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「信頼は、日頃の行いの積み重ね。」株式会社えぽっく代表・若松佑樹さん

このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。

今回ご紹介するのは、茨城県で若者が挑戦しやすい環境作りを事業として展開する株式会社えぽっく代表の若松佑樹(@epochers)さん。

株式会社えぽっくでは、長期実践型のインターンシップや兼業/複業のコーディネートなどを基本事業としています。

クラウドファンディングでは、学生が企業に1日訪問・取材し、冊子『旅する冊子』を制作した取材型インターンを実施しました。

若松さんは就職活動に関するイベントを複数開催し、毎日活動報告を更新。

拠点として活動する茨城県内からの支援も多く集まり、最終的には達成率122%。見事、成功を収めました。

若松さんが取材型インターンを始めたのは、学生からのある一言がきっかけだったそう。

若松さん自身がこれまでどんな経歴で、何を課題に感じてきたのか、今回クラウドファンディングに挑戦しての想いなど、様々な角度からお話しを伺ってきました。

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若松佑樹さん / 株式会社えぽっくの代表。大学院卒業後、コンサルティングやブランディングの業務を経験したのち、茨城県「地域おこし協力隊」インターンシップコーディネーターに就任。その後独立して「株式会社えぽっく」を創業。茨城県出身。立教大学理学部、東京大学大学院総合文化研究科卒業。

大学生が一般企業を取材してまとめる『旅する冊子』

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――若松さんがクラウドファンディングで作成した『旅する冊子』。具体的にはどんな冊子なのでしょうか?

若松さん:『旅する冊子』は学生が茨城県内の企業を取材・執筆して作った冊子で、企業紹介や会社見学の様子、社長や若手社員のインタビューなどが掲載されています。

―― 学生自身が取材して執筆するんですか!

若松さん:そうなんです、なかなかないですよね。学生のころって、なかなか企業に触れる機会も少ないし、働くことをイメージできないじゃないですか。

――社会に出て働くことに、なんとなく怖さを感じることもありますよね。

若松さん:そうです。学生たちが抱えている「働くことへの漠然とした不安」を少しでも取り除ければと思いました。学生から企業にお邪魔して、何をしている企業なのか、どんな人が働いていて、どんなことを考えながら働いているかを取材してもらいました。

――学生ならではの冊子ができそうですね。こうした取材をするようになったきっかけはあったのですか?

若松さん:元々、1・2ヶ月ほどの長期インターンシップのコーディネーターをしていました。そのときに学生側から「やりたいことがない」「できれば働きたくない」という言葉をよく聞いていたんです。

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――インターンを希望してくる学生ならば、やりたいことがありそうですが…。

若松さん:うーん。やりたいことがあるというよりも、「大学とサークル、バイトしかしていないけど、このままで良いのかな?」と不安に思ってインターンにくる学生が多いですね。

――「不安だからインターン」という消極的な理由の学生が意外と多いんですね。

若松さん:そういう学生に「どの企業でインターンしたい?」と言っても、どんな仕事がしたいか分からないからはっきりした答えを得られない。それなら「もっと多くの企業に触れたほうが良いのではないか」と、1日1社訪問する取材型インターンを思いついたんです。

――なるほど。『旅する冊子』には、若松さんの「たくさんの企業に触れてほしい」という想いが詰まっているんですね。

若い人が地域産業に触れる機会を増やす重要性

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――若松さんはもともとどのようなことをされていらっしゃったんですか?

若松さん:僕は茨城県出身なのですが、東京の大学・大学院と進学し、新卒でインターネット広告をメイン事業とするベンチャー企業に入社しました。1年目で60以上の広告案件に携わり、海外企業と連携した事業立ち上げや、SNSやスマートフォンを使った新規事業開発などを担当していましたね。

――バリバリのIT業界ど真ん中じゃないですか…! 今とは少しイメージが違うお仕事だったのですね。

若松さん:そこから自治体向けの食と農のシンクタンク会社へ転職し、6次化産業のコンサルティングや農家に向けたマーケティング講座などを担当していました。

――すみません……。「シンクタンク」ってなんですか?

若松さん:シンクタンクというのは、幅広い領域の専門家を集めて調査したり、研究したりする仕事です。様々な社会課題の解決方法を提案する会社と思っていただければよいかと思います。

――なにか決まった仕事があるわけではないのですね。そこで、どのようなお仕事をするようになったのでしょうか?

若松さん:2年目くらいから島根県松江市でめかぶの漁獲や選別・洗浄するスタッフの方々と「めかぶドレッシング」を作るプロジェクトを始めました。そこに島根県内の大学に協力してもらって、学生さんもプロジェクトの一員として入ってもらったんです。

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――学生さんたちにとって、働くをイメージできる良い機会ですね!

若松さん:地域活動に関心を持つ学生さんばかりだったので、みんな積極的に意見を出したり、手伝ったりしてくれました。そしたら、学生さん側だけでなく、働いているスタッフにもよい効果が現れたんです。

――働いているスタッフにもよい効果……ですか?

若松さん:表情が明るくなって、普段の仕事もモチベーションが上がっているようでした。学生から興味を持って話しかけられることで、仕事に対する誇りが生まれたように見えたんです。

――学生さんにとっても、働き手側にとっても、良い効果が出たのですね。

若松さん:若い人が地域の産業に触れる機会が不足していたことを実感しました。働き手側にもメリットがあるのであれば、もっと関わる機会をつくって、誰かが見せていかないとと感じるようになりました。

学生が選択する幅を広げてあげたい

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――そんな課題を知って、その後はどのような動きをされたのでしょうか?

若松さん:1社目でIT業界を、2社目で地方の課題に触れられたので、そろそろ地元に戻ろうと、茨城県の地域おこし協力隊に応募しました。

――また随分と急な…!

若松さん:そうでもないんですよ。元々、地元を出たタイミングから30歳までには戻ろうと考えていたんです。

――そうだったのですね。地域おこし協力隊では何を?

若松さん:日立市を中心に計6市のインターンシップのコーディネーターとして働いていました。

――インターンシップのコーディネーターとは具体的にどんな仕事をするのですか?

若松さん:企業と学生をつなぎ合わせる役目ですね。学生が夏休みや春休みを使って1〜2ヶ月間、企業でインターンシップをするので、企業側と学生側の調整を行なっていました。企業側には「今までやりたいと思っていたけど、できていないことはありませんか?」と仕事を募って、学生に周知。それを見て学生が応募してインターンを始めます。

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―― インターンシップだと、学生側にとっても学びが多そうですね。

若松さん:それまでは大企業志向だった学生も、規模にはこだわらずに就職活動をするなど、学生側にも一定の効果はありました。でも、学生側からの「やりたいことがない」というような言葉がどうしても引っかかるようになってきたんです。

――企業や仕事とマッチングするのも難しくなりますよね。

若松さん:そうですね。「この業界に行きたい!」と強い想いがあるわけではないので…。

――「この業界に行きたい!」というような、明確な目標を持ってもらうために、何をしたいと思っていましたか?

若松さん:学生に「もっと選択の幅を広げてあげたい」と思っていました。学生がその仕事をやりたいかどうかのマッチングをみるために1ヶ月間もインターンを続けることは効率が悪いと思ったんです。それならば「複数の企業と触れてみたら良いんじゃないか」と、取材型インターンを計画し始めました。

学生が取材先の企業に内定!

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―― 取材型インターンとは、具体的にはどのような活動なのでしょうか?

若松さん:学生が1日1社ずつ回り、社長や若手社員にインタビュー。それらを一冊の冊子にまとめます。

――冊子にまとめる際に意識していたことはありますか?

若松さん:意識して取り入れたのは、3〜5年目の若手社員に入社当時のことや現在の働き方、今後目指したい未来の話を聞くこと。学生が働き始めたときのことをイメージできるように、あえて若手に声をかけてもらうようにしました。

――初めて実施したのはいつ頃ですか?

若松さん:2018年夏に1回目の取材型インターンを企画しました。会社名で選べないように、どこの会社に行くか分からない状態で募集したところ、予想以上に応募が殺到したんです。

――1回目からすごいですね! そのときはなぜ応募が殺到したんでしょうか?

若松さん:後から話を聞くと「志望動機を言わなくても良いのが嬉しかった」ということでした。やりたいことがないにも関わらず、やりたいことや志望理由を言わなければいけないのは、ハードルが高かったみたいですね。

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――たしかに考えてみれば、志望しているわけじゃないのに、志望理由なんて思いつかないでよね。1回目はどんな会社があったのでしょうか?

若松さん:地元の中小企業を中心に、大変なイメージが強い仕事も多くありました。障がい者施設や介護施設、地元の中小企業、電気工事会社などです。

――なぜ大変なイメージが強い仕事を多く入れたんですか?

若松さん:一見すると応募が集まりにくい仕事ですが、実は中小企業って、意外と面白い活動をしているんです。学生側から見えていない可能性を学んでほしいなと思って選定しましたね。

――印象に残っている企業はありますか?

若松さん:「日本一楽しいクリーニング店」をコンセプトに活動している株式会社ユーゴーさんは印象深いですね。2018年に取材型インターンに参加した学生が、この会社に就職することになったんです。

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――え! 取材型インターンから内定者が出たんですか。

若松さん:そうなんです。ユーゴーさんは、お客さんと仲良くなってファンを作ってくださいねと考える会社で、人材育成に力を入れています。若手社員のインタビューで「こんな先輩になりたい」と惹かれ、志望したそうです。

――嬉しいですね〜。事業全体としても可能性は感じましたか?

若松さん:はい。企業側からも学生側からも反応が良く、事業の必要性を強く感じました。

初年度で課題を感じてクラウドファンディングに挑戦

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――2018年に初めて取材型インターンをやってみて、課題はありましたか?

若松さん:やはり、資金調達が難しかったです。受け入れ先の企業から協賛をいただこうと思っていたのですが、初めての取り組みだったため、かなり苦戦しました。結局、持ち出しで自分の会社から出さざるをえないことに……。

――資金は何をするにしてもネックですよね。資金不足を補うために行ったクラウドファンディングだったのでしょうか?

若松さん:「自分の活動は共感を得られるか」を図る目的もありました。「地域の中で地域を担う人材を育成する。」これこそが、地域の未来においてもっとも重要なことだと思っています。

――具体的にどのようなことでしょうか?

若松さん:「地域全体で若者を育成しよう」という意識の醸成がなければ、継続した活動は難しい。地元の企業と学生の情報をたくさん伝えて、それぞれの魅力を知ってもらう。それがきっかけとなり、地元を誇りに思い、地域に積極的に関わるようになってほしいと考えました。

リアルな場の形成と関係性作りが重要

―― 若松さんのクラウドファンディングは見事122%達成されましたね。期間中、工夫したことはありますか?

若松さん:途中からとはなってしまいましたが、活動報告を毎日更新するようにしました。自分自身の思いや活動の進捗はもちろん、昨年参加してくれた学生の声なども掲載。前年に取材した会社からも大変好評をいただきました。

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カウントダウンの意味も込め、途中から毎日更新

――毎日更新はすごいですね! 他に意識したことはありますか?

若松さん:やはりインターネットだけだと達成するのは難しいんですよね。リアルな場の形成と関係性作りを意識して企画しました。

――どんな企画をされていたんですか?

若松さん:「就活はなぜモヤるのか?」など学生向けのイベントを開催したりと、人との繋がりを意識するように心がけました。

――人との繋がりが、成果につながった体験はありましたか?

若松さん:もちろんありました。最後の最後に支援していただいたのは、知り合いの社長。最終日にイベントを開催し、「こんなクラウドファンディングに挑戦している」と話しをしたら、「そりゃ、達成しなきゃだめだ」と高額支援をしていただきました。

――若松さんが今まで培ってきた人の縁が繋がったのですね。

若松さん:本当にその通りだと思います。クラウドファンディングはインターネット上で成り立つものと思われがちですが、実は今までの人の縁と、信頼があってこそ成り立つもの。日頃の行いが「信頼」となって現れてくる場なんですよね。

――なるほど。クラウドファンディングの成功には、これまで積み重ねてきた「信頼」が問われると。

若松さん:信頼という意味で言うと、支援してくださった方からの熱いメッセージは嬉しかったです。私の事を全く知らない人でも、メッセージを見るとそれだけで信頼に繋がるんですよね。本当にありがたいことです。

本気を表現する方法はひとつじゃない

――2019年のクラウドファンディングで集まった支援金はどのように使われたのでしょうか?

若松さん:プロジェクトに記載させていただいた通り、冊子のデザイン費や印刷費、発送費、返礼品費などに使わせていただきました。

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冊子はパッと見でわかるデザインにこだわった

――現在、プロジェクトはどのような状況でしょうか?

若松さん:2019年も『旅する冊子』は完成しました。現在は近隣の大学や飲食店、シェアスペースなどに設置させていただいています。また、2年目は読んだ人が感想を書き込み、設置場所に戻して、また別の人が感想を書き込むことで、みんなで一つの冊子を作るようにしました。少しずつ感想も書いて増えていますよ。

――企業側からの反応はいかがですか?

若松さん:企業さんからは採用活動の一環として好評です。実際に学生が企業に来てくれるのが有難いと言われることもありますよ。また、社員さん自身が、会社や社員のことを改めて知る機会にもなっているそうです。

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――今後はどう展開する予定ですか?

若松さん:企業さんからも次回開催の要望を強くいただいています。さらに市役所からも地方創生の一環として実施したいと連絡をもらっています。コロナウィルスの影響がありますが、オンラインでの取材で検討しています。

――今後、クラウドファンディングに挑戦する人にアドバイスをするとしたら、どんな言葉をかけますか?

若松さん:「本気であれ」と伝えたいです。「何がなんでも本気でやるぞ!」という意気込みがなければ、思いは他の人に届きません。思い返せば、僕が支援する側のときも「この人なら支援を有意義に使ってもらえるだろう」と信頼して支援してします。この本気が伝わるかどうかが鍵だと思います。

――本気を伝えるにはどうしたら良いのでしょう?

若松さん:本気を表現する方法はひとつではありません。活動報告の更新を1日も休まず毎日したのも、本気の表れ。人によっては直接会って、言葉で伝えることが本気の伝え方かもしれません。その人なりの本気の伝え方を探していけばよいと思いますよ。

――本気を伝えるにも、いろいろな方法があるんですね。

若松さん:そうですね。でも一番意識してほしいことは「信頼は、日頃の行いの積み重ね」ということです。日々の仕事や友人関係、こうした日々のやりとりの積み重ねが信頼される要素になるのです。

――クラウドファンディングのときだけ本気になればいい、というわけではないんですね。

若松さん:そうです。クラウドファンディングは日常の延長線上にあるんです。日々の行いを意識することを忘れないでいて欲しいなと思います。

――本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。


執筆/長谷川円香


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