…

「お客様が余計な事を言うから…」

「な!? それはこっちのセリフよ!!」

……。

……。

そして虚しくなった私はルウさんの部屋に、レムはエミリアの部屋にそれぞれ別れて行ったのだった。(とほほ…)

宿屋に着いたのは、もうすっかり日も沈んだ午後8時を回った辺りだったので、当然皆んなお腹が空いている。
8人は、この宿の酒場兼食堂に集まって少し遅めの晩餐を楽しんでいた。

「それにしてもアウローラさんは、何故急に旅に出るなんて言い出したのかなぁ?」

食前に出されたアーリア豆スープを飲みながらエミリアが不意に疑問を投げかける。

私は片手で頭を押さえながら溜息混じりの返事をしてエミリアの疑問に答えた。

「はぁ、アウローラさんはね、いっつもこうなの。自己中心的というか、天真爛漫な性格なのよね…まぁ、そういうところが可愛くて憎めないんだけど。」

この後もアウさんの話題で話が盛り上がり、明日の捜索範囲についての会議をしていると、先程まで受付けをしていた番頭さんが酒場のステージに上がり、何やらイベントを開催すると言っているようだが特に興味がなかったので聞き流していた。

( 何と今夜の歌姫は今日が初デビューの新人さんが歌ってくれます〜!それでは歌って頂きましょう!ローラさんで、『キュウーティーハニー!!』)

テテテテッテテーテー♪♪ テッテテテー♪

「この頃流行りの女の子〜♪ お尻の小さな女の子〜♪ こっちを向いてよハニー〜♪
だって何だか♪だって♪だって何だもん〜♪

テテッテーッテー♪

「お願い〜♪お願い〜♪傷つけないで〜♪私のハートは〜♪チュクチュクしちゃうの〜♪イヤよ♪イヤよ♪イヤよ見つめちゃイヤ〜♪ 」

テテテーッ♪

『ハニー〜♪フラッシュ〜♪♪』

「私とルウさんでこの範囲を探すから、スバル達は……ん? 何だか聴き覚えのある歌ね…」

会議の最中発言していた私は、何処かで聴いたことのある曲が自然と耳に入ってきていることに気が付いた。

そしてステージで歌っている歌手に目を向けると、その人はピンク色の透けた布で鼻から下を隠しており、豊満な胸を強調したインド風の綺麗なドレスを身に纏っていた。

「どうしたんだ。 ねこ?」

歌姫を気にしていた私にスバルが話し掛けてきた。

「ん、なんかあの子何処かで見たことがあるのよねぇ。」

顔は目元しか分からないが、全体の雰囲気が私の知っている女性であることはなんとなく分かる。しかし、誰か迄は思い出せないでいた。

(続いての歌は歌姫の18番だそうですよ!皆さんお楽しみに〜 )

テレッテレテレテレ♪…

「ゴメンね〜素直じゃなくて♪夢の中なら云える♪思考回路はショート寸前♪今すぐ 会いたいよ♪ 泣きたくなるような moonlight♪電話も出来ない midnight♪」

♬♪♫🎶 ♪♬🎶♬ 🎶♪♬♬ ♪♪♫♬🎶

「月の光に ♪ 導かれ ♪何度も 巡り会う♪♪星座の瞬き数え♪ 占う恋の行方♪同じ地球(くに)に生まれたの ♪ ミラクル・ロマンス 信じているの♪ ミラクル・ロマンス🎶」

「あー!!思い出した〜っていうかアウさん居た〜!!」

『『『 何だって!!!〜〜〜』』』

LR要塞準決勝でアウローラさんが超ドワ子を魅了した際に見せた歌を思い出した私は、あの歌姫がアウさんだと気付いて思わず大声で叫んでしまった。
その声に驚き食事をしながら話をしていたZEROのメンバーやエミリア達は、一斉にステージの方を振り向いたのだった。

「あの歌姫がアウだっていうのか!?」

「うん、間違いないわ!前にあの歌を歌っている所を見たことあるもの!」

「…よっしゃ〜!そうと分かれば、また居なくなられちゃ困るし、皆んなで取り囲んで捕縛するか!!」

食卓の上にあったナフキンで口の周りに着いたタレを拭き取り、『ダンッ!』とナフキンを元の場所に置く勢いで立ち上がったスバルは、アウローラ捕縛の指示を皆んなに伝えた!

彼の指示に〝コクリッ〟と頷きながら立ち上がった皆んなはステージ上でノリノリに歌っているアウさんの居る場所にゾロゾロと歩いて行く。

「アウさん、やっと見つけたわ!!もう何処へも行かせないわよ!」

逆転裁判に出て来る主人公ばりに指を突き出し、カッコ良くポーズを決めた私は、彼女を追い詰めたのだったが…

『 異議あり!!』

「な!!!? 何故そこで出て来るかな。レオさんは!何、私の言うことが間違ってるとでも言いたいの?」

バァッ!っと手を突き出し異議を唱えるレオさんを私はキッ!!っと睨みつけた。

「い、いや〜ただちょっと言ってみたくなって…ゴメンなさい。」

ただ単に異議ありというセリフを言いたいだけだったレオさんは照れ臭そうに手で頭を掻きながら自分のした行いを反省してか、直ぐに〝シュンッ〟っとなり土下座をして謝ったのだが…

「折角私が格好良く決めたのに何してくれるの!ちょっとそこに座りなさい!!」

「あ、もう座ってます…」

「口答えしない!」

「あ、は、はい…。」

っと私がレオさんにお説教している隙にステージから逃げようとしたアウさんを牛かつさんが彼女の襟を掴んで〝ヒョイッ〟っと持ち上げて捕まえてくれた。

「あうっ…。」

「あ〜!アウさん、また何処かへ行こうとしたわね!牛かつさん捕まえてくれてありがとう。」

「なんの、なんの。」

「さぁて、アウさんもう逃げられないわよ!一体どうして旅になんか出ようと思ったのか理由を聞かせてもらおうかな。」

私は袖もない服装なのに捲くる仕草をし、腰に手を当てながらアウさんの奇怪な行動の理由を説明してもらうことにした。

アウさんは、捕らえられ観念した兎の様にショボくれ沈黙していたが、暫く経つとようやく口を開きだした。

「……実は…私はこの世界で生まれたの…。」

「あー、そんな嘘いいから、本当のこと言いなさい!」

「チッ♪」

「コラ!!可愛い舌打ちしない!」

「…その…何って言うか…気分転換?っ的な…ノリで?」

「やっぱり!特に理由はないのね?」

「はい。」

「もぅ!皆んなにいっぱい心配させたんだからね!分かってるの?」

「お母さん、ローラお姉ちゃんを叱らないで欲しいデス!」

私がアウさんにお説教をしていると、心配したロゼが両腕を大きく広げて、彼女と私の前に割って入って来た。

「ロゼ、お母さんは叱ってるんじゃないのよ。お姉ちゃんにね、皆んなをどれ程心配させたかって事をわかってもらいたいの。」

「ローラお姉ちゃんは皆んなを心配させちゃったの?」

ロゼがアウさんの方へ振り向き、不安そうに見つめると、何も言い返せないのか、アウさんは〝コクリッ〟と頷いた。

「もう、これからはそんな事しない?」

「……〝コクリッ〟。」

「じゃ、皆んなにゴメンなさいって言おうね!」

アウさんはロゼにそう言われると、改めて皆んなの顔を見渡し、半泣き状態になりながらも深々とお辞儀をして。

「私の勝手な行動で、皆さんに心配をお掛けしました。これからは心を入れ替えて良い子になります!皆さんゴメンなさい。」

お辞儀をして謝るアウさんの頭をロゼが〝ポンッ、ポンッ〟と撫ぜながら〝ニッコリ〟と笑うと、事情を知らない酒場の客席からパチッ、、パチッ、パチッパチッパチパチパチパチパチっと拍手が漏れ出し。それはやがて酒場中に広がり大歓声へと変わっていったのだった!!

「「いいぞ嬢ちゃん!!何か知らねぇが、おぃちゃん感動したぞぉ〜〜!!」」

「えへへっ 」

私は、照れ臭そうに鼻を摩るロゼの頭を撫でてやり、「さすが私の娘ね!偉い、偉い。」
と褒めてあげた。

『パンッ!!』

「さぁ!!これでこの件も無事解決したと言う事で、今からここでエミリア&ねこ救出成功祝いの祝勝会をするか!」

一件落着といった様子で柏手(かしわで)を打ったスバルが、これからこの酒場で祝勝会をしようと言い出すと、さっきまで正座姿で落ち込んでいたはずのレオさんが待ってましたと言わんばかりにマイクを片手に歌い出した。

「一番、レオニール歌います!!」

「 ねこ 踏んじゃった ねこ 踏んじゃった ♪
ねこ 踏んづけちゃったら引っ掻いた♪ ねこ 引っ掻いた ねこ 引っ掻いた ♪ ねこ ビックリした 引っ掻いた〜♪♬ 」

「「 いいぞ〜兄ちゃん!!わぁははは〜!」」

レオさんは思いのほか上手かったが、選曲のチョイスが無性に気にくわない。
これは、後でたっぷりとお仕置きする必要があるなと思っていると、隣でルウさんがレムに何やら耳打ちをしている。
それを聞いているレムも〝うんうん〟と頷き、時折り表情が〝ぱぁ〜〟っと晴れやかになり、かなり喜んでいるようだった。
一体何を話しているのやら…
そうこうしている間にレオさんの歌が終わり、満足な様子でステージから戻ってきた。

「レオさん、歌上手いね。以外だったわ。」

「え!?そうかな。ありがとう!まんまさん。」

「でも、選曲のチョイスがなんかムカついたから後でお仕置きね♪」

「え〜〜!!そりゃないよ〜許して下さい!」

「ダメ!許さない♪」

「そこを何とか…」

「絶〜対にダメ!♪」

いつものようにレオさんをからかっていると、今度はレムがステージに上がっていた。
少し緊張しているようだが、マイクを自分の背丈に調節して貰っているところを見ると、どうやら何か歌うみたいだ。

「に、2番レム歌いましゅ!!」

レムが噛んだ!相当緊張しているのか?

「見〜上げて〜ごらん〜♪ 夜の〜星〜お〜♪ 小さ〜な星〜の〜♪ 小ぃ〜さ〜な光が〜♪ささやか〜な〜♪幸せ〜を〜歌あ〜てる〜♪ 」

♪♪♫♪ ♪♬🎶 ♪♬🎶♪ ♬♫♪♬ ♪♪♬♫ ♪♪♪♬

あ〜何てレムにピッタリの曲なのだろうか…
さっきまでレオさんの歌にノリノリだった酒場の客達もレムの歌声に、幸せそうな顔で目を閉じ、ウットリと聴き入っているではないか…

ルウさんはレムにこの歌を唄わしたくて耳打ちしていたのだろう。ナイスだ!ルウさん。
スバルもレムの歌を聴きながら少し頬を赤らめているみたいだ。
これでレムの想いが彼に届けばいいのに…

酒場中が幸せな雰囲気で満たされながら、レムの歌は静かに終わりを迎えたところで、お次はルウさんの登場となった。

「皆んなぁ〜♪レムちゃんの歌声で〝ほっこり〟なったと思うからぁ、今度はこの私、ルウがノリノリな歌を披露するよぉ〜♪」

「「イエーイ!!ルウちゃん頼むぜ〜!」」

「それじゃぁ、いっくよぉ〜♪」

「あ、1、2、1、2、3 ♪♬🎶♪ 」

「A 〜YOU Lady 〜 ♪♪ Hay〜 Hay Hay Hay 〜 Hay ♪ (ヘイ〜ヘイヘイヘイ〜ヘイ) Hay〜Hay Hay Hay 〜 Hay ♪ (ヘイ〜ヘイヘイヘイ〜ヘイ♪) Hay♪Hay♪HayHayHayHay ♬ 」

「勉強する気も♪ しない気も♪ この時〜きに掛かぁ〜っているんだよ♪ こ〜の〜クラスで一番の〜美人の隣を〜♪♪ 」

「あ、あぁ〜♪ 皆んなライバルさ〜♪ あ、あぁ〜命がけだよ〜♪ Hay HayHayー♬…」

「「「わぁ〜〜!!!♬🎶 」」」

さすがルウさんといったところか、今度は酒場中が大盛り上がりで、客全員が踊り出し、まるで宿屋全体が揺れているかの様に振動しているのが分かる!

♪♬🎶♬〜〜…ジャガジャン♬

「皆んなありがとぉうぅ〜♪ 」

「「ルウ!ルウ!ルウ!ルウ!ルウ!」」

おいおいw何だかライブみたいになって来たぞ!
この後も酒場の客全員とで飲めや歌えの大盛り上がりとなり、その日は夜遅くまで続いたのだった。

ん?私は歌わなかったのかって?
人見知りの私が大勢の前で歌など歌える訳がないでしょ!

………

…………

……………

ガタッ ゴトッ ガタッ ゴトッ ガタッ ゴトッ ガタッ ゴトッ ガタッ ゴトッ ガタ ゴトッ

「……う、う〜ん……ん?……あれ〜…何故竜車に乗って居るの?」

朝起きると私は竜車に乗って移動していた。
スバルとレムは御車台で仲良く喋りながら手綱を引いている、エミリアとZEROのメンバー達は座席に座って何やら雑談中であった。

「あ、ねこっちやっと起きたのねぇ♪」

「お母さんは寝坊助デス!」

私が目を覚ましたことに気づき、ルウさんとロゼが話しかけてきた。
次に、それを聞いたスバルが話し出す。

「お前、起こしても中々起きないから、そのまま竜車に乗せて連れて来たぞ!」

「ご、ゴメン。昨日はちょっと飲み過ぎちゃったかもね。それより、今どの辺りなの?」

私は、抱っこしてとせがむロゼを膝の上に乗せながらスバルに謝り、今の状況を確認することにした。
すると彼の横に居るレムが私の質問に返答してくれる。

「先ほどアーリア村を過ぎたので、もうすぐロズワール邸に到着しますよ、お客様。」

「え!? もうそんな所まで来てるの!」

私達が泊まった宿からロズワール邸までは、どんなに急いでも約5時間は掛かるはずなのだ。まして帰りは急ぐ必要もなく、通常の速度だったとすると……
一体私は何時間寝ていたのだろうか…。

「うふふっ。仕方がないよ!ねこは一番頑張ったんだもん!それ程に疲れが溜まっていたってことじゃないの?」

すかさずエミリアが気の利いた言葉でフォローしてくれるが、それにしても寝過ぎだと思うのだが。

「う、うん。そうよね、ありがとエミリア。」

私は無理矢理疲れのせいにして、自分を納得させる事にした。

「皆さん、そろそろロズワール邸に到着しますよ。」

それから程なくして、竜車はロズワール邸に到着した。
屋敷に着くと、門の前にはアーリア村からロズワール邸へと避難していた村人達が大勢で私達を出迎えてくれた。
その中には、スバルと川へ遊びに行った子供達やラム、ロズワール、ベアトリスの姿もあった。

「やぁ〜やぁ〜。皆さん、ご無事で何よりなんだぁ〜よねぇ〜え」

「けっ!エミリアが監禁されたってぇ〜のにお前は呑気に屋敷でお出迎えかよ!まったく良いご身分なこった。」

「バルス!!ロズワール様に向かって何て口の利き方なの!ロズワール様は王選の根回しの為に他貴族領の訪問など色々お忙しいの。いい加減な事言わないで。」

「ふんっ! それだってエミリアが死んじまったら意味ねぇじゃねぇかよ!」

「スバル、もうその辺にして!スバル達のお陰で無事に帰って来れたんだからそれでいいじゃない。それに、今は ねこ達を元の世界に帰すことが先でしょ!」

「はい、はい、分かってるよ。エミリアたんがそれでいいなら俺は別に構わないよ。」

何とも険悪な雰囲気になったが、エミリアのはからいで、その場はまるく収まった。

次に子供達や村人が〝わぁっ!〟っと押し寄せ、無事に帰還したお祝いの言葉や、助けてもらった感謝の言葉を皆んなが口々に述べてきた。

私は監禁されていたので、感謝されても困ると苦笑いで応えたのだが、実際にペテルギウスを倒してくれたのだからと言って感謝された。まぁ感謝されて悪い気はしないので、それは嬉しいのだが。

一通り感謝の言葉を告げられた後、川へ一緒に遊びに行ったペトラと子供達がスバルの元へと駆け寄っていく。

「スバル!大丈夫、怪我とかしていない?」

「おう!ペトラ。大丈夫、大丈夫俺はピンピンしてるぜ!心配してくれてありがとな。」

スバルの身を案じていたのか、目には薄っすらと涙が滲んでいたペトラだったが、彼が無事だと聞き、その顔は笑顔へと変わっていた。その後ろでヤキモチを妬いているカジルが居たのだが、そのことには、私を含め誰一人として気づくことはなかった。

最後に、少しご機嫌斜めのベアトリスが私達の元に来たのだが、開口一番スバルにマナドレインを掛けて失神させてしまう。

「ふんっ!最初に、このベティの処へやって来るのが常識と言うものかしら。お前は礼儀がなってないのよ。」

どうやらベアトリスは自分が最後になったことが気に食わなかったらしく機嫌が悪かったようだ。

スバルが意識を取り戻すまでの間、私達は村の住人達を混じえ、早めの祝勝会を開く運びとなった。
何故なら、スバルが失神した直後。
朝食と昼食を抜いた私のお腹の虫が〝グルルル〜〟という、とんでもない音で鳴いたからだ。

お腹が鳴った瞬間、村人達が大笑いして、私はとても恥ずかしい思いをした。

そのお陰か、村を救った英雄様には腕によりを掛けて美味しい物をご馳走しないといけないということとなり、急遽予定が早まったのだ。

「それでは、これよりエミリア様の無事の帰還と魔女教ペテルギウス討伐を祝って乾杯しようじゃぁ、ないかぁ〜ねぇ〜え!」

「「「『乾杯!!』」」」

ロズワール伯爵の音頭のもと、本番の祝勝会は盛大に開催され、私が村人達が用意してくれたご馳走に舌鼓を打っていると。
会場の一角からとてもいい匂いを漂わせる屋台が出店されていることに気づく。
その屋台をよく見ると、アーリア村名物のラビットキャットの肉を串焼きにして焼いている店であった。
屋台の店主は、私の笑顔を見て態度が急変したおじいさんであったため、私は串焼きを貰いに行くのを躊躇っていた。
それに気付いたガタイのしっかりした屋台のおじいさんは、皿いっぱいに乗ったラビットキャット肉を私の元まで持って来てくれて、気恥ずかしそうにこう言った。

「昨日は悪かったなぁ。まさか嬢ちゃんが大罪司教を倒す程の英雄だったとは思ってもみなかったよ!あの不敵な笑みで、ワシはてっきり何処ぞの悪党か何かかと勘違いしてしまったわい。これはほんのお詫びの印として嬢ちゃんのお仲間と一緒に食ってくれや!」

あの〜それってフォローになってないんですけど?
寧ろ、余計に傷つきましたよ!おじいさん。
などとはとても言えず、私は快くラビットキャットの串焼きを受け取り、ZEROの皆んなが居る場所へと戻って行った。

そこにはスバルも皆んなと一緒に食事をしていた。晩餐会が始まる少し前に彼は目を覚ましていたが、ご立腹のベアトリスのご機嫌伺いに忙しかったらしく、遅れて晩餐会場にやって来ていたのだ。

「ちょっと聞いてよスバル!私の笑顔は悪党の不敵な笑みって言われたのよ!どう思う?」

私は、あまりの理不尽さからか、つい彼に愚痴をこぼしていた。

「え!? あ、あ〜。そ、そんな事ないと思うぞ。お前はエミリアたん、レム、ラム、ルウ、ペトラ、ロゼ、アウの次くらいには可愛いと俺は思うけどなぁ?」

おーい!スバルそれ全然慰めてないぞぉ〜!
っていうか、この物語の登場人物の中で最下位ってことかい!!

私はスバルにジト目を向けて無言のプレッシャーを与えると、彼の目は明らかに動揺して、あっちこっちへと泳ぎまくっていた。

そんなスバルをほっといて、今度は牛かつさんへ愚痴をこぼす。

「牛かつさん聞いてよ〜… 」

「ねこさんこのラビットキャットって言う肉は美味しいですね。」

は、はぐらかされてしまった。あの牛かつさんにまで……。

するとそこへ、ロゼと姉妹のように微笑ましく食事をしていたアウローラさんが私に向かってジリジリと近付きながらボソッっと呟く。

「勝った! ムフフッ♪ 」

「コラァ〜〜!何が勝っただ〜!」

わぁ〜〜っとロゼを抱っこして逃げて行くアウさんを追っかけて裸足で駆けてく陽気な ねこまんまの姿がそこにあったw

結局その日は、またもや一晩中飲めや歌えの大騒ぎになったために元の世界に帰ることは諦め、翌日に持ち越されることとなったのだった。

何もない空間……手足の感覚すらない……

ただ意識だけがそこにあると分かる……

何処からか視線を感じる……とても冷たい視線だ……しかし悪意は感じられない……

ここは何処だろう……何もない空間……

暫くその空間を漂っていると、何処からか声が聞こえてきた……姿は見えない……

頭の中に直接話し掛けてくるような感じであった……

(…りがとう……あ…りがとう…私の大事な人を助けてくれて……あ…りがとう……)

「何? 誰を助けたって言うの?? 」

(やっぱり…貴女を選んで良かった……)

私は以前にもここへ来たことがある……

そう、この世界へ飛ばされる直前に居た場所だ。ということは、この声の主はまさか…

「貴女はもしかして嫉妬の魔女なの?」

(ごめんなさい…もう自分が何者だったのかさえ忘れてしまったわ…昔はそう呼ばれていたかもしれないけど…思い出せないの…)

「彼ってスバルのことよね?彼を助けるために私をこの世界に連れて来たの?」

(私は彼を助けたかった…でも…私が直接手を貸すことは出来ない…だから貴女を…この世界に呼びました…彼を助けてくれて本当に…ありがとう… )

「貴女はスバルのことが好きなの?」

(好き…私は彼を愛している…愛している…愛している…好き…好き…好き…好き…)

「分かった、分かったからもういいわ。でも、スバルはエミリアのことが好きみたいよ。それでもいいの?」

( …………。)

「あ、この質問はマズかったかな…ごめんなさい。」

(いえ…彼が誰を好きでも構わない…私が彼を愛していることに変わりはないのだから…)

「そう、一途なのね…私には真似出来ないわ。それで、私はもう元の世界に戻ってもいいのね?」

(ええ…その為に…また貴女をここへ呼んだのですから…これから貴女を元居た世界に戻します…)

「ちょ、ちょっと待って。元の世界に帰る方法なら知っているわ!それに私の仲間とも一緒に帰りたいし。この空間から戻してくれるだけで構わないわ!」

(……分かりました…でも…貴女が再び目覚めた時…ここでの記憶はなくなっているので…)

(それか… )

「それじゃ… 」

「あ、ゴメンw まだ何か言うつもりだった?間が悪くてごめんなさい。どうぞ、続きを言って。」

(いえ…大したことでは…貴女からどうぞ…)

「いえいえ、貴女から。」

(……。)

「……。」

(…では私が…それから…これは彼を助けてくれたほんの御礼です…どうぞ受け取って下さい…)

「……え!?今、何かくれたの??体の感覚がないのよね…それに記憶もなくなるんじゃ、貰った事すら気付かないかも…まぁいいか、取り敢えずありがとう!」

「それから私が言いかけたのは、記憶がなくなるんじゃ貴女の事をスバルに話せないのよね。それでもいいの?」

(…大丈夫…彼にはいつか私から…)

「私から?」

(…もう戻る時間になったわ…彼のことを助けてくれて…ありがとう…それでは…)

「ちょ、私から何ぃーーーーーーー……」

………

………

………

朝、目が覚めると私は客間のベットに寝ていた。隣には可愛い寝顔のロゼが私の腕を枕代わりにして熟睡している。

何か夢を見ていた気がするが、どんな夢だったのか思い出せない。
もの凄く中途半端に終わったような…何故かそんな気がした。

今日はいよいよ元の世界に戻る日だ。
早めに起きて、身支度を整えねばいけない。
私は気持ち良さそうに寝ているロゼの体を揺すって起こすと、顔を洗いに行くため、ロゼと一緒に部屋を出て、洗面台がある一階へと
向かうことにした。

廊下を歩いていると、朝の稽古を終えたルウさんとばったり出くわした。
ルウさんは稽古で汗をかいたらしく、洗面台の横にあるシャワー室へと向かう途中だったようだ。

なので私達は一緒に一階へ向かうことにした。ロゼは私とルウさんの真ん中に位置どると、両者の手を掴んで嬉しそうに歩き出す。

「ルウっちは今朝も稽古してたのね。今日くらいはゆっくり休めば良かったのに。」

昨日の祝勝会は夜遅くまで続いた、当然ルウさんも最後まで皆んなと、飲んだり踊ったりで疲れているはずだ。それなのに今朝も稽古をしては、体が休まらないだろうと私が心配しての発言だった。

「だよねぇ〜♪ でも、エルザさんとの戦いで、私もまだまだだなぁ〜って感じたからさ、少しでも頑張らないとねぇ♪ 」

う〜ん、エルザとの戦いではルウさんはかなり押していたと思うのだが…結局はエルザが言い訳をして逃げる形になったわけだし。
何処までもストイックなルウさんに感心していると、話を聞いていたロゼが、私とルウさんの顔を見上げて話し出した。

「ねえ、ねえ。お母さんとルウ姉ちゃんはどっちがつよ…〝フガッフガッ!?〟」

私は咄嗟に喋っているロゼの口を後ろから手で覆い隠しそれ以上の言葉を出せなくした!
彼女は私とルウさんのどちらが強いのかと言いたかったのだろう。

そんなことを言ったら、ルウさんが面白がり、これから試しに戦ってみようなどと言いかねないからだ。

只でさえ、戦闘狂であるルウさんのことだ、初めは遊びのつもりでも、何処でスイッチが入り本気になるか分かったものではない!
そんな彼女と戦えば、手加減出来るはずがなく、どちらかが大怪我を負うかも知れない。

ロゼには悪いが、ここは何としてでも誤魔化さねば!そう思った私は必死でその場を繕うことにする。

「あはは。ロゼったら私とルウっちのどちらがつ、罪な女だなんて、そんなのルウさんに決まってるじゃない!こんなに可愛いんだから、振った男の数もそりゃあ凄いんだからぁ!ねぇ〜ルウっち?」

「うん? あ〜そだねぇ〜♪ 結構言い寄られることはあるけどぉ、私より強い人じゃないと好きになったりはしないかなぁ?」

「え!?」
「フガッホガァ!?」

ルウさんから以外な言葉が返ってきて、思わず時が止まった二人であった……

「それじゃ扉をあちらの世界と繋げるのよ、お前達、準備はいいかしら?」

「うん、大丈夫よ!ベアトリス。」

この世界で最期の朝食を、エミリア達とZEROのメンバー全員で済ませた私達は、ロズワール邸の玄関前に集合していた。

お世話になった村人達や、スバルやエミリア達と別れの挨拶をするには、館の中では手狭だったからである。

なのでベアトリスに頼み、元の世界に帰る扉をロズワール邸の玄関にして貰ったのだ。
私達は屋敷の中へ入る形で帰還することになるわけだ。

「ねこ、色々助けてくれてありがとう!向こうに帰っても私達のこと忘れないでね。」

最初にエミリアが泣きながら私の手を掴んで別れの言葉を口にする。

「うん…うん。うぇ〜ん…エミリアも私達のこと忘れちゃ嫌だよぉ〜うわぁ〜ん 」

私は涙もろい。兎に角涙もろい。
特に別れなどの際には、わんわん泣きじゃくってしまうのだ。
既に私の顔は涙と鼻水でグチャグチャになっており、原形を留めていない状態であった。

それをロゼがハンカチで拭いてくれるのだが、拭いたそばからまた泣くものだから、全く意味がなかった。

「お母さんは泣き虫デス…グスンッ。」

ロゼも私につられてか、ポロポロと大粒の涙を流して泣き出した。エミリアは、そんな私達を抱え込むように抱くと、一緒になって泣いてくれるのだった。

らんちゃん♪
@rantyann_0627
https://twitter.com/rantyann_0627

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?