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「利用者の声を、直接もらえるチャンス。」rainy代表・山根春輝さん

このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。

今回ご紹介するのは「rainy」のクラウドファンディングオーナー・山根春輝(@haruki_rainy)さん。

両親の死去、ホストクラブでの勤務などの自身の経験から「人には、寄り添ってくれるあたたかい他人が必要だ」と考えた山根さん。

その想いから生まれた「rainy」について、そして、クラウドファンディングをサクセスの過程について伺いました。

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山根春輝さん / 「RAINY」代表。慶應義塾大学に進学し、カナダ留学を経験。帰国後に起業し、教育事業に取り組む。その後、ホストに転身し、そこで見聞きしたことから「rainy」の構想を思いつく。現在は「rainy」のリニューアルに向けて邁進中。島根県出雲市生まれ。

「rainy」はホストクラブの体験から生まれた

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――まず「rainy」とはどういうサービスなのか教えていただいてよろしいでしょうか?

山根さん:「rainy」は、2018年4月に実施したクラウドファンディングをきっかけに設立した「添い寝サービス」です。

――添い寝サービス! どんなことをするんでしょうか?

山根さん:現在は、キャストと呼ばれるスタッフが、フレンズと呼ばれるお客様と添い寝やお散歩、LINEでの連絡・通話をするサービスです。2019年2月に本格始動し、今年で1周年を迎えるとともにリニューアルします。

――なるほど。リニューアルはどのようなものにするんですか?

山根さん:春にサービスをリニューアル予定で、少し角度を変えて、もっと触れやすく、面白くなるようにします。そのため、今後は「添い寝」がなくなり、より「あたたかい他人」を届けることに力を入れていく予定です。
 
――あっ、添い寝はなくなるんですね。添い寝の利用者はどれぐらいだったんですか?

山根さん:実際に「添い寝」を使ってくれた方は1割未満でした。添い寝をやってみたからこそ、知れたり感じれたりしたこともたくさんあるので、やってみてよかったなとは思っています。

――なるほど、そうだったんですね。先ほどおっしゃってた「あたたかい他人」とはどういう存在ですか?
 
山根さん:友達や家族だと距離が近すぎて、胸の内を吐露できない…という経験はありませんか?僕たちが提供している「あたたかい他人」は、近すぎないから気兼ねなく、あたたかいから遠すぎない距離で存在してくれる存在のことです。
 
――たしかに、友達や家族には話しづらい悩みって誰しもあるように思えます。
 
山根さん:実は僕、ホストクラブで働いていた経験があるんです。そのとき、誰にも言えない悩みを抱えた人にたくさん会いました。

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――ホストクラブで働いていたんですね! そういうお話を聞く機会は多そうです。
 
山根さん:ホストの僕に「家族や友達には言えないんだけどね」と悩みを打ち明けてくれたんです。みんな、焦りや辛さや悲しみを抱えて生きていて、誰かに優しくしてほしい。だからホストクラブに人がやってくる。
 
――優しくしてもらう、という体験に対してお金を払うんですね。
 
山根さん:「風俗で働いているってことは友達に言えないから」と話してくれる女の子もいました。その子だけが特別じゃなくて、会社員も、芸能人も、みんなひとりでなにかと戦っていたんです。ホストクラブでは、それを打ち明けてくれる。これってすごいことだなって思って。ただ、ホストクラブという形だと限界を感じていました。
 
――ホストクラブで救われる人がいる……それを実感しながらも、天井が見えてしまったんですか?
 
山根さん:ホストクラブは仕組みが出来上がっていて、売り上げが正義です。また、夜の世界なのでイメージや危険性の問題もあります。サービス業としてのこの距離感を、別の形で実現したいと思って立ち上げたのが「rainy」でした。

――山根さんの実体験が基になっているんですね。
 
山根さん:僕は両親を早くに亡くしていて、とても寂しい気持ちを抱えて生きていました。それを誰にも話せなかった。その「話せない」という気持ちがよく分かるからこそ、「なんでも気兼ねなく話せる」存在の重要性も知っていました。

まずは自分がいろんなプロジェクトに触れてみる

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――「rainy」を立ち上げるアイディアが出来たのはいつのことですか?

山根さん:2018年2月です。3月にはホストを辞めて、4月にクラウドファンディングをスタートさせました。サービスをリリースする前に、まずはクラウドファンディングという流れですね。
 
――2か月で!とてもスピーディーですね。短い準備期間でよかったことはありますか?
 
山根さん:僕はクラウドファンディングのプラットフォームとして「CAMPFIRE」を利用したのですが、ガイドラインを熟読しました。データを用いて、プロジェクトをどう見せるべきかを教えてくれるのでとても参考になりましたね。
 
――プラットフォームが提供しているガイドライン……。基本的なことのように思えますが、見落としてしまいそうですね。
 
山根さん:あとは、支援者の立場に立つためにも、僕自身がたくさんのプロジェクトに目を通しましたね。「いいな」と思うものと、「イマイチだな」と思うものの両方をピックアップしたんです。真似すべき点と、改善すべき点、どちらも知ることで、自分のプロジェクト文に反映しやすくなります。

想いを直接届けるリターンを

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――「rainy」のリリースをする前にクラウドファンディングを行ったのには、どんな意図がありますか?
 
山根さん:宣伝効果を期待しましたが、信頼をいただきたかった、というのが最大の理由です。「rainy」にはストーリーがありますが、「添い寝サービス」を不純なものと捉えられてしまう恐れがあったからです。

――なるほど。インパクトのある言葉だけとられてしまうと、誤解につながりかねませんね…。
 
山根さん:そうなんです。だからこそ、クラウドファンディングを通して「たくさんの方に支持された」という事実が必要だと思いました。実際にご支援をいただいたことで「社会に必要なサービスだ」と確信を得ました。

――クラウドファンディングページを拝見したんですけど、リターンがサービス内容ではないことが珍しいなと思いました。

山根さん:当時「まずはクラウドファンディングから…」と始めたので、rainy自体が法律的にリリース可能なサービスかを弁護士の方を含めて協議中でした。もちろん、法に触れるようなサービスはできませんし、クリーンだと確認できるまでは予約を受けつけないと判断した結果です。

――そういった背景があったんですね。そんななかで、リターンを考えるのは困難ではありませんでしたか?
 
山根さん:僕から提供できるのが、想いと感謝しかなく、正直、いいリターンを用意できなかったと思います。それでも、応援したいと思ってもらえるように、一人ひとりにメッセージを送るなど「直接届ける」ということを大事にしました。

「あたたかい他人」の必要性を再確認

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――共感を引き出せたからこそサクセスできたんですね。密なコミュニケーションをとるなかで、印象的だったことなどありますか?
 
山根さん:友達の友達、くらいの距離感の人が、「実は誰にも言えないことがあったんだよね……」と胸の内を打ち明けてくれて、支援してくれたことがありました。

――そのような距離感の人が、クラウドファンディングをきっかけに心を開いてくれるというのはすごいですね。

山根さん:プロジェクト文には、僕自身のこれまでの話をしっかり書いていたんです。僕が先に弱さをさらけ出していたから、その人にとって「あたたかい他人」になれたんだと思います。

――支援をいただく過程でも、サービスの価値というものを山根さん自身も実感できたのは素敵ですね。
 
山根さん:サービスを誕生させるとき、投資家からの資金調達という手段もあると思います。ただ、そうなると投資家の声にばかり耳を傾けることになりますよね。クラウドファンディングは「利用者の声を直接もらえるチャンス」です。本当にやってよかったな、と思っています。

「rainy」は一人で泣いている人に寄り添う存在に

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――クラウドファンディングから2年以上経っていますが、今春のリニューアルについても、プロジェクトページ上で告知されていますね。
 
山根さん:ご支援いただいたことからrainyはスタートしたので、今後も方向展開する際にはきちんとご報告したいなと思っています。
 
――そういうコミュニケーションの丁寧さが伝わったからこそのサクセスなんだと思います。今の山根さんのプロジェクトへの想いを聞かせてください。
 
山根さん:現在、複業で介護のお仕事に従事しています。介護は、家族で面倒を見るという家庭もいらっしゃいますが「家族だと距離が近すぎてうまくいかない」という声も聞きます。サービス業に関わる人が介入した方が、関係性が良好になるケースは多いんです。
 
――そこにも「あたたかい他人」の必要性が見えますね。
 
山根さん:こうやって、様々な場面でrainyの必要性を感じる日々です。今もどこかで一人で泣いている人がいるでしょう。一人だから、その涙に気付けない。一人で泣いている人に寄り添う存在としてrainyが当たり前にあるように、今後も活動を継続します。
 
――本日は貴重なお話をありがとうございました!

静かで柔らかいけれど、煌々と発するエネルギー

「あんまり、人にアドバイスしないタイプなので…」とすこし戸惑いながら話してくださった山根さんの言葉は、飾り気がなく、シンプルで、耳馴染みが良かった、という印象でした。
 
rainyのプロジェクト文にも、それは表れています。キラキラやワクワクを詰め込んだ、魅力的なプロジェクトというよりも、読んだ人の核にそっと触れるような切実な文章です。
 
rainyというサービスの体質を写したような文章だからこそ、「添い寝サービス」というインパクトある言葉に引っ張られずに、山根さん自身の芯を伴った想いが届き、サクセスに繋がったんだと思います。
 
クラウドファンディングは、多くのプロジェクトにとってスタート地点であることが多いので、その先の道が、思い描いていた地図から逸れることもあるでしょう。

それでも支援するのは、ビジョンは決してブレないだろうと信頼できる熱源がはっきりと伝わるからなのかもしれません。

山根さんの中に、静かで柔らかいけれど、煌々とエネルギーを発する核が見えた気がします。

執筆/野里のどか

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