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「会わないと、情熱は伝わらない。」医療通訳冊子「HELP YOU」古山正裕さん

このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。

クラウドファンディングの活用にはさまざまなスタイルがありますが、なかでも注目を集めるのが、ソーシャルグッドの領域です。

「困っている人に必要なサービスや製品を届けたい」
「社会課題を解決する活動を広げたい」

このように、社会を変えたいという強い想いを持っていても、活動が収益になりづらいことも多いのではないでしょうか。

そんなときにクラウドファンディングで資金を集められれば、より効果的に活動を実践でき、社会を変えたいという想いを形にしやすくなります。

プロジェクトを実施する方のみならず、支援者にとっても社会課題を解決する取り組みに参加できるのは有意義なことです。

今回取材させていただいたのは、HELP YOU代表の古山正裕さん。日本で暮らす外国人向けの医療通訳冊子「HELP YOU」プロジェクトで、クラウドファンディングを成功させました。

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古山正裕さん / HELP YOU代表。1991年生まれ。千葉県出身。大学院卒業後、メーカーに勤務。学生時代から留学生の医療通訳支援に従事し、現在もボランティアとして外国人と医者双方の橋渡しを行う。

「歯が痛いのに日本語で伝えられない」医療通訳冊子とは?

――今回クラウドファンディングを実施された「HELP YOU」とは、どんなプロジェクトですか?

古山さん:日本に滞在する外国人が安心して医療を受けられるように、指差すだけで医師とコミュニケーションがとれる医療通訳冊子「HELP YOU」をつくるプロジェクトです。今回のクラウドファンディングは、僕が学生の頃から作っていたその冊子を、仲間とリニューアルするために行いました。

――冊子を使ってコミュニケーションとは、具体的にどのようにやるんですか?

古山さん:「HELP YOU」に掲載された、外国語で書かれた体の部位や痛みの感覚などを外国人の患者さんが指差して、コミュニケーションを図ります。医師と言葉の壁を乗り越えて、スムーズな意思疎通ができるようになります。

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古山さん:医師に正確に症状を伝えるのが困難という課題があります。外国人の友人も「歯が痛いのに日本語でうまく伝えられない」と言っていました。

――医療機関はそういった外国人に対し、どれぐらい対応を行っているものなんでしょうか?

古山さん:医療機関251件にアンケート調査を行ったのですが、外国人を受け入れられる医療機関は26%に留まっていました。日本人への対応に精一杯で、外国語に不慣れな医師も多いことが要因だと思います。そこで、学生時代に医師とのコミュニケーションを円滑にする冊子づくりに取り掛かりました。

――学生時代に作っていた冊子はどんなものだったんでしょう?

古山さん:学生時代に作っていた冊子は「HELP Mee」という名前でした。実際に外国人が使ってくれたり、置いてくれる病院もあったりしたんです。でも、デザインの知識がない自分が作っていましたし、通訳も自分でやったので「もっと改善できるな」と。

――なるほど。実際に活用することで、改善点に気づいたわけですね。

古山さん:「HELP Mee」はありがたいことに、地元の新潟市内の病院などで実際に活用いただいているほか、東京や大阪からも「冊子を活用したい」というご要望をいただくことが増えてきています。そこで、さらに使いやすい冊子にするためのリニューアルを決めました。

英語が苦手だった古山さんが医療通訳冊子を作るまで

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――古山さんは、どんなきっかけで外国や外国人に興味を持ったんですか?

古山さん:実は高校まで英語が一番苦手だったんですよね……。絶対やりたくないな、と思ってました。

――そうなんですか!? 苦手だったのに、なぜ医療通訳冊子を作るまでに……。

古山さん:浪人生時代に予備校で出会った先生が、英語に対する印象を変えてくれました。その先生は、外国の文化を教えてくれたり、英語を体系的に指導してくれたりして、“英語そのもの”を教えてくれたんです。

――その先生のおかげで英語が好きになったんですね。

古山さん:大学受験が終わっても、自らすすんで勉強するくらい好きになりました。その先生とも仲良くなって、大学時代には先生と一緒にイギリスに旅行したんですよ。

――へぇ! ずいぶん変わりましたね……。

古山さん:先生とのイギリス旅行がきっかけになり、イギリスに短期留学しました。留学中に印象的だったのは、現地アシスタントに助けてもらったことです。右も左も分からない僕に、日常生活や語学学習の相談、観光地案内まで、親身に相談に乗ってくれました。

――ご自身が「外国人」の立場となり、貴重な体験をされたんですね。

古山さん:僕の不慣れな英語や、時間のかかる会話にも、嫌な顔ひとつせずに理解しようと最後まで聞き入れてくれる姿勢にとても感動しました。それがきっかけで、帰国後には外国人留学生支援のボランティアを始めたんです。

――ボランティアではどんなことを?

古山さん:留学生の寮で一緒に住んで、生活や学習をサポートしていました。支援というよりも、友達としてフラットに付き合っていましたね。留学生とは生活も文化も違うので、いろんな壁があったんですけど、なるべく気持ちよく過ごせるようにしたいなと思って接していました。

――留学生との生活で印象的だったことはありますか?

古山さん:120人程集めて、ハロウィーンパーティーを開催したことですね。DJを呼んだり、アニメが好きな留学生が多かったので、オタ芸のできるダンサーを呼んだり。そのように、留学生と一緒に暮らしていく中で「歯が痛いことをうまく伝えられない」という困りごとを知りました。

――留学生と生活していた古山さんだからこそ気づけた課題だったんですね。

古山さん:そうかもしれません。彼らは、病気になったときにどうしたらいいかわからないんです。風邪をひいた、歯が痛い、矯正の器具が外れてしまった、骨折した……。でも、病院がどこにあるのかわからないし、お金のこともわからない。そして通訳の問題もありました。そこで医療通訳冊子「HELP Mee」を作って、彼らに活用してもらったんです。

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古山さん(左端)と寮のみなさん

クラウドファンディング成功の秘訣は「直接会うこと」

――今回のプロジェクトは、その医療通訳冊子のリニューアルということでしたね。

古山さん:デザインや翻訳、監修などを専門性のあるみなさんにお願いして、もっと広く使ってもらえる冊子を作りたいと考え、クラウドファンディングに挑戦しました。翻訳では、寮にいた当時の留学生にも仲間になってもらっています。

――当時の仲間も参加されたんですね! そして、65万6千円のご支援を集めて見事に成功されました。

古山さん:第一関門を突破して、ホッとしました。達成できなかったらどうしようか気が気でなかったですが、成功できてやっと本腰でプロジェクトに注力できると思い、安堵感があります。

――成功した要因はどんなところにあったと思いますか?

古山さん:とにかく足を使って色々な方に会いに行きました! LINEやMessengerのような文字だけでは想いが伝わらないので、face to faceで自分の活動や思いを伝えたことがよかったと思います。

――へぇ! どんな人に会いに行ったんですか?

古山さん:大学時代の先生や先輩、大学の学長さん、新聞社の元社長さんなどを紹介していただいたりもして、いろんな方に会ってプロジェクトのことをアピールしていきました。会わないと、情熱は伝わらないと思います。

――たしかに文字だけの情報と、実際に会うのとでは伝わり方が全然違う気がします。

古山さん:大学のとある先生は、会いに行く前からプロジェクトを知ってくれていたんですけど、僕がそれをやっているとは知りませんでした。お会いしたことで「古山くんがやってたんだ」と言って、その場で支援してくれました。

――その場でですか! それも凄いですね。

古山さん:支援に興味があっても、意外とクラウドファンディングの手続きが面倒だったりするんですよね。直接会えば、手続きの方法もその場でお伝えできますからね。

――ラジオにもご出演されたとか。

古山さん:はい。毎朝やっている地元のラジオ番組に出演しました。パーソナリティの方が知り合いだったので、制作側に紹介してもらったんです。

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ラジオに出演する古山さん

――すごいですね! ウェブが発展している今でも、クラウドファンディングに限らず、さまざまな場面で「会うこと」は重要なんですね。

古山さん:そう思います。僕は本業で注文住宅の営業職をしているんですが、その場でも「会うこと」の重要性は感じますね。お客様には、ウェブに載っている情報をそのまま伝えても意味がないじゃないですか。

――会わなくても、ウェブを見ればいいですもんね。

古山さん:はい。だから僕は、土地を探している方がいたら、空き地がないかな、と街をまわったり、地元の不動産屋に飛び込んだりするんですよ。すると「今来てくれたから情報をあげるけど」って教えてくれることがあります。

――なるほど。お仕事での経験が活きているんですね。

古山さん:営業職も、実はもともとやりたくなかった職種だったんですけどね……。

クラウドファンディングは自分を変えてくれた

――英語に続き、営業職もやりたくなかったと……。

古山さん:人見知りで恥ずかしがりだったんです。それに、何でもひとりで解決しようとするタイプでした。でも、今回のクラウドファンディングを経験して、今では営業職が好きになりました。

――クラウドファンディングがきっかけになったんですね。

古山さん:クラウドファンディングのサイトは誰でも見られるじゃないですか。そんな場所で自分をさらけ出したことで、どうやって話したらいいのか、どういう表情をしているのか、といったことをすごく気にかけるようになりました。自分を変えたかったんですよね。

――変わりましたか?

古山さん:変われたと思います。僕は他の人に同調して動くことが多くて、先頭に立ってやるタイプではなかったんです。そういう自分が嫌だったので……。今回の挑戦を通して、主体的で積極的な自分に変われたことで、相乗効果が生まれたと感じています。

――自ら進んで動けるようになったことが、営業のお仕事にも、クラウドファンディングにもよい効果をもたらしたんですね。

古山さん:そうです。今回とにかく必死でやった結果として、自分って何者なんだろう、と考えるきっかけになりました。クラウドファンディングにも仕事にも活きました。

――最後に、これから挑戦する方に向けてメッセージをお願いします。

古山さん:SNSやメールだけで心を動かすのって難しいですよね。直接相手の顔を見て、自分の想いを伝えるのが一番いいと思います。会ったことで「学生時代からそんなことしてたんだ」と知ってくれて、僕に対してマイナスのイメージを持っていた人でもプラスのイメージに変わったという方もいました。支援してもらって終わりじゃなくて、そこからが関係性の始まりなんです。

直接会うのが難しい方でも、メールなどでお知らせを送るときには、テンプレートじゃなくて、その人その人に向けての内容を変えて、メッセージを送るように意識してください。そういう一人ひとりを大切にする気持ちは伝わるんじゃないかなと思います。

やってみて初めてわかることもあります。僕はもともと引っ込み思案な性格でしたが、そんな殻も破れる自分に気づけました。やりたいこと、思っていることがある人は、まず「毎日noteを書いてみる」「Twitterを毎日投稿する」など、発信してみることをおすすめします。

――熱いメッセージをありがとうございました!

成功の秘訣は直接想いを伝えること

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ご自身の体験に基づいて明確に課題を認識し、資金を集め、必要としている方に届ける――。

ストーリーのあるソーシャルグッドな活動であり、クラウドファンディングを成功に導けたのも納得です。

成功の秘訣は、足を使って直接想いを伝えること。

古山さんは本業がありながらも、その合間を縫って、足を動かしてプロジェクトを成功させました。情熱を持って、できることを着実に実行していったからこそだと思います。

ちなみに現在、医療通訳冊子「HELP YOU」の制作が佳境を迎えているとのことです。日本に滞在する外国人が暮らしやすい社会を実現するためにも、古山さんのさらなる活躍に期待したいですね。 

執筆/えんどーこーた

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