涙の数だけ弱くなる

涙の数だけ強くなれる、と、歌ってくれた歌手がいた。心優しい恋人はこの歌が好きだそうだ。私も好きだ。でも、自分は泣いてばかりいて、そのたびに一つ一つ、強くあろうとする心が目からこぼれていく気がしてしようがない。

先日恋人と喧嘩をした。もはや一か月に一回は恒例になってきた喧嘩なのだが、そのたびにどうしてもこらえられなくて泣いてしまう。心の底にたまった、伝えられない言葉なのか、自己嫌悪の塊なのか、ぼろぼろと泣いてしまうのだ。
先日は、あんまりにも気持ちが伝わらなさすぎて、そのことに自分もびっくりして、実に二十年以上ぶりに大声をあげて泣いてしまった。大泣きすることはあっても、大声をあげて泣くというのは本当に久しぶりで、体がどんどん縮こまっていくのと反対に、声ばかりが外に飛び出していく。むくれっ面をして押し黙っていた恋人も、驚き飛び上がり、私の背中をさすったのだが、その手のひらの柔らかさや暖かさがまた辛く、よけいに大声で泣いた。
人間、大声をあげて泣くと、震えが止まらなくなるのだと知った。
大声をあげて泣く瞬間も、泣いている間も、泣き終わった後も、実は正直、何を考えていたのか覚えていない。泣き終わった後に顔をあげたら、恋人も泣いていて、二人でしばらく冷めたカフェオレを飲んで、今度は声はあげないでさめざめと泣いた。
三十路も近い大人2人がするようなことではないのはよくわかるのだけれど、私たちはお互いに子どもなので、喧嘩して仲直りするときは二人とも目を真っ赤に泣き腫らしている。終わってみるとばかだなあと思うのだが、渦中の本人たちは結構本気だ。いや、本気だ。
思えば、恋人も私もよく泣く。一度泣いたことでまた泣くし、泣く項目数がどんどん増えている気もする。

やっぱり、泣くほどに弱くなっていくのか。でも、それに気づいても涙の数だけ強くなれると歌ってくれる歌は好きだ。