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自己査定と債務者区分

半沢直樹を持ち出すまでもなく、金融機関はお金を貸して利息を取るのがビジネスの柱になっている。メガバンクであろうとサラ金であろうと、金を貸せばついて回るのが「回収可能性」の問題。
とあるやくざが「回収さえ確実なら金貸しが一番ボロイ商売」と言ったそうだが、まさにその通りで、金融機関の悩みも畢竟その一点に尽きるといっても過言ではなかろう。

ゆえに、金融機関が決算を組む場面で肝になるのが、融資先(債務者)に貸したお金がどれくらい焦げ付くのかを見積もる作業だ。見積もった損失予想額はその決算で(まだ実際には焦げ付いていなくても)貸倒引当金として損失計上しなくてはならない。この一連のプロセスを自己査定と呼ぶ。なぜわざわざ「自己」とつけるかというと、昔は大蔵省が査定していたから。

どうやって見積もるかというと、債務者を貸倒リスクのレベルに応じていくつかの区分に分け、それぞれのグループごとに算定した貸倒実績率と債権額を掛けて将来的な貸し倒れ金額を予想するのが大きな枠組み。
このグルーピングを債務者区分といい、金融検査マニュアルには次のように定義されている。

「債務者区分」とは、債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判定して、その状況等により債務者を正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に区分することをいう。(金融検査マニュアル)

で、実務上は(少なくとも会計上、監査上は)実質破綻先と破綻先の区別はもはやどうでもよくて、どっちにしても担保になっている不動産などの保全部分を除いて100%毀損した(したがって損失計上しなければならない)とみなされる。

一方で、要注意先は少なくとも二つの区分に分けられる。「要管理先」と「その他要注意先」だ。「だったら最初から分けておけ!」というのは至極もっともな反応であろう。
この点について、私のうっすらとした記憶では、
「個別の債務者を見た場合に、破綻懸念先とまでは断言できないけど、要注意先の引当率では低すぎる債務者がいる。これを看過すると金融機関の健全性に著しい悪影響がある」
という議論が出てきて、特にロットの大きいクジラ的な債務者(ダイエーとかマイカルとか)を念頭に、どうやって十分な引当金を金融機関に積ませるか、という観点から生み出されたのが要管理先だった。
要管理先というのは、貸出条件緩和債権や3か月以上延滞債権(通常は延滞する前に条件変更するので、比較的レアケース)を抱える債務者で、感覚的には「その他要注意先」の5~10倍の貸倒実績率になる、それなりに危ない先だ。

金融機関の決算上、「要管理先かその他要注意先か」という以上に焦点になるのが「要注意先か破綻懸念先か」という議論だが、長くなるのでこれについてはまた改めて。

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