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「情熱があれば、個人でも価値提供できる。」五泉ニットブランド「mainau」森勝宣さん

このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。

今回ご紹介するのは、クラウドファンディングを足掛かりに事業展開をしている「mainau(マイナウ)」のメンバー・森勝宣(@remotework55)さん。クラウドファンディング活動の裏側についてお話を伺いました。

クラウドファンディングに至った経緯や悩み・葛藤、それをどう乗り越えたのか。

クラウドファンディングから事業展開を検討している方にも参考になる部分がたくさんあるはずです。

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森勝宣(もり かつよし)さん / 五泉ニットブランド「mainau」起ち上げ・運営メンバー。東京でIT企業に勤務する傍ら、ファッション関連の撮影等をコーディネイト。1992年生まれ。兵庫県出身。

伝統産業とのコラボレーション「五泉ニット」プロジェクトとは

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――まず「五泉ニット」のプロジェクトについて、どのようなものなのか教えてください。

森さん:新潟県の五泉市という地域で作られている伝統産業「五泉ニット」を広めるためのプロジェクトです。

――国産ニットは他にもあるかと思うのですが、なぜ五泉ニットに着目したプロジェクトを始められたのでしょうか?

森さん:「五泉ニットを広める活動をしたい」という、SNS上の発信を見たのがきっかけです。プロジェクト発起人が僕を含め3人いるんですが、そのうちの1人が新潟でセレクトショップをしているんですね。彼が五泉ニット工場と繋がりがあり、発信していました。

――そうだったんですね。なぜ、協力をしようと思われたのでしょうか?

森さん:メンバーの全員が地方出身者で、地方創生や地方活性を願う意識が強くあったことが要因だと思います。その意識もあって、五泉ニットを広めたいという想いに共感しました。 

――地方創生や地域活性に関心を持たれるようになったきっかけは何ですか?

森さん:地元の後継者不足の問題に関心を持ってからですね。僕の実家は、淡路島で漁師業をしているんですが、年々ワカメや海苔の作り手が減少しているんです。働き手は高齢化していくのに、若者がいない。

――でも、ちゃんと技術はありますもんね。

森さん:そうです。とても素晴らしい技術はあるのに、後継者がいない。それは、五泉ニットの工場も同じで。

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――地元が抱えている課題が、五泉市や五泉ニットへの共感に繋がったんですね。五泉ニットを扱ってみて、その魅力はどんなところにあると感じますか?

森さん:一番は丁寧さです。手間をかけてつくられているので、質が良い。

――洋服も大量生産、大量消費の時代になってきていますからね。

森さん:工場では早く多く作るためにスピード重視。そうなると、それぞれの工程がどうしても雑になりやすいと思います。

――五泉ニットは、なぜ丁寧なものづくりができるのでしょうか?

森さん:五泉ニットは、服作りの全ての工程が同じ五泉市内で完結できる。これは他では見られない特色です。地域にある工場は、お互いに他の工場がどの工程を請け負っているかまで全部知っている。

――地域全体がひとつのチームになっているようですね。

森さん:染色や成型、検品……。製品によってはニット以外の素材との組み合わせなどもあります。それらを一つの工場で行うのは不可能ですからね。五泉市の場合は、次の工程を請け負う工場が同じ市内にある。

――全工程が一つの地域で完結するのは、大きなメリットなんですね。

森さん:無駄がないんです。工場間の輸送コストが抑えられ、商品の価格を抑えることにも繋がります。地域全体が協力し合って、責任を持ってものづくりをしているんです。それが五泉ニットの品質の良さや、仕事の丁寧さに繋がっているのだと思います。

潤沢な資金がなくてもアピールできる

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――今回のプロジェクトで、クラウドファンディングに挑戦しようと思われた理由は何ですか?

森さん:先行投資せずに、多くの人にアピールしたり、購入してもらえたりするからですね。僕たちにはそれぞれ本業がありますが、それでも潤沢な資金があるわけではないので。

――クラウドファンディングならリスクの面でやりやすかったと。

森さん:クラウドファンディングは、売上から手数料が引かれるだけなので、やる側にとってのリスクが少ないんです。継続的にプロジェクトを続けるなら、極力リスクは除きたい。僕たちは、広めるだけではなく、伝統産業を残したいとも思っていますから。

――伝統産業を残すうえで、五泉市も後継者不足とのことですが、どのように対策を考えていますか?

森さん:五泉市の工場が大手からの注文に頼らずに、独自の商品開発ができる取り組みをしていきたいです。そうすれば、労働環境も良くなり、新たな人材が入ってくるのではないかと考えています。工場で働く人は、見事なまでに、おじいちゃん・おばあちゃんばかりなので。

――そんなに労働環境がよくないのですか?

森さん:働く側にとっては短納期ですし、給料もけっして高くありません。大手は人件費が安い海外工場を使おうとします。それに国内工場が打ち勝つには安価で引き受けるしかありません。

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――生き抜くために厳しい戦いを強いられているわけですね。

森さん:「工場を守るには割に合わなくてもやるしかない」という環境が、余計に働き手を敬遠させる悪循環を作り出しています。

――たしかに、それでは人材を増やすのは難しいですよね。

森さん:今いる人材に頼るしかない状況です。だから、僕たちのプロジェクトでは、大手からの受注と違って、工場側にとって適正価格での発注や、完全受注生産で納期も工場側の適正に合わせられる仕組みにして労働環境の改善も図っています。

――労働環境が良くなれば、人が集まってきそうですね。しかし、地方では若い人たちの都会への流出も問題になっていますよね。

森さん:地元にいても仕事がないからですね。けれど、地元にいながら、面白いことができる環境や自分が楽しめることがあれば、流出も防げるようになるのではないかと。

――たしかに、それはあると思います。

森さん:皆、自分たちが生まれ育ったところは、少なからず良いものだと思っていますからね。僕も、いつかは地元の淡路島に帰りたいですし(笑)

――そうなんですね(笑)プロジェクトを始めてみて、感じたこと・気づいたことがあれば教えてください。

森さん:人に伝えることの難しさを感じましたね。今回、プロジェクト発足にあたり、「mainau(マイナウ)」というブランドを立ち上げました。ブランドの下に、僕らのような作り手や工場が集まれて、伝えたいことを伝えられる形を作りたくて。けど、思いやビジョンといったブランディングで、イメージ通りに伝えることが難しくて。

――ブランド側が伝えたいイメージと、消費者側のイメージを一致させるという点で、難しさを感じられたわけですね。それをどう乗り越えられたのでしょうか?

森さん:そもそも五泉ニット自体を知らない人が多いですからね。まずは五泉ニットとは何か、良い部分についての背景やストーリーを重点的に説明するようにしました。それらと合わせて、僕たちの目指していること・大切にしていること、思いの部分を伝えました。

成功の秘訣は「ターゲットに合わせたPR」

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――クラウドファンディングが成功に至った秘訣や要因は、何だと思われますか?

森さん:きちんとターゲット設定をして、それに合わせてSNSやnoteなどで露出を増やすようにしたこと。想いに共感してくれた人たちがいたこと。利益を求めすぎなかったことですね。

――「利益を求めすぎない」とはどういうことですか?

森さん:クラウドファンディングだけで生計を立てているわけではないので、純粋に「購入者のために」「工場のために」と考えられたのがよかったのだと思います。

――なるほど。ターゲット設定に合わせた露出とは、どのようなものでしょうか?

森さん:媒体の特色と、それらのユーザー層に合わせた発信ですね。五泉ニットのターゲットと、クラウドファンディング・SNSを使っているユーザー層はそれぞれ違います。クラウドファンディングのユーザー層は、30~40代男性がヘビーユーザーなんです。それを踏まえて、クラウドファンディングのページは男性をメインにしたものにしました。

――ヘビーユーザーに合わせたページ作りをされたんですね。SNSのほうは?

森さん:SNSでは、twitterとInstagramを活用しています。これもそれぞれでユーザー層が違いますね。Instagramは、20~30代女性がヘビーユーザー。くわえてビジュアル重視なので、写真メインのコンテンツ作りをしました。Twitterでは、美女と猫がバズるといわれているので、なるべく人物が映っているものをメインに投稿していました。

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――ほかに気をつけられていた点はありますか?

森さん:クラウドファンディングは開始と終了間際の数日間は新着に載るので、掲載がない期間にレポートをあげたり、SNSを更新したりして流入を増やすようにしていました。拡散してもらうために、Instagramではフォロワー数が多い友達に商品を着た写真を投稿してもらったり、twitterではニットに関する豆知識を入れたり。

――そのタイミングは?

森さん:媒体ごとに投稿時間をずらしながら、継続的に一定の流入が得られるようにしていました。たとえば、夜に投稿用のネタを作っておいて、予約投稿をする。それだと、本業に支障が出る心配がないので。

――やってみて、反応がイマイチだったものはありましたか?

森さん:twitterで可愛いモデルさんを起用して投稿しましたが、これは見向きもされなかったですね(笑)知らない一般人や知らないブランドのことなので、誰も気にもしていないのがわかりました。

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――そういった地道な努力を重ねて、共感を得ていったのですね。

森さん:肌触りや質の良さをネット上で表すのは難しいので、数字や根拠を入れて伝えるように気をつけていました。工場に行って風景を撮影させてもらったり、生産過程を伝えたりして商品の裏側を中心に書くようにしていましたね。

――プロジェクトを進めるなかで、不安はありましたか?

森さん:ありましたね。そもそも無名のブランドに興味を持ってもらえるのだろうか?見てもらえるのだろうか?という不安が。僕自身がSNSでの消費者向けの発信は初めてだったので、かなり試行錯誤しました。五泉ニットは一生着てもらいたいという思いがあり、値段訴求はあまりしないようにしていましたから。

――抱えていた不安は、どのように乗り越えられたのでしょうか?

森さん:どういう見せ方をすれば買ってもらえるのか、その知見が全くなかったので、他のアパレルブランドの商品の見せ方をチェックして。見せ方を少しずつ学んでいきましたね。発信のたびに毎回、反省していました(笑)

クラウドファンディングは「情熱があれば、個人でも価値提供できる」

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――クラウドファンディングが成功して感じたこと・気づいたことがあれば、教えてください。

森さん:情熱があれば、個人でも価値提供できる。これは、今までにない起業方法だと感じました。ダメならダメで、金銭的リスクが一切ないから次のチャレンジも始めやすい。そういう意味では、市場のテストマーケティングにもなりますね。

――クラウドファンディングの可能性を感じますね。これからの展望や構想はありますか?

森さん:伝統産業を活用して自分のブランドや世界観を作りたい人たちのバックアップができる仕組みづくりを計画しています。Tシャツやスウェットにプリントして自分のブランドを作ることは簡単にできますが、日本の伝統産業を使ってとなると、整った環境が少ないので。

――伝統産業を使って、自分のブランド……。具体的にどのようにやるんでしょうか。

森さん:服の専門知識がない人でも「こういう服を作りたい」という希望があれば、それをもとにmainauのデザイナーがイメージを仕様書に落とし込みます。僕らは出品周りや製品管理、ホームページやオンラインショップづくり、SNSでの発信などを全部請け負います。

――それはすごいですね!

森さん:自分のブランドを作りたい人には企画とPRだけやってもらう、コラボレーションみたいな感じですね。

――クリエイターさんで、自分のブランドを作りたいけど作り手と繋がり方がわからないという方にとって助かるサービスですね。

森さん:今は五泉ニットの商品だけを扱っていますが、提携する工場を増やしていけば、商品のラインナップも増やしていけます。クリエイターが自分のブランドを作る環境を僕たちが提供できるように、いま活動範囲を広げているところです。

――クリエイターにとっても、五泉市の工場にとっても、新たな可能性が広がりそうです。

森さん:誰もが自分のブランドを作れる世界になりますし、工場も今までの収入源とは別の収入源ができるようになります。

――楽しみですね。クラウドファンディングをやってみて、見えてきた未来はありますか?

森さん:いまやっている活動や仕組みが、一定で回せることがわかりました。これからはチャレンジングなことにクラウドファンディングを使いつつも、クラウドファンディングに依存しない体質も作っていきたいですね。

――依存しないというのは事業を継続する点で、大事なポイントですよね。

森さん:きっかけはクラウドファンディングでも、その後の事業を一つのプラットフォームに依存してしまえば、そのルールに従っていかなければならない。そうなると、ルールに左右されてしまいます。複数の基盤を持っておかないと、自分たちの首を絞めることにもなりかねないので。リスクヘッジの一つですね。

これから挑戦する人へ「ストーリーを意識して文章化するのが大事」

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――これからクラウドファンディングに挑戦する人へ、アドバイスをお願いします。

森さん:今の時代、質だけで勝負するのはとても難しい。それよりもストーリーや背景、共感で物を買う時代ですから。ストーリーを意識して文章化する。相手に汲み取ってくれというのではなく、伝えたいことはきちんと言葉にして、くどいかも?と思うぐらい明確に書くといいと思います。

――具体的に伝えるということですね。

森さん:そうです。さらにターゲットを明確に絞り込めば絞り込むほど、ちゃんと刺さります。クラウドファンディングでページ作りをするときも「誰に届いてほしいか?」を意識したデザインにするといいのではないでしょうか。

――ターゲットを絞るのって、勇気がいるんですよね。

森さん:でも、ターゲットが曖昧だと伝わるものも伝わりませんからね。とはいえ、人は意外に見てくれています。それも忘れないでほしいですね。

――森さん、今日はお時間いただき、ありがとうございました。

あなたのストーリーは誰に届ける?

自分の伝えたいモノのストーリーを誰に届けたいのか……。この課題にどう向き合い、明確なメッセージを発信するのかが、クラウドファンディングのカギだということがわかりました。

SNSをうまく活用してターゲットにストーリーを届け、共感を得ていく森さんのお話は、クラウドファンディングを足掛かりに事業展開をされたい方にも、参考になることが多かったのではないでしょうか。

ぜひ参考にしていただき、これからの活動に役立ててくださいね。

執筆/浜田みか

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