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「応援してもらう前に、ギブをする。」フリーソフトボール選手・本庄遥さん

このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。

今回ご紹介するのは、ソフトボールの本庄遥(@number_1h)選手。フリーソフトボール選手として活動されています。

本庄さんはこれまで「ヨーロッパの大会にポーランドチーム代表として出場するための渡航費」と「アメリカのプロリーグNPFに挑戦するための資金」をクラウドファンディングで集めることに成功しているのです。

一見「個人的な夢への資金調達」でしかないように見えますが、本庄さんが2度のクラウドファンディングで集めた資金は100万円を越えています。

「なるほど、優秀なスポーツ選手だからファンが多いんだ」と思いましたが、本庄さんの支援者には「プレーを見たことがない」という人も多いのだとか……。

なぜ本庄さんは人の心を動かし、クラウドファンディングを2度も成功できたのでしょうか。

本庄さんが応援される理由を探っていきましょう。

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本庄遥さん / フリーソフトボール選手。投手。創志学園高校在籍時にインターハイ制覇。立命館大学でも活躍し、1年生時の関西秋リーグで最優秀投手賞受賞。現在は、「海外でソフトボールを続ける」という新しい選択肢をつくり「ソフトボール界の野茂英雄」を目標に活動中。1996年生まれ。

日頃の本庄遥さんの活動とは?

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――そもそも「フリーソフトボール選手」というのがよくわからないのですが、プロとは違うんですか?

本庄さん:プロではないです。プロリーグはアメリカにしかなく、日本も実業団のチームしかないんです。それ以外はクラブチームの選手ですね。

――プロ選手じゃないのに、生活はできるんですか?

本庄さん:スポンサー収入のほか、「フリーソフトボール選手」として、個人でいろいろな仕事をしています。YouTube、企業のマーケティングのお手伝い、講演会など……。ピッチング教室もやります。

――仕事内容はさまざまなんですね。

本庄さん:ソフトボール選手としての発信をしながら、個人で自由に活動をしていますね。

海外でソフトボールをやろうと思った理由は?

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オーストラリア留学中の本庄さん(最前列・右)

――本庄さんは大学在学中にオーストラリアに留学していますが、なぜ海外でソフトボールをやろうと思ったんですか?

本庄さん:……話すと長くなりますが、いいですか?

――はい、もちろん!

本庄さん:海外に行こうと思ったきっかけは、大学2回生時の肩の怪我なんです。病院で「痛みの原因が不明」と言われて。高校ではインターハイ優勝を経験して、順風満帆だったソフトボール生活だったんで、こんなことは初めてで。

――初めて不安を感じたわけですね。

本庄さん:「もしかしたら二度と本気で投げられないかもしれない」と恐怖を感じました。3年生の秋になっても痛みが一向にひかず、自分のピッチングにも自信がなくなってしまいました。

――大学3年生の秋というと、もう自分の進路を具体的に考える時期ですよね。

本庄さん:そうです。実業団に入るセレクションは高校、大学卒業のタイミングしかありません。自信喪失した私は実業団の道を見失っていました。就活にもモチベーションが湧かなかったんです。

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大学時代の本庄さん

――実業団に入れなくなると、日本ではソフトボールが続けられなくなるんですか?

本庄さん:続けられないわけではないんですが、日本だとソフトボール選手としてキャリアアップするとなると、大学卒業以降は「実業団の選手になる」しか道がないんですよ。

――その一本道しかないわけですか。

本庄さん:基本的にはそうです。実業団のセレクションに落ちると、後は一般就職してクラブチームでプレーするしか選択肢がありません。クラブチームからセレクションを受ける選手というのも、聞いたことがないので……。

――野球ならノンプロからプロを目指す道もありますもんね。

本庄さん:これは日本ソフトボールの大きな問題点だと思います。

――なるほど。そんな中で海外の道を意識したきっかけは何だったんですか?

本庄さん:「アメリカのプロリーグにスカウトされた」という夢を見たんです。夢に出てきたチームを検索してみると、さすがに実在しなかったんですが、なぜかオーストラリアのソフトボール情報がたくさん見つかりました。その情報を見て「オーストラリアならソフトボールができるかもしれない」と思いました。

――「夢」をきっかけにピンときたわけですね。

本庄さん:そうです。私は実業団に行くか、行かないかという選択肢しかない日本から出てみたいと思いました。海外ではどんなふうにソフトボールをしているのか興味があったんです。

ソフトボールの視野を広げたオーストラリアでの留学経験

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オーストラリア留学中の本庄さん(右端)

――オーストラリア留学はどうでした?

本庄さん:オーストラリアに行くと、ソフトボールが楽しくて。小学校の頃のソフトボールを楽しんでいた感覚を取り戻せました。

――どういう心境の変化があったのでしょうか?

本庄さん:シンプルに「私は楽しいからソフトボールをやりたいんだ」ということに気づきました。勝つためだけじゃなくて、楽しむためのソフトボールを思い出させてくれたのがオーストラリアです。

――日本のスポーツは勝つことへのプレッシャーが強すぎる気はします。

本庄さん:そうです。「勝てないといけない」というプレッシャーがあってもいいとは思うんですけど、それしかないのが問題だと思うんです。

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――オーストラリアでの留学中はとにかく楽しかったという感じですか?

本庄さん:ソフトボールは楽しかったですが、生活は大変でした。月12万円もらえる奨学金が一度ストップしたことがあるんですよ。資金が底をつきかけて「どうしようどうしよう」と追いつめられて……。

――異国の地に一人で大変な状況ですね。どうやって乗り越えたんですか?

本庄さん:その時にスポンサー探しを始めるようになったんです。「FIND-FC」というスポンサーを見つけたいアスリートと企業のマッチングサイトがあって、そこに登録しました。

――なるほど。追いつめられて始めたスポンサー探しだったんですね。

本庄さん:そうです。スポンサー探しをしているうちに「これは個人でも応援しようという人がいるんじゃないか」と思いました。それがきっかけで、クラウドファンディングに挑戦したんです。

クラウドファンディングの失敗と成功

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――最初のクラウドファンディングの結果はどうでしたか?

本庄さん:失敗しました。100万円を集めるつもりが、1万円しか集まらなかったんです。

――100分の1しか集まらないとは、衝撃ですよね……。

本庄さん:正直なお話をすると、インターハイ優勝経験、大学での防御率0の実績があったことで、それなりに認知度があるんじゃないかと過信をしていました。「これが私の今の価値か」と思いました。

――自分を客観視できるようになったんですね。

本庄さん:今考えると、こんな自分に一万円を出してくださる方がいることがありがたかったと思っています。意外とお金って集まらないもんだなと気づけました。そこから「自分の価値を高めるためにどうすればいいんだろう」と考えるようになりました。

――そういった経験を踏まえ、2回目からはどんなことを変えましたか?

本庄さん:まずは、他の人に実際に自分で支援してみることから始めました。自分が誰かのために支援したこともないのに、支援する人の気持ちがわかるわけないと思ったので。

――なるほど、支援する側の視点に一度立ってみたんですね。

本庄さん:そして、たくさんの人に会いました。小学校の頃のコーチや身近な人に「応援してほしい」という連絡を一人ひとり直接メッセージを送りました。クラウドファンディングのスタートと同時にかなりたくさんの人に依頼をしたんです。

――直接たくさんの人に会うのは、大変だったんじゃないですか?

本庄さん:身近な人に「お金をください」って伝えるのは、とってもストレスでした。でも「やらなければ想いを伝えることはできないな」と。応援してもらうためには、まず相手に対して自分の夢を伝えることがとても大切だと思います。

――それで2度目はうまくいったんですね。

本庄さん:1週間で目標の25万円を達成し、最終的には50万円近く集めることができました。


「ギブ」で信用を貯める重要性

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本庄さん:2度目で成功したクラウドファンディングのおかげでヨーロッパの大会にポーランドチーム代表として出場しました。3度目のクラウドファンディングでアメリカのプロリーグにチャレンジする渡航費を得ました。

――2度成功するほど応援されるようになったのはなぜでしょうか?

本庄さん:応援してもらう前に、自ら「ギブ」をするということを心掛けたからかなと思います。『GIVE & TAKE ~与える人こそ成功する時代~』という本を読んだのがきっかけです。

※この本の中では、本庄さんが大切にしている「ギバー、テイカー、マッチャ―」の考え方が記されています。それぞれの意味は以下の通りです。

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――まずは相手にギブをしようということですね。

本庄さん:相手へのギブを徹底すれば、ギブをし合う循環に入っていくことができます。そうなると、周囲がギバーだらけになります。応援し合う関係を築き上げていくために、まずはこちらからのギブが大切なんです。

――ギブをするときに注意すべきことは何ですか?

本庄さん:自分の利益だけを考える「テイカー」に搾取され、「自己犠牲のギバー」にならないようにすることですね。まずは相手が「ギバー」かどうかを見極め、「ギバー」だと判断したら全力でギブします。

――ギブを続けることで、どんなことが変わりましたか?

本庄さん:ギブを続けると、信用が貯まっていきますね。信用を貯めると、自然と応援が集まるようになります。

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――なるほど。でも「自分にギブできるものなんてあるんだろうか」と不安に思う人も多いかと思います。どんな人でも「ギブ」ってできるものなんでしょうか。

本庄さん:もちろんできます。相手が欲しいものや、求めていることを実行に移すといいですね。ギブしたいと思っている相手が何を求めているかを聞いてしまってもいいと思います。

――相手によってギブは変わるということですね。

本庄さん:そうですね。ギブになるかどうかは自分でなく、相手が決めることなので。逆に言うと、自分にとっては何でもないことが、相手にとってはギブになることもあります。

――お、それはどういうことでしょうか?

本庄さん:スポーツ選手なら、日々当たり前のようにやっているトレーニング内容でも、一般の方から見るとプラスになる情報もあるかもしれません。「自分が今日何を学んだか」を発信するだけでもOKです。

――なるほど、思わぬことがギブになるんですね。本庄さんは意外と喜ばれた「ギブ」ってありますか?

本庄さん:「自分が挑戦すること」そのものですね。「頑張っている姿を見ると、元気が出ました」などのコメントをいただくととてもうれしく思います。

本庄さんファンの多くはプレーを見たことがない事実

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――スポーツ選手って、優秀な結果を残すことで名が知れ、そんな選手のプレーに魅了されてファンがつくものという固定概念がありました。

本庄さん:スポーツ選手は結果だけしか見られないケースが多い気がします。人格も素晴らしく、プレイヤーとしても素晴らしい選手がいても、目立つスポーツで目立った結果を残さなければ、魅力が何にも伝わらず、全然応援されないという状況があります。

――僕は「スポーツ選手ってそういうもの」だと思っていました。本庄さんはギブから生み出した「関係性」で応援されていますね。

本庄さん:実は私のファンの方やスポンサーの方って、ほとんどが私のプレーを見たことがないんです。プレーで魅了されて応援しているわけではなく、関係性で築き上げて得た「人柄」への評価や、「可能性」を夢見て応援してくださっているんです。

――「プレーを見たことがないのに応援」って、まさに関係性さえしっかり築けば、応援してもらえるということの証明ですね。

本庄さん:スポーツ選手って、プロでやるか、やめるかのどっちかしかないという状況があるんですよね。プロじゃないと続けられないと思われている。私は「技術を高めながら、自分の好きなレベルで続けてもいいじゃん」と思うんです。

――スポーツ選手の在り方にも、もっと多様性があっていいですよね。

本庄さん:私はプロを続けながら、何か別の仕事をしてもいいとさえ思います。その割合って、自分で自由に決めていいと思うんですよね。

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ピッチング指導の隙間時間にも仕事する本庄さん

――たしかにスポーツ選手は、暮らしのベクトルを100%スポーツに向けなきゃいけないという風潮がありますよね。スポーツ以外の世界には「複業」という言葉もあるのに。

本庄さん:そうです。自分が目指すレベルも自分で決めていい、たとえば私なら今のレベルをキープしつつ、いろんなことをやりたい気持ちが強いんですよね。

――でも「今のレベルをキープとは甘ったれるな」「向上心を見せろ」なんて叩かれちゃう風潮はありますね……。

本庄さん:ちょっとSNSで違うことをしていたら「練習は?」と突っ込まれてしまいます。「一般の方は仕事をしないとき遊んだりするのに、どうしてアスリートだけは遊んじゃいけないんだろう」って。

――でも実際は関係性をつくって、挑戦する姿を見せれば、応援もされるし、金銭的な支援ももらえるんですね。これはすごい発明かも。

本庄さん:「ギブする→関係性をつくる→信用を貯める→挑戦する姿を見せる」という流れは、応援してもらうためには重要だと思います。

――たしかに。これはクラウドファンディングを成功させるヒントにもなりそうですね。

アメリカのプロリーグに挑戦! 本庄遥さんのこれから

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3度目のクラウドファンディングのアイキャッチ

――3度目のクラウドファンディングも成功し、今度はアメリカのプロリーグに挑戦されるということですね。意気込みを聞かせてください。

本庄さん:私は単に「高いレベルでプレーしたい」と思っているわけではありません。私はこのチャレンジを通じて「他国でプレーする選択肢」を提示できれば、世界のソフトボール界に風穴を開けられる可能性があると思っています。

――今回のチャレンジを通じて、後輩のソフトボール選手に伝えたいことはありますか。

本庄さん:ソフトボールができる環境は日本だけじゃないということを伝えたいです。好きな環境で素敵な仲間ができる環境が他にもあります。本来ソフトボールをしたかったのに、できなかった人を救いたいです。

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――アマチュアでも関係性を築いて、挑戦する姿を見せればファンの心をつかめることを証明した本庄さんなら説得力がありますね。

本庄さん:ありがとうございます。

――最後にこれからクラウドファンディングをやろうと考えている人にメッセージをお願いします。

本庄さん:まずは「信用を貯める」意識を持ってください。そして、クラウドファンディングを実行する前に、必ず「仲間」を見つけましょう。応援する気持ち一心で、無償でクラウドファンディングを手伝ってくれるような「仲間」です。「申し訳ない」と思わず、「ありがとう」と思って感謝し、その応援を力に変えて、自らの成功で応援に応えてください。私もあなたのことを応援しています!

――本日は貴重なお話をありがとうございました!

ギブで信頼を貯めて成功させよう

「人は関係性で応援する」ということに、本庄さんのインタビューを経て、気づかされました。

関係性はプレーだけでつくるものじゃありません。プレー以外の要因で築いた関係性で応援されたっていいのです。

地元のクラブを応援するように。親が子どものかけっこを応援するように。

ギブで信頼を貯めて関係性を築き、必死で挑戦する姿を見せられれば、人の心は動くのかもしれません。

本庄さんのこれからの挑戦にも期待しましょう。

本庄遥オフィシャルサイト
http://haruka-honjo.athkatsu.com/

執筆/大塚拓馬

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