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マーマレードさんとココア屋の不思議な夜 【物語】

 外では、北風が落ち葉を足元でクルクル踊らせています。道行く人々がその光景を見て身震いする寒さ。
 しかし、駅前ロータリーのマックとスタバに挟まれたサフラン色の扉を開け、暗い廊下を進むと…

「いらっしゃい」

つつつ~っ))

 ココア屋のマスターが、カウンターテーブルの木目を寸分の狂いもなく読んで、鮮やかにカップ&ソーサーをお客の目の前にスライディングさせました。

「うちの店、ココアしか提供しておりません。…と、言いたいところですが…」

 ほわほわの湯気が立ち上るココアと後から添えられたマシマロの器。そこまではいつも通りです。しかし…

「さあさ、マーマレードさん、どうぞコートをお預かりしますわ。長旅でお疲れでしょう」

 カウンター内にはマスターの他に、魔女の末裔である姉の若山ジュリエットが、ケーキやらシャンパンの準備をしておりました。

「あの、コーチョレホトットさんは、もう…?」

 そう言って辺りを見回すマーマレードさん。彼女は素敵な模様のニットを着ています。なんと、彼女自身が編んだもの!

「あら?さっきまでクリスマスツリーのてっぺんにいらしたのに…」
 ジュリエットが自分のポケットや戸棚を開けて中を確かめます。
 先ほど姉から強引にトナカイのつののカチューシャを装着させられたマスターが、小鍋の方を指さしてプルプルと震えました。

「こここ…これは、コップのフチ子さん的なアレとかではないのかな?姉さん」
横から弟の手元を覗き込む姉。

「まあまあ!コーチョレホトットさん!」
「ホッホ~🎵良い味、良い匂い、良い湯加減」

 なんと、赤と白のボーダー水着に身を包んだ小さなおじさんが、はぁ~ビバノンノ♪といわんばかりにココアを温める小鍋でいい湯だな、しちゃっているではありませんか!

 マーマレードさんがカウンターから身を乗り出し、その様子を見て「まあっ」と声を上げました。
 そして、茶色く染まった小さなおじさんを指でつまみ、目が合うように自分の顔の前に持ち上げると…

「ずいぶん探したんですよ、コーチョレホトットさん!おふたりさんのココア風呂からはもう出たって聞いたから、もしや…と思って来てみれば」
 コーチョレホトットさんの爪先から、ポタポタとココアがしたたり落ちます。
 小人のコーチョレホトットさん。ちょっぴり反省の顔をしてみせましたが、すぐニッコリと笑って自分の長いあご髭を絞り出しました。ココアがちゅーっと落ちる様をまん丸な目で見つめる三人。
 やがて、顔を見合わせて、マーマレードさんもジュリエットもマスターも、ぶふっ))と吹き出してしまいました。

 その隙を突いて、コーチョレホトットさんはストンとテーブルに着地。「ホッホ~❗」と一声上げパパンと手を叩くと…。
 さっきまで大人しく飾られていたクリスマスツリーのオーナメントやスノードームの中のサンタがぴょぴょーんと飛び出し、わらわらとコーチョレホトットさんを取り囲みました。
 そして、コーチョレホトットさんの体を泡だらけにし、ドライヤーで乾かし、あっという間にココアまみれの状態からノーマルホトットさんへと変貌させたのであります。

「ホッホホ~ッ🎶」
 ふんわりと仕上がったお髭を触り、満足げなコーチョレホトットさん。
「さては~」
マーマレードさん、何もかも合点してパチンッと指を鳴らしました。すると…オーナメントとスノードームのサンタの変装がポンッとはじけて解かれたのです。

「あらま!全部小人さん達だったのね?」
若山ジュリエットにも見抜けなかった、完璧な変装。
その横で、マスターは祈りのポーズをしながら乙女のように目を潤ませました。
「ああ…ホンマもんの小人さん達💓イギリスからこんなに大勢来てくれてたなんて!俺にもちゃんと見える!」

 そんな二人の様子を見て、マーマレードさんはやれやれと柔らかく微笑みます。
「小人を信じておられるのですね。それは小人を見ることができる第一条件なんですよ」
その言葉を聴いて、マスターは店内に流れる竹内まりやのクリスマスソングに合わせ、コクコク頷きました。

 マーマレードさんとはぐれてしまったあと、ココア風呂を2回も堪能したコーチョレホトットさんは、指笛を吹き、小人達を整列させました。
「え、何が始まるの?」
「おやおや、コーチョレホトットさん、あれを?」
コーチョレホトットさんがマーマレードさんに向かってウィンクすると、突然、不思議なリズムのステップを踏みはじめました。それに続け!と、小人達も夢中でステップし、ノリノリで踊り出します。
「これは?」
「うふふ…コーチョレホトットさん振付のココアサンバです」

「ココアサンバ?!」☕))~

 そうと聞けば、もう踊るしかない!
 マスターとその姉も、見よう見まねでカウンターの向こう側でサンバのリズムに乗ります。


 “マーマレードさんおかえりなさい”のパーティーに招かれたお客さん達が続々とココア屋に集まってきました。ほら、あの人もこの人も。

 すでに店の中は、ココアサンバを踊る人間と小人達の熱気でムンムン。お客さんはちょっと驚いてからすぐに事態を飲み込み、自分もポポイとコートやマフラーを脱ぎ捨てて、サンバ隊のなかに加わりました。

 外では即席のサンタ達が、ケーキの箱やチキンの袋を提げて、北風吹くなか家路を急ぎます。
 一方、ココア屋の狭い店内では、ホカホカのココアとシュワシュワのシャンパンを手に、マーマレードさんを囲んで大小問わずの仲間達が、陽気にクリスマスソングを歌っているのでした。


~ fin ~


最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀

Marmaladeさんとコーチョレホトットさんの楽しい記事(ココアサンバ発祥の地)です!🎶豪華な面々とともに、『北風ココア』という私の記事のご紹介までしていただきました!😊

ねじりさんのラブリーを極めたココア風呂も登場しております!🐨💕

幸せなご縁を繋いでいただいている『北風ココア』☕
ついにクリスマスシーズンを書くことができました☺️
Marmaladeさん、ありがとうございます!💖

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