「一番の勝因は、諦めなかったこと。」バリアフリービーチ実行委員会・橋本康太さん
このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。
今回ご紹介するのは、病院や介護施設で働く理学療法士(リハビリの専門家)の橋本康太(@hashimoto721)さんです。
高齢者や障がい者の移動の円滑化を図るバリアフリー。階段脇のスロープや駅のエレベーターなど、街を歩けば至る所で見かけます。
しかしまだまだ十分とは言えないようです。たとえば、海水浴場の多くは車椅子やベビーカーには優しいとは言えません。
橋本さんはそんな状況を変えたいと、クラウドファンディングを立ち上げました。橋本さんが企画したのは「バリアフリービーチ」というもの。
「バリアフリービーチ」は、浮きのついた水陸両用車椅子や砂浜に仮設道具を設置することで、障がいを持っている方々も気軽に海を楽しむイベントです。
橋本さんは、中国地方初のバリアフリービーチを開催しようとクラウドファンディングに挑戦。目標額の40万円を上回る47万円を集めて、見事プロジェクトを成功させました。
「我が街を優しく思いやりある街へ」という思いを実現すべく、橋本さんが実行したことはなんだったのでしょうか。
橋本康太さん / 理学療法士。2015年に理学療法士(リハビリ国家資格)免許取得。妹の上肢に障がいがあり、理学療法士が身近な存在だった。また、人の役に立てる仕事を目指していたことから、理学療法士という職業を選択する。1992年広島県生まれ。
クラウドファンディングは「空中戦」だと思っていました
――クラウドファンディングの会社はたくさんありますが、ファンファーレを選んだ理由は?
橋本さん:ファンファーレは医療福祉に特化したプラットフォームになるんですけど、たまたま知り合いに同社のキャンペーンに携わっている人がいたんですよ。
――その知り合いの方がきっかけだったんですね。
橋本さん:そうですね。その人が Twitterで「いまなら何十万円分、PR が無料で出来ます」と言っているのを見て、こちらから「こんな企画なんですけど、出来ますか」と声掛けさせてもらった形ですね。
――クラウドファンディングに挑戦した理由を教えてください。
橋本さん:クラウドファンディングに先だって、民間の財団に助成金の申請をしていました。そのリスクヘッジとしてクラウドファンディングの準備も進めていました。結局申請が通らなかったので、挑戦したんです。
――クラウドファンディングはリスクヘッジだったんですね。
橋本さん:「バリアフリービーチ」は健常者への啓蒙や障がい者と交わるきっかけ作りも重要な目的になっているので、資金調達だけではなく、広報としても使用したかったんです。
――クラウドファンディングに成功した理由をどんな風に分析していますか?
橋本さん:成功した理由のひとつは、人の輪が広がったことですね。じつは24歳の春、新卒3年目のときに一度クラウドファンディングに挑戦しようとして、断念しているんです。
――えっ、そうだったんですか。
橋本さん:そのときは「機材をどう調達するか」「仲間として誰に声掛けすれば良いのか」「どう広報しようか」と分からないことだらけ。当時の自分の力ではどうしようも出来なくて、頓挫しました。
――そのときは完全な一人プロジェクトだったんですね?
橋本さん:はい。じつは今度も最初は一人でやろうとしていたんです。プロジェクトの実施日は2019年7月でしたが、2018年の10月にふとしたきっかけで、作業療法士で就労支援活動をしている西上忠臣さんという方と知り合ったんです。
――そこから人の輪ができていったんですか?
橋本さん:そうですね。「こんなことを考えているんですけど、よかったら一緒にやりませんか」と言って企画書を持って行きました。西上さんから人の輪が広がった感じですね。
――なるほど。プロジェクトのページを拝見すると、橋本さんとは別に、チームメンバーとして9名の方のお名前がありますね。西上さんのお名前もあります。
橋本さん:その9人は西上さんが紹介してくれたり、僕が声掛けしたりして集まりました。勝因のひとつはこれだけの仲間ができたことです。いろいろな分野の人が異なった視点からアドバイスをくれました。
――どんなアドバイスをもらったんですか?
橋本さん:例えば「海の管轄はここだから、ここに話を持って行って」と教えてくれたり。助かりました。無駄が少なくて済んだのは大きいですね。
――もともとご自身の交友関係は広かったんですか?
橋本さん:今まで、様々な人とのお付き合いがあったので交友関係は広かったとは思います。プロジェクト自体も社会的に意義があるものと認識されて、「誰に対して」「なんのために」資金を使うのかが明確だったので、信頼感につながったのでしょう。
――では、大きな勝因はチームワークや交友関係にあるんですね。
橋本さん:いや……一番の勝因は、諦めなかったことだと思います。
――一番の勝因は人とのつながりではないんですね!具体的にどんな活動をしていたのでしょうか?
橋本さん:最初にクラウドファンディングの勉強会に入ったんですね。「チームで役割を決めなさい」と教えられました。でも現実問題として無理だな、と思ったんですね。で、結局ほぼ全部1人でやりました。
――えっ、チームワークの勝利という話ではないんですか?
「バリアフリービーチ in 三原」当日の様子
橋本さん:じつは違うんです。支援してくれた方は73人でしたが、8割くらいは僕の知り合いです。
――ほかのメンバーに対してノルマというと印象が悪いですが、たとえば1人につき賛同者7人集めてきてよ、などとお願いすることは考えなかったんですか? 10×7=70で、ほぼほぼ実際の支援者数73人になります。
橋本さん:考えなかったです。正確には、そんな余裕もなかったという感じですね。
――では、ほかの方たちはひたすら「側面支援」みたいな感じですか?
橋本さん:ほんとにそんな感じですね。
――「余裕がなかった」というのは、どういうことだったのでしょうか?
橋本さん:最初はクラウドファンディングに空中戦のようなイメージを持っていて、「頑張って SNS で拡散すれば勝手にお金が貯まる」というイメージを持っていたんです。
――実際は違いましたか?
橋本さん:はい。たまたま知り合いに300万円調達した人がいて、目標額の20%を達成したタイミングでその方に話を聞きに行ったんですね。そうしたら「何を言ってるんだ。地上戦だぞ」と言われたんです。ガツーンと来ましたね。
――はははは。イメージと真逆。
橋本さん:「1対1じゃないと人は動いてくれない」ということを教えられて。その人は毎日何十通というメールを送っていたんですね。「やっぱりそれくらいしないといけないんだ」ということを痛感させられました。
――一人ひとりへの直接連絡が大切なんですね……。
橋本さん:同じ時期に起業家の堀江貴文さんのYouTubeを観たんです。堀江さんは毎年『クリスマス・キャロル』というミュージカルに出演されています。しかし人が集まらないと言っていた。
――堀江さんはどうされていましたか?
橋本さん:「コンテンツは良いんだけど、みんなに知られていない」ということで、集客のためにメッセージを地道に送信しているという話でした。
――あの「ホリエモン」でさえ、毎日何十通っていうのを泥臭くやっている、と。
橋本さん:このふたつの話を耳にして「そりゃ、僕なんかが空中戦していても、いつまで経っても大金は射止められないよな」と悟りました。それから個別で1日何十通とメールするようになりました。
――メールを送るようになったことで、どんな変化がありましたか?
橋本さん:支援しようと思ったけど忘れていた人、手続きが面倒に感じていた人など、SNSの拡散から漏れていた人たちをキャッチすることができました。そこからは戦略もなく、地上戦をひたすら戦い続けたという感じですね。
――なるほど。泥臭く、汗をかかないと応援は集まらないということですね。そういえば、プロジェクトのページに「応援メッセージ」が記載されているじゃないですか。これはどういうところから思い付いたんですか?
橋本さん:運営会社からのアドバイスです。自分の職場の上司と、知り合いのまちづくりコミュニティーの人から応援メッセージをもらい、プロジェクトページに掲載しました。
――プロジェクトページに「協力」や「後援」の記載もあるじゃないですか。これはどうされたんですか?
橋本さん:バリアフリービーチは中国地方では前例がなく、僕らにも実績がありません。なおかつ障がい者をターゲットとしていたので「訳が分からない団体がやるよりは後援を付けた方がいいな」と思いました。
――効果はありましたか?
橋本さん:「信頼性」という意味で効果があったのかな、と思いますね。
「協力」で掲載している「モノ・ウェル・ビーイング」は鎌倉でバリアフリービーチを実施した会社で、機材の調達方法やイベントの運営ノウハウを教えて頂いたり、企画書や写真などいろいろ頂戴したりしたので、すごく助かりました。
――観光協会や教育委員会、商工会議所はちゃんと後援してくれたんですか?
橋本さん:そうですね。観光協会と商工会議所はすごくゆるかったです。とくに観光協会は市から委託を受けて、開催地になったビーチを管理しているところですが、お願いしたら二つ返事でした。
――具体的にどんなことをしてもらったのでしょうか。
橋本さん:まあ、後援と言っても名前をお借りしたようなもので……。信頼を得るという意味で価値はあったと思います。
障がいとは無関係に「趣味」で支援活動
「バリアフリービーチ in 三原」当日の様子
――障がい者の方たちに対するサポートという部分に関して、橋本さんを駆り立てているモチベーションはなんですか?
橋本さん:なんていうんでしょうかね……。利害関係があるわけではない。どこかに所属しているわけでもない。皆さんが好きなアーティストのライブに足を運ぶような感覚です。何か企画することが好きで、たまたま理学療法士の知識もあったので、その部分と掛け合わせたらこういうことになった、という感じですかね。趣味と言っても良いと思います。
――それは「イベントの主催が好き」という意味ですか?
橋本さん:それに近いと思います。「自分で企画して自分で作ったプラットフォーム」と言うと言い過ぎですが、みんなが笑顔になってくれることが好きなんです。障がいがあろうとなかろうと、僕としてはあまり関係がない。だけれども、せっかく理学療法士という資格もあるのだから、「自分の間口を拡げたい」という気持ちでやってますね。
――ということは「善意で」とか「社会正義を実現したくて」というよりも、むしろイベントのプロデューサー的な動きができるから楽しい、という自己実現的な世界ですか?
橋本さん:本当にその通りです。
――「バリアフリービーチ」実施当日は、何人の方が参加されたんでしょうか?
橋本さん:最初は10名の予定だったんですけど、天候不順で延期して6名になりました。平均年齢は18か19くらいだったと思います。比較的若い当事者が集まりましたね。
――当日参加された障がい者の方の反応は、どうでしたか?
橋本さん:子どもは話せない子が多かったんですが、話せる人からは「実際に海に入れるとは思わなかった。良い機会を与えてくれてありがとう」と言われましたね。
――彼らは、いままでに海に行ったことはあるんですか?
橋本さん:ゼロです。全員初体験です。
――障がいの当事者の方々は、なかなか海に行けないものなんですね。
橋本さん:そうですね。着替えも大変ですしね。
――着替えですか。着替えのことは考えたことがなかったです。
橋本さん:移動と着替え。そこがネックになるんですよ。今回のビーチは古い施設ではあるものの、バリアフリーが整っていて全国有数レベルでした。
――なるほど。どのような環境だったのでしょうか。
橋本さん:スロープがちゃんとついていたり、障がい者用の着替える場所や、車椅子のまま使えるシャワーがあったりという環境でした。そういう場所を使いながら、ボランティアと参加者の家族がいっしょになって着替えたという感じです。
――ボランティアとして参加したスタッフの反応はどうでしたか? リターンで「ボランティアスタッフ参加券」というのがありましたよね?
橋本さん:「リターンは体験型が良いよ」という話を小耳には挟んでいて、優先的に参加できますよ、という形にしました。延期になったことで参加できなかった方も多かったのですが、「良い経験になった」「声をかけることができそう」と前向きな声をもらいました。
――たしかに、貴重な経験になりそうです。
橋本さん:イベント当日は一般遊泳客とも交流があったので、「交流のきっかけ」も作れました。
――それにしても、障がい者がいつでも海に行ける環境というのは、なかなか難しいですよね。電車に乗るときだって、車椅子の人はいつでも気兼ねなく乗れる訳ではありませんからね。
橋本さん:そうですね。「海水浴が障がい者の選択肢に入るようになればいいな」と思いながらやっています。「入れない」と思って入らないのとか、「入れる」という選択肢があって入らないのとでは、幸福度が違ってきますよね。そういう観点から活動を継続したいと考えています。
今後もクラウドファンディング? それとも助成金?
「バリアフリービーチ in 三原」当日の様子
――バリアフリービーチは今後も続けますか?
橋本さん:そうですね。今年も続ける予定です。
――そのときはもう一度助成金に挑戦するか、それともクラウドファンディングに行くか、どちらにしますか?
橋本さん:いま助成金を申請しています。昨年の実績を関係各所に報告させてもらいました。バリアフリービーチを単発のイベントにするのではなく、どうすれば街のインフラとして持続可能にできるのか、検討している段階です。
――今度は通るかもしれませんね。
橋本さん:そうですね。「まずは実績を作る」という意味で、クラウドファンディングは良いかなと感じています。
――助成金は、お金が入ってくるのがイベントが終わってからですよね。 クラウドファンディングで事前に資金調達しておくというのも有効ですか?
橋本さん:そうですね。ただ気軽には出来ないと身に沁みたので、そこは慎重に考えたいです。
――それは分かります。結局クラウドファンディングは、限定発売のグッズを売るのにはぴったりだと思うんですが、イベントや社会起業の場合、半端な気持ちじゃ出来ないですよね?
橋本さん:ほんとに1回きりじゃないと。リターン考えるのもしんどいですからね。
――最後に改めて、クラウドファンディングが成功し、どんなことを考えたか教えてください。
橋本さん:今までやってきたことが、素直に還元される仕組みだと感じました。
温かい資金調達方法であるのと同時に、ある意味ドライだとも思います。自分になんの信頼もなければ、きっと資金調達することはできなかったでしょう。
それから気軽に使用できるものではないとも感じました。あなたが得るリターンは、今まで貯めていた信頼がお金に変わっただけです。引き続き信頼を貯めるべく、たくさんの人にギブし続けないといけないなと感じました。
――今後挑戦する方にアドバイスをお願いします。
橋本さん:プロジェクトをやり抜く覚悟がある一方で、実績がなく、他から資金調達できない場合には非常に有効な手段だと思います。実績も何もない自分が成功できました。何か本気でやってみたい人にはぜひ取り組んでもらいたいです。
――貴重なお話をありがとうございました。
夢を叶えるためには諦めない心と信頼が必要
今回の記事ですが、「これからクラウドファンディングに挑戦したい」という方の役に立つお話でした。
夢を叶えるためには、絶対に諦めない心と、信頼が必要です。
ときにはプライドを捨て、泥にまみれる覚悟も問われることでしょう。あなたの成功をお祈りしています。
執筆/檀原照和
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