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「直接声を届け、思いを伝える。」デフフットサル日本代表・野寺風吹さん

このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。

今回ご紹介するのは、デフフットサル日本代表の野寺風吹(@fubuki_nodera)さん。

野寺さんは聴覚障害者のサッカー、フットサル日本代表として活動していたのですが、自己負担の活動費用を捻出するためにクラウドファンディングを活用。

2ヶ月で目標の100万円を上回る、110万円の支援を集めることに成功しました。

どんなに良いプロジェクトであっても、なかなか注目されなかったり、支援が伸びなかったり……。プロジェクトオーナーには悩みが尽きないものです。

スタートの時には良い出だしを切れたとしても、そのあと伸び悩む……ということもしばしば。

野寺さんも途中で支援が横ばいになってしまい、大いに悩んだこともあったそうです。

そこから地道な活動を重ね、プロジェクトを成功させました。その秘訣を探ります。

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野寺風吹さん / 筑波大学体育専門学群4年次スポーツ産業学研究室所属、デフフットサル日本代表。2歳の時に両耳に感音性難聴があることが発覚。2019年1月より、株式会社メルカリとアスリート契約を締結し所属。北海道上富良野町出身。

デフサッカー、デフフットサルの厳しい実情

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左:野寺さん

――野寺さんとデフサッカー、デフフットサルとの出会いはいつ頃なんですか?

野寺さん:自分は大学入学まで12年、ずっとサッカーをしていたのですが、大学入学時にデフサッカーとデフフットサルに出会いまして、そこからデフサッカー・デフフットサルをやるようになりました。

――初歩的な質問で恐縮なんですが……デフサッカーって、どんなものなんでしょうか?

野寺さん:デフとは英語で「聴覚障害者」という意味です。普通のサッカーとルールは全く同じで、補聴器を外すだけです。

――補聴器を外してサッカーをするって、難しいんじゃないですか?

野寺さん:そうですね。そのため、デフサッカーでは選手同士や選手監督間でのコミュニケーションが不可欠で、競技レベルに大きく左右してきます。補聴器を外すため、声が聞こえずハンデとなりますが、アイコンタクトや手話、身振りなどを使って補うんですよ。

――なるほど! 野寺さんも今は補聴器をつけてらっしゃるんですよね?

野寺さん:はい。自分は生まれつき感音性難聴があり、両耳に聴覚障害があります。左耳は比較的障害が軽いので、補聴器をつければ日常会話ができます。

――そうなんですね! そんな野寺さんがクラウドファンディングを必要とした理由とはどのようなものだったんですか?

野寺さん:デフサッカーの日本代表に選出されたんですよ。でも、デフサッカーとデフフットサルは、遠征や合宿にかかる費用が自己負担なんです。それで、クラウドファンディングではその活動資金を募りました。

――日本代表なのに、自己負担なんですね。普通は活動資金はどうやって工面するんですか?

野寺さん:学生だと親から援助を受けたり、大学によっては大学から援助を受けて活動しています。社会人だと、仕事での収入や障害年金を活動費にあてているんです。でも、自分は大学からの援助も難しく、障害年金も交付基準に達していなくて。

――自己負担となると、学生さんですし収入が限られていますよね。

野寺さん:はい。アルバイトもしていたのですが、部活動や学業と並行して稼ぐのには限界があって。活動資金のためにアルバイトを増やしても、それで練習時間を取れなくなっては、本末転倒なので。それでクラウドファンディングをしようと思い立ちました。

業界の未来を考えてクラウドファンディングを選択

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最後列の左から4番目が野寺さん

――資金を集めなければならないとなった時に、あえてクラウドファンディングを選んだ理由はなんですか?

野寺さん:単なる資金集めではなく、実績づくりや、デフサッカー、デフフットサルの知名度アップにも、この機会を生かそうと思ったからです。今後は、自分のように苦労する人が少なくなってほしいという気持ちもありました。

――資金集めだけであれば、自分だけでスポンサーを見つける方法もありますからね。そうではなく、その後のことや、業界全体のことも考えたと。

野寺さん:はい。クラウドファンディングが大変というのも理解はしていたのですが、学生の身分でスポンサーを見つけるのも大変です。いずれにせよ大変なのであれば、クラウドファンディングに挑戦したほうが得るものが多いと考えました。

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――クラウドファンディングをやることに対して、周りの方の反応はいかがでしたか?

野寺さん:実家の家族は、やはりまだクラウドファンディングというものに馴染みがなく、心配そうな様子でした。部活のみんなは応援してくれましたね。部活でクラウドファンディングをやったことがあったので理解がありました。

停滞期を脱するためにオフラインで動きまくる

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――部活のみんなにも応援されて、クラウドファンディングは順調なスタートを切ったのではないですか?

野寺さん:実は、そういうわけでもないんです。

――えっ、なにかトラブルが……?

野寺さん:本来、翌年2019年の2月のタイでのデフフットサルアジア予選のための資金集め、と思い、12月にクラウドファンディングを計画していたのですが、12月にスペイン遠征が入ってしまって。慌てて前倒してスタートさせました。

――かなりドタバタなスタートでしたね。かなり大変だったのでは……

野寺さん:はい、準備不足だったなと思っています。あの頃の自分に「もっと早くから準備をしてくれ!」って伝えたいですね。もっといろいろスムーズにできたはずなのに……。

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――支援の集まり方はどうでしたか?

野寺さん:最初の2週間ほどで20%弱くらいでしょうか。主に友人、知り合いなど身近な人が支援してくれました。

――いいスタートダッシュを切れたのですね。その後は……。

野寺さん:その後は、かなり伸び悩みました。1ヶ月ほどほぼ横ばいだったような気がします。残り2週間くらいの時点で、まだ達成率40%くらいだったかと思います。

――では、その残り2週間で、残りの60%を集められたのですね。

野寺さん:そうですね、残り2日ほどを残したところで100%に達しました。ギリギリといった感じです。目標額に1円でも足りないと不成立になってしまうAll or nothingのシステムを使ったので、達成しなければ不成立になってしまうところでした。

――停滞期を抜け出すためにどんなことをしたんですか?

野寺さん:とにかく、オフラインで動きまくりました。

――オフラインで! イベントなどでしょうか。

野寺さん:そうです。起業家の方がよくいらっしゃるイベントに行って、お時間をもらってプロジェクトについて紹介させてもらいました。あとは、デフサッカーやデフフットサルをやっている子どもたちのチームにお邪魔して親御さんたちに紹介させてもらったこともあります。

――反響はどうでしたか?

野寺さん:自分と同じような難聴を持つ子どもをお持ちの親御さんは「子どもが大きくなった時の社会」をイメージしてくれました。親身に話を聞いてくださり「私の子どもが大きくなったときに、もっとよりよい環境があってほしい」と心から応援してくださいました。

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――かなりアクティブに動かれたんですね。

野寺さん:それはもう必死にやりました。あとは、地元の新聞社に連絡を取らせてもらって、新聞の記事にしてもらったりもしました。

――すごいですね! 支援は増えましたか?

野寺さん:オフラインでの活動の積み重ねで、少しずつ増えていって。イベントで知り合った方が支援してくださったり、直接お金を渡してくださったり。やはり、直接声を届け、思いを伝える重要さを感じました。

リターンにお金をかけるべきなのか?

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――不安になってしまったり、心が折れそうになってしまったことはありましたか?

野寺さん:そうですね……。途中不安になってしまったことはありました。自分のプロジェクトは、リターンと呼べるリターンがなく。「支援する側にとっては魅力的ではないのではないか」「もっとTシャツなどの商品を用意した方がいいのではないか…」などと考えてしまっていました。

――自分のリターンに自信が持てなくなってしまった……という感じでしょうか。

野寺さん:はい。他のクラウドファンディングのプロジェクトを見ると「なかなか豪華な品物を用意しているなぁ」と思いまして。自分のリターンは、感謝のお手紙や旗へのクレジット記載など、応援の要素が強いものでした。

――それでも、最終的にはそのままのリターンで駆け抜けましたよね。心情の変化があったのでしょうか。

野寺さん:グッズを作るのにも時間がかかるし、お金もかかります。お金がなくて支援を募っているのに、その中からお金をかけてグッズを作るのは本末転倒だと気づきました(笑)

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――支援者はグッズが欲しいのではなく、応援したい気持ちでお金を払っているんですもんね。

野寺さん:せっかく支援していただいた皆様のお金なので、本来の予定通り、すべてを自分のデフサッカー・デフフットサルの活動に使うべきだ、と思うようになりました。

――本来の使い道ができるように突き通したわけですね。

野寺さん:支援してくださった方は、デフサッカー・デフフットサルの将来をよりよいものにするために、自分にお金を託してくれたのだと思います。その気持ちを無駄にせず、支援してくださった方のために1円でも多く活動のために使うのが誠実だと思っています。

応援したいと思ってもらえる自分で

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――序盤は部活の方々が支援してくださったと聞きました。直接の支援以外にもサポートはありましたか。

野寺さん:そうですね。「こんなイベントがあるから、行ってみたら」など、オフラインでのイベントの情報をくれたのは部活の仲間たちでした。

――なるほど。それは重要な情報でしたよね。

野寺さん:オフラインでの活動が最後の追い上げに繋がったと思っていますので、とてもありがたかったです。そのようなイベントの縁で支援の輪が広がったり、コミュニケーションが取れる方と数多く出会えたりしました。自分ひとりだけではキャッチできない情報だったと思います。

――プロジェクトのページの中で、応援メッセージにひとつひとつレスをつけていらっしゃいますよね。それに、こまめに活動報告されているのが印象的でした。

野寺さん:そこはもう、戦略的にではなく「自分のできることを最大限にやっただけ」という感じです。支援者の方のためにも「応援したいと思ってもらえる自分でいなきゃいけない」と思いました。

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――様々な方の応援、支援、サポートで成功したプロジェクトでしたね。責任も重大ですが、今後の活動への自信にもつながったのではないでしょうか?

野寺さん:はい。クラウドファンディングで応援してくださった皆様をはじめ、多くの方々のおかげで今の活動ができていると思っています。支援してくださった方が「この人を支援してよかった」と思って下さるように、デフサッカーやデフフットサルの地位向上を目指して、今後も活動していきたいです。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

自分の声を「直接」届ける重要性

クラウドファンディングはFinTech領域のサービスとして、インターネット上で気軽に支援を募れるのが大きな魅力のひとつでもあります。

しかし、あくまで支援するのも人、されるのも人。そこには感情のやりとりや、熱狂が存在します。

野寺さんは、迷いながらも「自分が求められていること」を決して忘れず、また、自分の声を多くの人に直接届けることでプロジェクトを成功させました。

プロジェクトの成功は実績になり、今の野寺さんの活動があります。

プロジェクトでのひとつひとつの支援が野寺さんを後押しし、ひいてはデフサッカー・デフフットサルの環境改善に繋がっていく……。そんな未来を感じました。


執筆/タケダシューコ

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