クラシックギターの魅力~1.過去から現代までを往復するアクチュアルな音楽

 趣味でクラシックギターをやっています。音楽未経験の状態から、大学入学後、クラシックギターの合奏サークルに所属したことではじめました。ちょうど楽器を演奏してみたいと思っていたことと、クラシック音楽のような分野に関心があったというタイミングであり、そして気軽な気持ちではじめたのを覚えています。サークルの所属期間が終わった後も、社会人のギター合奏団や、ギター教室に通ったりもしました。その後、社会人になってからは弾かない時期もありましたが、クラシックギターのコンサートには頻繁に通っていました。大学1年生の時から数えると、いつの間にか15年ほど、クラシックギターを何らかのかたちで続けています。

 そこで、ここまで長く趣味として楽しんでいるクラシックギターについて、noteでの最初の投稿を書いてみることにします。

【1.過去から現代までを往復するアクチュアルな音楽】
 まず、"クラシック"というジャンルに対して、どんな認識を持たれていますか?

 例えば、「過去の音楽を多彩なバリエーションで再現するもの」という捉え方でしょうか?これは私自身がそのような認識を持っているし、それ自体は概ね間違っていないと思っています。しかし、実際は解釈や表現が確立され尽くされていそうな、何百年も前から演奏されている作曲家(例えばベートーヴェンやモーツァルト、バッハ)の音楽であっても、現在進行形で研究などが進められており、作曲家が生きた当時、あるいは曲がつくられた当時の時代認識や曲の解釈というのは日進月歩で変化しています。また、演奏者の視点や技術、コンサート会場の音響やキャパシティ、楽器の性質も同じく時代と共に変化し続けています。

 もちろん、これはクラシック音楽全般に対して言えることです。しかしその中でも、クラシックギターでは現在生きている作曲家の曲が取り上げられる機会が多く、他の楽器と比較できる特徴です。現代曲がコンサートで演奏されたり、CDへの録音や、正式なコンクールの場で課題曲(あるいは自由曲)として取り上げられることが自然に多くあり、まさに現在進行形の音楽としての特性が強いといえるでしょう。


(アルハンブラ国際ギターコンクールの映像。朴葵姫さんがD.スカルラッティ(1685-1757)の「ソナタ ニ長調 K.178」(9'50")やH.マラッツ(1872-1912)の「スペイン・セレナーデ」(10'24")と共に現代の作曲家L.ブローウェル(1939-)の「ソナタ」(11'05")を演奏している。ちなみに第1位。)

 また、クラシックギターには編曲作品が多く存在します。ある時代の音楽が次の時代の作曲家にギター編曲されていたり、同時代の曲でありながら、ギター編曲する上で移調や装飾など、ギターの特性考慮や編曲者による再解釈から、新しい性格を帯びたものなどもあります。

(ギタリスト益田展行さん自身による編曲のJ.S.バッハ(1685-1750)の作品集から『無伴奏チェロ組曲第6番 ニ長調 BWV1012より第1楽章 Prelude』(3'00"))


(ミッシャ・マイスキーによる同曲。無伴奏チェロによるオリジナルとギター編曲によるものとでは、その音楽に音色・調性等、内容に違いを感じられる。)

 さらに、現在の形のクラシックギターが存在する前の時代に書かれた曲(例:ルネッサンスやバロック期におけるリュートやチェンバロの為の作品等)でさえも、後続の作曲家やギタリストによる編曲のもと演奏されています。そのため、クラシックギターのコンサートでは、過去から現代(今現在)までをあたかも時間旅行しているかのような感覚をおぼえることも少なくありません。古典時代の曲に現代のポピュラーミュージックに通じるような美しさをおぼえたり、現代曲に過去の大作曲家へのオマージュを見出したりできることも多く、クラシック音楽=古い時代の音楽というイメージではなく、過去から現代までを往復し、時にはシームレスに同時体験するような面白さがあります。

 「過去から現代までを往復する」という視点で少し紹介すると、古典時代のギタリスト兼作曲家であるF.ソル(1778-1839)の『スペインのフォリアの主題による変奏曲』は、フォリアと呼ばれる3拍子の主題(テーマ)をいろいろなパターンに変奏(バリエーション)して発展させていく変奏曲です。後にロマン派のM.リョベート(1878-1938)がこの曲をモチーフにした『ソルの主題による変奏曲』を残しています。古典時代の作品を後続の時代における和音やリズム、作曲家自身のセンスでアップデートしていると言えます。

※「フォリア」をモチーフとしてA.ヴィヴァルディ(1678-1741)やJ.S.バッハ(1685-1750)の作品なども存在します。

(A.ヴィヴァルディの『スペインのフォリアの主題による変装曲』と、F.ソルの『スペインのフォリアの主題による変奏曲。そしてM.リョベートの『ソルの主題による変奏曲』。「フォリア」というモチーフが現れてから、これらの曲がつくられてきた時代の開きは100年以上。世紀を渡っている。)

 南米のM.M.ポンセ(1882-1948)がギタリストの巨匠A.セゴビアの為に書いた『ソナタ・ロマンティカ』は、F.シューベルト(1797-1828)を模倣した作品。(シューベルトの作曲法というより、シューベルトの語法を各所に用いた作品。)

 イギリスのB.ブリテン(1913-1976)は『ノクターナル』という名曲を残しています。近代的な作風のもと物憂げで謎めいており、はじめて聞くととっつきにくい曲ですが、これも変奏曲の異端と言える内容(リフレクション)で作られており、曲のエンディング(14'15''あたりから)にルネサンス時代の作曲家J.ダウランド(1563-1626)の作品『来たれ、深き眠りよ』がモチーフとして現れる様は、最後に神秘のヴェールを脱ぐようでとてもドラマティックです。

(前述していますが、J.ダウランドの時代には現在のようなギターは存在しておらず、『来たれ、深き眠りよ』はリュートと歌の為の作品。)

  最後に、日本の江部 賢一(1951-2015)はギターのためにヘンリー・マンシーニ(1924-1994)作曲の映画音楽『ひまわり』を編曲しており、武満徹(1930-1996)は、『ギターのための12の歌』という作品の中で【Beatles】(1957-1970)の作品を編曲しています。このように、必ずしも"クラシック音楽"の枠に囚われることなく、ほとんど同時代を生きている映画音楽の作曲家やロックバンドの作品といったポピュラー音楽にも焦点があてられています。

(H.マンシーニ作曲の映画音楽『ひまわり』は、ピアノや管弦楽で編成されている。イタリア・フランス・ソ連が合作した有名な映画の音楽は、日本では江部賢一による編曲でクラシックギターでも演奏される作品となった。そしてイギリスのロックバンド【Beatles】の『Yesterday』は、世界のプロギタリストが武満徹による編曲をプログラムや録音作品で取り上げている。)


 現在進行形で新しい作品が生み出されている点と、それらがギタリストの録音作品やコンサートのレパートリーとなっており、アクチュアルにその価値がアップデートされていく点は、クラシックギターの大きな魅力のひとつであると思います。

【参考】

◆ギターの変遷について:CRANE 19世紀ギターの世界[http://www.crane.gr.jp/19th_Guitar/index.html]、FLAGS『時代の背中』櫻井正毅氏 ギター製作作に生きた大学生活で得たインテリジェンス[https://www.sponichi.co.jp/society/yomimono/jidainosenaka/kiji/K20131122007062940.html]

◆コンサート会場の変遷について:18世紀の音楽ホール事情[http://www.jiyugaoka-violin.com/site/archives/750]、演奏会のもう一つの主役、コンサートホールの歴史と変遷[https://edyclassic.com/1186/]

◆M.M.ポンセの『ソナタ・ロマンティカ』について:福田進一『カンシオン・メヒカーナ』CDライナーノーツ中の「アルバムについて」、Leonard Bravo Official Blog [https://bravoleonardo.blogspot.com/2016/07/]

◆江部賢一のプロフィール:[https://www.gendaiguitar.com/player/ebeken]

◆上記、直接的ではなくとも、記事を書く上で知識の補足・修正、微調整に用いました。他、wikipediaや電子辞書などフリーサイトにて、各作曲家や曲名とその解説等、随時調べています。

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