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「強烈に感じたことって、必ず誰かにも響く。」いぬのけテキスタイル・唐木美帆さん

このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。

今回ご紹介するのは、愛犬の抜け毛を集めて、ブランケットやマフラーなどを作るサービス「いぬのけテキスタイル」代表の唐木美帆(@inunoke_textile)さん。

「いぬのけテキスタイル」は、Makuakeのプロジェクト開始後3日間で100%達成、最終的には767%を達成しました。

どんな想いでこのプロジェクトが生まれたのか。そして、プロジェクトが共感を生んだ理由とは。代表の唐木美帆さんにお話をうかがいます。

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唐木 美帆さん「いぬのけテキスタイル」代表。アパレル、繊維製造、繊維の機能性評価などに約7年間従事。2016年、東京都国立市にて愛犬の毛100%でプロダクトをつくる「いぬのけテキスタイル」事業をスタート。

愛犬の「毛」でつくる布小物

――「いぬのけテキスタイル」のプロジェクトとはどのようなものなのでしょうか。

唐木さん:愛犬の抜け毛を使って、布小物をお作りするサービスです。プロダクトには、マフラーやブランケット、セーターといったものがあります。

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サモエドの抜け毛100%から仕立てたブランケット

――わあ、めちゃめちゃさわり心地がよさそうですね…! 愛犬の抜け毛って、どうやって集めるんでしょうか?

唐木さん:日々のブラッシングで抜けた毛を集めるんです。「いぬのけ収穫バッグ」という袋に愛犬の毛を入れて送ってもらいます。その毛から糸を紡ぎ、昔ながらの機械を使って注文の品をじっくりお作りします。

――購入から製品が出来上がるまで、全体でどれくらいの期間かかるんでしょうか?

唐木さん:1番小さな「いぬのけテキスタイル “mini”」という商品ですと、毛を返送いただいてから、およそ2〜3ヶ月くらいです。犬種や個体差にもよるので、一概には言えないのですが。

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いぬのけテキスタイル”mini”

――愛犬の毛を集めるのは、けっこう時間がかかるものですか?

唐木さん:犬種と集めていただく時期にもよりますが、けっこう時間はかかります。暖かい季節は「換毛期」という毛の生え代わりの時期になりますので、比較的早く集めることができますね。

いつまでも愛犬の手触りを感じていたい人のために

──私は犬を飼ったことがないのですが…。ブランケットができるほど犬から抜け毛が出ること自体、初めて知りました。

唐木さん:犬種によるんですけどね。トイプードルとかはほとんど抜けないのですが、柴犬とかは思ったより抜けます。とくに何をするわけでもないけど、かわいい愛犬の毛を捨てられなくて取っておく方も案外多いんですよ。

――飼い主さんは、愛犬の抜け毛でブランケットやマフラーを作ってみたいという気持ちになるものなんですか?

唐木さん:そうですね。私たち自身、犬を飼っていて「何か形に残るものを作っておけばよかった」と思ったことがアイデアが生まれたきっかけでした。

――どうしてそのような気持ちになるんでしょうか?

唐木さん:犬も猫も寿命は13年くらい、長くて20年と言われています。寂しいけれど、飼い始めたその瞬間から、いつかお別れするということは決まっていて。飼い主さんは、それを意識する瞬間があると思うんです。

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――なるほど。「大切な家族の思い出を、いつまでも残したい」という気持ちなんですね。

唐木さん:犬の魅力のひとつは、あったかくてモフモフの触り心地だと思っています。ペットを飼ったことがある方は、「愛犬の手触りをずっと手元で感じられたら」と、一度は思うんではないでしょうか。

――モフモフの感触を形に残すというと、他にも手段が考えられますが、なぜ「抜け毛から布小物」という形になったんでしょうか?

唐木さん:ペットのメモリアルグッズの中には、愛犬に似せたぬいぐるみを作る等の素晴らしいものもあります。私たちは「生活に違和感なく溶け込んでいるようなもの」が欲しいなっていう想いがありました。そこが出発点となっています。

――「自分だったらどういうものが欲しいか」という点を突き詰めていったんですね。だから共感されたのかもしれませんね。

唐木さん:そうだと思います。お礼のお手紙やメールをいただくことがあり、愛犬の手触りを形として残せて嬉しいという声をいただきます。ブランケットを触って、手触りやぬくもりを思い出すという感想もいただきますね。

――やっぱり「手触り」なんですね。

唐木さん:そうですね。普段づかいするというより、夜寝る前に出して触り心地を懐かしむという使い方をされる方が多いようです。

――そういった使われ方は想定していましたか?

唐木さん:想定していました。そのため、大事に保管できるように特製の桐箱に入れて送っています

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桐には防虫効果もあり、布の保管に適している

専門家に「絶対に無理!」と言われた技術を開発

――プロジェクトページを拝見して、犬の毛100%で布を作ることの難しさがよくわかりました。技術開発にはかなり時間がかかったんじゃないですか?

唐木さん:事業開始は2016年なんですけれど、開発は2015年ごろからやっているので、丸2年程かけて試行錯誤を繰り返したことになります。

――丸2年…。もっとも難しかったポイントはどこでしょうか。

唐木さん:やっぱり糸を紡ぐ過程でしょうか。犬の毛100%で糸を紡ぐというのは、けっこう大変で。専門家の方に「絶対に無理!」と言われたりもしたほどです。

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工業用の紡績機ではなく、手紡ぎで糸を紡ぐ

――犬の毛100%の糸を紡ぐのは、なぜ難しいのでしょうか。

唐木さん:犬の毛は他の毛と比べて繊維が短いということと、「クリンプ」といわれる縮れが弱く、繊維が絡みにくいというのが主な理由ですね。つなげても強度が出なくて、テキスタイルにするのが非常に難しいんですよ。それで、工業用の紡績機ではなく、手紡ぎを採用することにしました。

――たいへん試行錯誤されたんですね…。諦めてしまいそうになったときはありませんでしたか?

唐木さん:どちらかというと楽しんで取り組みました。他に先駆者がいなくて初めてのことだったので、楽しかったんです。

――たしかに犬の毛で製品をつくる人はなかなかいないですよね……。

唐木さん:趣味で犬の毛から糸を紡ぐ方もいらっしゃるようですが、犬の毛100%の糸で、機械を使って製品まで作るというところまでする方は、そうそういないと思います。

インフルエンサー、プラットフォームの力を借りて一気に拡散

――2019年の6月末から8月末の2ヶ月で目標額の767%を達成しましたが、想定内でいらっしゃいましたか?

唐木さん:さすがにそこまで行くと思ってなくて、予想外でした……。当初は、100%も行けるかどうか自信がなかったくらいです。

――支援が伸びた要因は、どこだと思われますか?

唐木さん:開始直後はMakuakeのTOPページの目立つ場所に表示されたこともあって、最初の3日間で100%に到達しました。中盤は、目立っては伸びませんでしたが、インフルエンサーの方の目に留まってSNSでご紹介いただいてからの伸びが非常に大きかったです。

――インフルエンサーの方は、どういうきっかけで「いぬのけテキスタイル」を知ったんでしょう?

唐木さん:ペットの投稿を頻繁にされている方に対して、クラウドファンディングを伝えるDMを送りました。そのうち、何人かが面白がってくださったという感じです。それから、Makuakeさんのタクシーの動画広告にも採用してもらったようです。

――プロジェクトの魅力が、プラットフォームであるMakuakeに伝播して、そこから拡散していったんですね。

唐木さん:そうですね。広告以外ですと、ユニークなプロジェクトを集めた「Makuake MEET UP DAY」というイベントで、展示の機会をいただいたりして。これもプロジェクトの募集期間中だったので、良いほうに影響したのかもしれません。

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「Makuake MEET UP DAY 2019」に出展した

――予想以上に注文が殺到したことで、お忙しいのではないですか?

唐木さん:プロダクトの特性上、一気に材料が届くわけではないので、その点は大丈夫です。大きいプロダクトになるほど、毛を収穫するのに時間がかかるので。

――そうでした。プロダクトをつくる材料は注文者自身が準備するんですもんね。

唐木さん:もともと納期を長めに設定していまして、いまのところトラブルもありません。支援者の方も気持ちに余裕があって、楽しみに待ってくださっている方が多いですね。

飼い主の気持ちの変化を丁寧に想像する

――資金調達の方法として、クラウドファンディングを選んだのはなぜですか?

唐木さん:広報費や設備費等で資金が必要だったんですが…。補助金等よりも申請作業が楽しくスピーディーに進み、資金使途等もフレキシブルだったので、クラウドファンディングを選びました。

――数あるプラットフォームの中で、なぜMakuakeを選ばれたのでしょう。

唐木さん:Makuakeの利用者属性と「いぬのけテキスタイル」のターゲットが近かったのが理由のひとつです。私たちのプロダクトは、感度の高い大人の女性に興味を持っていただけることが多くて。他のプラットフォームと比べると、Makuakeさんがもっともそういった層の方の利用も多いことがわかったんです。

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プロジェクトの世界観と合ったキャラクターが登場するリターンの手紙

――「大人の女性」にフォーカスしたのは、なぜですか?

唐木さん:クラウドファンディングに挑戦する以前から事業を開始していまして、問合わせをいただく方々の多くが「大人の女性」という雰囲気の方だったんです。プロダクトの性質上、決して安い金額帯のものでないということも関係していると思います。

――なるほど。ある程度ターゲットがわかった上で、クラウドファンディングを行われたのですね。クラウドファンディングで、思ったより大変だったことはありましたか?

唐木さん:前準備が結構大変で、時間がかかりました。本当は4月に始めたかったんですけど、結局プロジェクト開始は6月末になってしまって…。

――2ヶ月くらいプロジェクトのスタートが遅れたということですね。具体的にどんな準備をされたんでしょうか?

唐木さん:主には、リターンやページの設定です。プロダクトの特徴などのストーリーも、基本的に自分たちで作らないといけないので、その準備で時間がかかりました。

――「いぬのけテキスタイル」が多くの飼い主さんの共感を生んだのも、受け皿となるプロジェクトページで、丁寧に情報と想いを伝えたからこそですよね。ストーリーの見せ方で、こだわったことはありますか?

唐木さん:プロジェクト着想の原体験、開発までの経緯や想いについてはとくにこだわって、ストーリーをつくりました。

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――プロジェクトページは読んだだけでほっこりするような感じがありますね。温かみがあっていいなあと思います。

唐木さん:プロジェクトの着想に至った経緯や、開発で大変だったことなどを振り返る形になっています。小難しく説明するのではなく、ストーリー調ですっと入ってくるようにしました。

――たしかに。考えなくても、スーッと感じ取れるようなやさしいページのように感じます。

唐木さん:「私たちのプロダクトを手に取っていただくことで、感情がどのように動き、生活にどのような変化が生じるか」ということを何度もイメージし、また支援者の方にも自分に置き換えてイメージしていただけるように心がけて、画面を作っていきました。

――「支援者の方に生じる変化」というのは、どういうことを想定されましたか?

唐木さん:たとえば「亡くなったわんちゃんの毛が取ってあったとして、飼い主さんはどういう気持ちになるだろう」とか。それが時を超え、形を変えて飼い主さんのもとに届いたとしたら、生活にどんな変化が生じるか、といったことに思いを馳せました。

――かなり具体的に、ていねいにイメージをしていったんですね。

唐木さん:そうですね。「元気なわんちゃんだったとしたら、飼い主さんが日々ブラッシングをするときにどういう気持ちになるだろう」ということもイメージしました。今までは単なる作業だったものが、少しでも楽しい時間に変わってほしいと思って。

自分が強烈に感じたことは、きっと誰かにも響く

――プロジェクト目標額を達成したときは、どんなお気持ちでしたか?

唐木さん:単に「達成したから」というより、純粋に多くの方からのご支援や応援をいただいたことが、想像していた何倍も嬉しかったです。本当に励みになりました。コメントやメッセージでも勇気をいただき、その時の気持ちが原動力となっています。

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プロジェクトへの感謝やリターンを楽しみに待つ声が並ぶコメント欄

――今後も「いぬのけテキスタイル」は、クラウドファンディングで新しいことに挑戦していくのでしょうか?

唐木さん:はい。まだ実験中ですが、次は猫の毛や、短毛種の犬の毛への要望をいただいてますので、クラウドファンディングでトライしていきたいと思っています。

――おお、それはまた難しそうですね……!

唐木さん:やはり短い毛ですと技術上難しいので、次は100%にこだわらずに対応していきたいです。

――クラウドファンディングを行って、とくに印象的だったり、心に残っていることはありますか。

唐木さん:プロジェクトページには直接書いてはいないんですけれど、私たちの一番届けたいものは「手触りの再現」だったんです。

――そうですよね。

唐木さん:「五感のなかでも感触が忘れられないので、手触りを形として残せるのが嬉しい」というコメントをいただきました。

――それは嬉しいですね。言葉を飛び越えて、プロダクトの核にあるコンセプトが伝わったからこそ、「いぬのけプロジェクト」はこれほどまでに共感と支援を集めたのでしょうね。

唐木さん:私たちが一番届けたかったものが「ああ、ちゃんと伝わった」とわかったときは、嬉しいものです。

――最後に、今後クラウドファンディングに挑戦する方へ、アドバイスをお願いします。

唐木さん:クラウドファンディングは、応援していただける方を可視化したり、低リスクでプロジェクトをスタートすることができる、素晴らしい制度だと思います。自分で強烈に感じたことって、必ず誰かにも響く。自分の原体験や、自分自身の感じたことを大切に、トライしてみてほしいと思います。

――貴重なお話をありがとうございました!


執筆/井上ちひろ

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