his...彼の、そして彼らの その3

一番最初にhisを見たとき私が好ましいと思ったのが
ラストがいかにもな大円団ではないことだった。
当たり前のように
子供とうまく付き合えない母親より
迅と渚の方に肩入れして
自然と裁判の場面も勝利を勝ち取って欲しいと思ったし
裁判所の外でむせび泣く渚を見ている玲奈を見て
ひょっとしたら空を譲ろうとするかもしれないと期待した。

結局はそうならなかった。

渚と玲奈は裁判という過程において
ひょっとしたら初めて家族になれたのかもしれない。
自分の至らなさに遅まきながら気づき
お互いがそれを認めるという辛い経験によって。

「言えた?ごめんなさいって言えた?」
「言えたよ」
「仲直りできた?」
「できたよ」

裁判が終わって電話で話すシーン
本当に好きだ。
空ちゃんは日々の生活をイキイキと生きている。
犬のウンチの世話を「できた!」と目を輝かせている。

空はこんなことが好きだよ
こうしてあげたらいいよ

これから空は軽やかに自転車に乗れるようになったように
どんどんいろんな経験をして
成長していく。

正直なところ
この2人がずっとこの白川町で暮らすのかどうか
私にはわからない。
街の人に向けて言いたいことを言えたのは大きな自信になっただろうし
そんな迅はもう田舎に引っ込んでいる意味はないのかもしれない。
ただどこにいても
この家族は空を大事に育てていく。
たとえ離れていたとしても。
そしてこの先何かがあって
二人がまた離れてしまったとしても…
大事なものはきっと失われない。
自分の中にある愛から目をそらさない。
心から欲しいものは「欲しい」と言う。
手にしたらそれを放さない。
もし離してしまったとしても
それが愛から派生しているものならば
魂はそこにある。
見守ることはできる。
喜びを受け取ることができる。

自転車をこぐ空のそばに行きたくて
渚が振り返って玲奈の顔を見る
行ってもいい?
どうぞ
仕草だけで会話をするこのシーンで私の涙腺は決壊。
嬉しそうに走り出す渚。
少し緊張した顔で見守りながら
少し距離を空けて立つ玲奈と迅。
「本当は私自転車に乗れないの」
迅に小さな秘密を打ち明ける玲奈。

赦しと癒し。
少しずつ溶け出す3人の関係。

自転車は本当に上手に乗れるようになって
調子よく駆け回る。
勢い余ってコケる空に
慌てて3人が駆け寄ると言う奇跡的なシーン
そして空の最後の一言。
あのシーンが撮れただけで
もう充分だと
本当に充分だと思いました。


<終わり。長々とありがとうございました>

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