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「何のためにこの活動をするのか。」HUC(母親アップデートコミュニティ)鈴木奈津美さん

このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。

今回ご紹介するのは、「いろんな人を巻き込んでイベント作り上げたい」との思いから、「子連れ100人フェス」のクラウドファンディングに挑戦した鈴木奈津美(@nattu723)さん。

「子連れ100人フェス」プロジェクトは、自分と社会を変えたいとの強い気持ちを持つ女性たちが集う「HUC(母親アップデートコミュニティ)」の一環として企画されました。

「子連れ100人フェスプロジェクト」は、なんと開始3日で目標金額を達成したのです。

しかし単純に喜んでいられない事態が発生。終了日まで苦悩の日々を過ごすことになったといいます。

鈴木さんにとって初めてのクラウドファンディングを振り返ってもらいながら、熱量高く活動に取り組めるそのモチベーションの源泉に迫ります。

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鈴木奈津美さん / 「HUC」(母親アップデートコミュニティ)のチーフ・ミックス・オフィサー。 2002年日本ヒューレット・パッカード株式会社に入社。IT運用コンサルティングを担当後、マーケティング部門に異動。企業向けのITソリューションのブランディング、需要喚起などを担当。

「100人100通り」を体現する「子連れ100人フェス」

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――まずは鈴木さんがクラウドファンディングを行った「子連れ100人フェス」とは、どんなプロジェクトだったのかを教えてください。

鈴木さん:「子連れの参加者が100人集まりそれぞれがおもいおもいの楽しみ方をするフェス」を成功させるためのクラウドファンディングでした。

――子連れの参加者が100人集まるというだけでも凄いですよね。フェス自体はどんな内容なのですか?

鈴木さん:実は昨年7月にお台場のキッズパークとコラボして開催したイベントなんです。常設の遊び場に加え、ダンスや音楽など本格的なアートを楽しんでもらったりユニークな鉄道模型を用意したりしていました。

――へぇー。親子で楽しめそうなイベントですね!

鈴木さん:主催の「HUC」(母親アップデートコミュニティ)のコンセプトが「100人100通り」なので、それを体現できるよう、参加者それぞれが自由に楽しみつつ参加者同士の繋がりも生まれるような空間を意識しました。

――既存のコミュニティが開催するフェスだったのですね。

鈴木さん:はい。「HUC」は「自分自身をアップデートしたい」「古い母親像に支配される世の中を変えたい」といった強い気持ちを持つ120名(現在は180名)が集まって結成したコミュニティです。

――「HUC」はどのような経緯で発足したのでしょうか?

鈴木さん:ソーシャル経済メディア「NewsPicks」の番組「WEEKLY OCHIAI」の番組観覧者を中心に発足しました。番組テーマが「母親をアップデートせよ」だったんですよ。私はその発起人ですが「代表」と呼ばれるのがなんとなく違和感があって「チーフ・ミックス・オフィサー」と名乗っています(笑)。

――「子連れ100人フェス」を「HUC」の自主開催ではなく、クラウドファンディングで実現しようとしたのはなぜだったのですか?

鈴木さん:「HUC」の輪や活動を広めていくために、外の人たちも巻き込みたかったんです。「イベント当日が本番」ではなく、いろんな人たちと一緒に作り上げていく「プロセス自体が本番」という位置付けのプロジェクトでした。

――どのようなリターンを準備されていたんですか?

鈴木さん:当日イベントに参加するための「参加権」や、運営側としての参加表明である「当日スタッフ権」「事前オンラインミーティング参加権」、そして金銭的な支援だけを希望する人のために「スポンサー権」「支援」といったリターンのコースを設定していました。

「変えたい」との強い想いを持つ180名が精力的に活動

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――「HUC」では普段どんな活動をされているのですか?

鈴木さん:70人の拡張家族の住むコミュニティスペースを見学したり、読書会をしたり、ゲストを招いてトークとディスカッションをしたりしています。社会的な実験や挑戦もしています。

――さまざまな活動をされているんですね。社会的な実験や挑戦とは、どんなものでしょうか?

鈴木さん:日本であまり普及していない家事代行やベビーシッターをみんなで試したり、Twitter上で「母の日」キャンペーンを開催して新しい母親像を提言したりもしました。「HUC」が発足した1月23日を「母親アップデートの日」と提唱して、1周年イベントでは「母親アップデートかるた」も作りました。

――「HUC」発足して1年と少しとのことですが、既にさまざまな活動実績があるんですね。メンバーにはどのような方がいらっしゃるんでしょうか?

鈴木さん:現在メンバーは180名です。小さいお子さんのいる方もいれば既にお子さんが成人されている方、ワーキングマザーも専業主婦もいます。

――なるほど。みなさんお忙しいと思うのですが、どのようにやり取りをされているのですか?

鈴木さん:基本はオンラインベースでのやり取りですね。昨年の活動実績を振り返るとオンライン・オフライン合わせて年に138回のイベント・ミーティングを実施しました。これは平均すると3日に1回のペースです。

――3日に1回!  それはかなり活発ですね。

鈴木さん:全体の定例会は2週間に1度です。そのほか、運営メンバーだけのミーティングや、サブグループとして「教育」「読書」「キャリア」「健康」などの単位でも実施しています。人によって参加頻度は異なるとはいえ、熱量の高さを維持できていると思います。

――鈴木さんご自身も5歳のお子さんがいらっしゃり、なおかつ会社員として働いていらっしゃいます。「HUC」の活動へのエネルギーやモチベーションはどこからきているのでしょうか?

鈴木さん:私の中で「母親でも自分の人生を生きる」というのは大きなテーマなんです。これは私の原体験が関係していると思っています。

子育てをしながら働く中で抱いた違和感

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――原体験とはどのような…?

鈴木さん:私の母親はインテリア関係の仕事をしていたのですが、結婚して退職したんですね。その後、私と姉が小学生になってから「また仕事がしたい」ということで復職。でもそれくらいのタイミングから家庭がうまくいかなくなってしまって、父と母が別居することになったのです。

――そうだったのですか……。

鈴木さん:もともとの夫婦の性格の不一致といった問題もあったと思います。そうした事情で、私と姉はほぼ母子家庭の状態で育ったんです。

――その頃は今ほど「シングル家庭」ということを世間に対して、オープンにしにくかったんじゃないですか?

鈴木さん:そうですね。とくに姉は自分たちが母子家庭であることをすごく気にしていました。私も「母親が自分のしたいことをするのはいけないことなのか」「母親が自分のしたいことに取り組みながら幸せになることはできないのか」みたいな、トラウマっぽいものが自分の中に残ったなと感じていて…。

――母親も一人の人間、やりたいことを追い求めるのは決して悪いことではないという風潮は、現代でも浸透しているとは言い切れませんよね…。

鈴木さん:いざ自分も母親になってみたら、なんとなく「母親とはこういうもの」という枠を自分でつくっていることに気づいたんです。子どもを保育園に送って、仕事をして、迎えに行って、家事をして…という生活が当たり前で、違和感すら持たない。でも、子どもを産んで4年くらい経って、ふと「あれ、これでいいんだっけ?」と思ったんです。

――何か違和感を持つきっかけがありましたか?

鈴木さん:子どものことというよりは、キャリアに対する閉塞感を抱いたという感じです。ワーキングマザーとしてのルーティンを当たり前に続けて来て、自分のキャリアについて何も考えていなかったことに気づきました。

――自分の将来のキャリアを見つめなおしたわけですね。

鈴木さん:「今後、自分はどうしていきたいんだろう」って。幸いマミートラック(※)を感じさせるような会社で働いてはいないけれど、管理職として女性社員が活躍している企業というわけでもない。

※マミートラック・・・出産後復職した女性が辿りがちな、単調な業務を中心とした昇進・昇格から外れたコースのこと。

――組織内での昇進を妨げる目には見えない障壁、いわゆる「ガラスの天井」を感じたということでしょうか。

鈴木さん:そうです。そのガラスの天井にすごく違和感があって。「どうしてそんなものがあるのだろう」と。しかも、その天井の存在自体に気づいていない人もいる。…そんなモヤモヤを感じつつ参加したのがNewsPicksの「WEEKLY OCHIAI」という番組観覧だったんです。

誰も否定しない「カラフルな社会」を目指す

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――「WEEKLY OCHIAI」の観覧の場にいた人たちを中心にコミュニティを結成したということでしたね。

鈴木さん:私と同じように「母親はかくあるべき」という価値観に違和感を持つ人、そしてそれが蔓延している社会に対して課題意識を持つ人など、「変えたい、変わりたい」という強いパワーを持っている人が集まっていました。いざコミュニティ活動を始めた時の熱量もすごかったです。

――強いニーズがあったんでしょうね。

鈴木さん:まるでお店が開く前から大勢が行列を作って待っていて、開いた瞬間ドドドッと入って来たみたいな。「みんなこういうコミュニティを待っていたんだ」と確信しました。

――何十年もの間、母親たちが苦しみながらも内に秘めたまま終わりにしていたものを、「HUC」のコミュニティを通じて共有するようになったということですね。

鈴木さん:私たちと同じような想いを持っている人はたくさんいるはずなんです。自己解決してしまうと「苦しい母親像」が次世代に渡って再生産されてしまうんですよね。「100人100通り」のサンプルを社会に発信していくことで、そこから良い連鎖が生まれればいいなと。

――その想いが活動のモチベーションでもありますか?

鈴木さん:はい。私自身、この活動をしていて楽しいんです。子どもを持つと自分を主語にして会話することが減って、「私」が何を考えているのか、どうしたいのかが置き去りになる。

――「HUC」では、自分が主語ですもんね。

鈴木さん:そうです。HUCでは母親という共通事項がありながらも自分を主語にして意見を交わせる。「安心して自分の本音を出せる場」として、意義のある活動だと思っています。

――「安心して自分の本音を出せる場」とつながりの輪を拡大するための「子連れ100人フェス」プロジェクトだったのですね!

鈴木さん:はい。「100人100通り」を体現する母親たちが集まってそれぞれに楽しみながら、その場で生まれたつながりの中で経験や知見をシェアし合える関係を広げていきたかった。

――なるほど。とても意義深い活動だと思います。

鈴木さん:加えて、コミュニティを立ち上げてから3ヶ月くらいだったので、私たちの活動を少しで多くの人に知ってもらいたい意図もありました。

挑戦している母親の姿を社会へ見せる

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――クラウドファンディングに挑戦するにあたって不安はありませんでしたか?

鈴木さん:クラウドファンディングに挑戦することを決めたのが5月中旬で、その時点で7月6日にイベントを開催することは決まっていました。スケジュール的に間に合うのか、そしてちゃんと狙い通りに輪が広がっていくかどうか心配な気持ちはありました。

――そんな不安に負けずにクラウドファンディングに挑戦できた要因は何でしょうか?

鈴木さん:母親たちが挑戦している姿を社会に見せることは大事だと思ったからですね。準備期間は10日程度でかなりタイトでしたが……。

――「コミュニティの外の人たちも巻き込んでイベントを実現したい」との当初の目的は無事に達成されたのでしょうか。

鈴木さん:達成されました。コミュニティ外の人たちも一緒にイベントを作り上げたという実感はありましたし、それだけ活動の輪も広がったかなと。

――おお、それはよかったですね!

鈴木さん:プラットフォームはCAMPFIREを使ったのですが、CAMPFIREの分析ページを見る限り、支援には至らなくてもページを閲覧してくれた人も結構いて。コミュニティの認知度アップにもつながったと思っています。

――支援金額に関しても、目標を開始3日で突破、最終的には195%達成と大成功でしたね。

鈴木さん:クラウドファンディングを実施する前からSNSなどを通じてオープンに情報発信をしていたことや、それまでの活動自体の濃さ、熱量の高さが伝わったからだと思っています。

――初挑戦ということで、反省点や気づきもありましたか?

鈴木さん:一番の反省点は目標金額とリターンの設定ですね。開始3日で目標金額の40万円を突破したのですが、イベント当日の参加者自体はあまり集まっていなかったんです。

――えっ! そうだったんですか?

鈴木さん:メインのリターンとして私たちが考えていたのは「当日子連れで参加する権利」だったんです。施設利用料も含んだチケットというイメージでした。でも、蓋を開けてみると当日参加なしで純粋に応援の意味合いの「支援」や「スポンサー権」を購入してくれる人がけっこういて。

――参加なしで「応援したい」という声が意外と多かったんですね。

鈴木さん:そのこと自体はとてもありがたいのですが、肝心の参加者自体の数が伸びていない。しかも「子どもを連れてくると自分が楽しめない」との理由で単身での「当日スタッフ権」に流れる人もけっこういて…。

――なるほど……。目標金額を達成しても、参加者自体の数が伸びないとなると…。

鈴木さん:ただ、目標金額自体は開始3日で達成してしまったので……。参加者は伸びていないにもかかわらず、応援の熱も拡散のパワーも下がってしまいました。

金額は達成したのに参加者が増えないジレンマ

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――その後、最終日まではどのように推移していったのでしょうか。

鈴木さん:1ヶ月のプロジェクトだったのですが、その後2週間くらいはあまり変化がありませんでした。総支援金額も参加人数もほぼ横ばいでわずかにジリジリと増えていく程度ですね。最後に少し追い込みがあり、最終的に総支援金額は78万3620円で目標の195%達成ではありました。

――目標金額を2倍近く達成しているだけに複雑な気持ちになりますね。結局、参加者は何人くらいに?

鈴木さん:「参加権」は大人子どもあわせて80名でした。コミュニティメンバーの参加もあるのでイベント当日の参加者は結局100人を超えました。ただクラウドファンディング中は最初の3日以降、横ばいの数字とのにらめっこに悩まされた日々でしたね…。

――想定外の事態に対し、最終日までの苦悩の日々、どんな対策をされていましたか。

鈴木さん:一対一のやり取りに力を入れていました。DMのような形で、つながっている人へプロジェクトの案内を送ったり、直接会った人に話をしたり……。でも自分ができることをやり切れたかというと「まだまだだったな」と感じています。

――どのような面でそう思われるのでしょう?

鈴木さん:普段の生活で「支援をお願いします」と人に頼むことってそんなにないじゃないですか。まして初対面の相手であればなおさら。積極的になりづらかった部分がありましたね…。

――クラウドファンディングはお金が発生するやりとりですからね……。

鈴木さん:周囲にクラファンをやっている人もそこそこいたので「クラファン疲れ」のような雰囲気も気になりましたね。「またクラファンか」と思われるんじゃないって。

――たしかにその後の人間関係を考えると積極的になりづらいかもしれません。

鈴木さん:「シェアしてください」「読んでください」の先にお金を払ってもらうことを考えると、どうしても積極的になりづらいというか、やりづらい部分はありました。振り返ると、その気持ちに負けてしまったところはあったかなと。

実行者の熱意は「カルピスの原液」

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――もしもう一度同じプロジェクトを行うなら、どこを改善しますか?

鈴木さん:すぐに達成してしまわないよう目標金額をもっと高めに設定するでしょうね。あとは子連れ参加者の「参加権」の金額を安くします。

――子連れ参加者の「参加権」は高額だったんですか?

鈴木さん:施設利用料やクラファンの手数料などもあるので、大人と子ども一人ずつで合計7000円近くになっちゃうんです。その金額に対して「高い」という声もチラホラ頂いたので、それも参加人数が伸びない理由だったかなと。

――たしかに7000円だと高く感じる人はいるかもしれませんね。

鈴木さん:企業からのスポンサードがある程度いただけることがわかっていれば、子連れ参加者がもっとお手頃価格で参加できるように設定できたと思います。

――なるほど。目標金額やリターンの設定の他に、何か気になったことはありましたか?

鈴木さん:コミュニティメンバー間でもプロジェクトへの取り組み方に温度の差を感じることがあり、「熱意を伝えるのって難しい」と実感しました。「HUC」は人数も多いし基本オンラインベースなので、少人数で対面の場合に比べるとやっぱり熱の伝わり方が穏やかになってしまうんですよ。

――たしかに本人の熱量は実際に会ったときによく伝わりそうですね。

鈴木さん:クラウドファンディングは実行者の熱量が大事だと思うんです。そしてそれはカルピスの原液みたいなもので、拡散されるうちにどんどん薄まっていきます。

――拡散されること自体はいいものなのに、難しいものですね……。

鈴木さん:私の想いはあるのに、なかなかその熱量をそのままにメンバーへ共有できない。そのあたりの歯がゆさというかジレンマを感じました。

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――それは今後クラウドファンディングに挑戦する人にとっても大きな課題になりそうなテーマですね。

鈴木さん:自分の熱量をそのままの温度感でどれだけ多くの人に理解してもらうか。それを考えると、ただのイベントページと違ってクラウドファンディングの場合はストーリーを作りこんでいくことが重要だと思います。

――ストーリー性ですか。

鈴木さん:支援にまで至らなかったとしても、ページを読んでもらって、「HUC」を理解してくれる人を増やすのは、活動としてとても大切なので。

――そのためにもやはり実行者が強い熱意を持っていることが欠かせませんね。

鈴木さん:「何のためにこの活動をするのか」が大事だと思います。クラウドファンディングを実施する前から、自分がどれだけ熱意を持っていて、どれだけ人を巻き込めているか。

――強い想いを伝えられるかどうかが大切なんですね。

鈴木さん:目の前の人に熱意を伝えられないのなら、不特定多数を相手にするクラウドファンディングも成功しないでしょうね。

――これから挑戦する人に役立つヒントになりそうです。

鈴木さん:いざプロジェクトが走り出してからは、地道な情報発信や一対一での対応も成否の肝になってくると思います。そのあたりを意識すると成功しやすいのではないでしょうか。クラウドファンディングは挑戦するためのプラットフォームです。挑戦するマインドを大切にしている私たちの経験談が少しでも誰かのお役に立てたら嬉しいです。

――本日は貴重な体験談をお聞かせいただき、ありがとうございました。


執筆/村上杏菜

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