見出し画像

数字人間

すべての人間が
突然ある日を境に数字になってしまった。

お互いが数字になってしまったので
名前で呼び合うことができず
ただただ数字で呼び合うことになった。

これはいったい何の数字なのか、
どうしてみな数字になってしまったのか、
事態の解明が待たれた。

数字が並んでいると
やはり露骨に、
大きい数字に目がいった。

8888

なんであんなに数字が大きいんだろう。
全員の視線が釘付けになった。

「なんであなたはそんなに数字が大きいんですか?」

「自分でもわかりません」

「なんの数字だとご自身では思われますか?」

「まったく検討もつきません」

「やっぱり数字が大きいと嬉しいですか?」

「嬉しいような、でも、理由が分からないのでなんとも言えないです」

8888は小さい数字たちから
羨ましがられた。

数字を大きくするために
どんな食事をしているのか?
どんな運動をしているのか?
どんな生活をしているのか?
質問が殺到した。

小さい数字たちは、
8888がやっていることを
早速真似してみた。

するとすぐに変化する数字もいれば、
なかなか変化しない数字もいて、
それぞれ個体差があった。

少し大きくなった数字は、
やっぱりそうだと言って
数字を大きくする方法をどんどん発信した。

数字の多寡は
その日の天候や気圧によっても変化した。
特に花粉の季節は数字が小さくなりがちであった。

ある日、8888が暴落した。

数字たちは混乱した。

え、なんであんな大暴落したの?

大きい数字を信奉していた数字たちは、
すぐに自分の数字にも影響があるんじゃないかと
戦々恐々とした。

逆に、小さい数字たちは、
ざまーみろと言って喜んだ。

元8888は姿を消した。

突然の暴落に精神を病んでしまったと聞いた。

元8888がいなくなってから、
数字は前よりも安定しなくなった。

毎日毎日、変動して
自分はいったいどの数字なのか、
自分自身が、定まらない。

「私は、今日は何?」

「今日は、君は4だ」

「4なのね、不吉だわ」

「私は、今日は何?」

「今日は、君は7だ」

「7!ラッキーセブンね!」

「きっといいことがあるわ」

「そうだ、宝くじを買いに行こう!」

「宝くじで当たると、数字がバク上りするらしいよ!」

こうして、数字の上がり下がりで
一喜一憂することになったのだ。

そんな中で、
全く微動だにしない数字がいた。

15をずっとキープしているのだ。

「あなたはどうして数字を上げようと思わないでんすか?」

誰かが聞いた。

「どうして数字を上げようと思うのだ」

「だって嬉しいじゃないですか?」

「昨日より今日、今日より明日、数字が少しずつあがっていったら、毎日少しずつ成長している気がするじゃないですか」

「ああ、そうか。つまり私は成長していないということだね」

「そうなってしまいますね」

「ずっとキープだ。でも、数字が上がることが本当に成長していることになるのかね?」

「え?じゃあ何を根拠にすればいいんですか?」

「根拠が必要だと思うから、数字が必要になるんだ」

「あなたは、15でしょう?」

「私は15ではないよ。私は、私だ」

「あなたは15ですよ」

「15だと思っているのは、相対的な指標でしかなくて、そんなものは、まったく当てにならん。すぐに変動するだろう?だって、気まぐれなんだから。今日、君は私のことを気にしたから15であっただけで、君が私のことを忘れたら、とたんに15ではなくなる。私は、他の数字の中でいかようにも変動するものなんだ。だからね、あまり他の数字を気にしてはいかんのだ。自分自身を見失ってしまうからね。確固たる自分を持っていればそう簡単に数字は変動しない。私はそれを実践しているのだよ」

「そうなんですね!」

そう言っていた15は、
数日後には0になって、
帰らぬ数字となってしまった。

死後評価されて
その数字は1000まで高められたけど、
確かに他の数字の言うことは
勝手だなぁと思った。

ひとつわかったことは、
他の数字が喜ぶようなことをすると
自分の数字が上がるということ。

逆に、他の数字に嫌がらせをすると
自分の数字は下がっていく。
なるほど。

この数字が0になった時、
誰からも必要とされなくなって、 
社会的に抹殺されるということなんだな。

あの数字は、
きっとそういう数字だったんだろう。

こうして数字の5は、
社会で必要とされるために
必死に頑張るようになった。
数字を上げることに一生懸命になった。
誰かに喜んでもらうために、
身を粉にして精一杯サービスをした。

鏡をのぞくと、
いつのまにか数字は
256を突破していた。

毎日の積み重ねが、結果に繋がった。

少しでも数字が上がることが嬉しかった。

これで自分も誰かの役に立った。

しかし、ある日突然、
数字が24になってしまった。

なんで?何が起きたの?

なんと8888のような大暴落による混乱を防ぐため、
大きな数字たちを定期的に
再分配するという運動が始まったのだ。

自分でせっかく大きくした数字を再分配?

こんなことなら、
最初から数字なんて求めやしなかった。
誰かのためにサービスしても誰からも喜ばれないのであれば、
がんばったって仕方がない。

日に日に24の数字は減っていった。
5まで減ったところで、
ある時、数字ではないものに、
出会ってしまった。

街を歩いている、
アルファベット。

なんだろう、あのアルファベット、
優雅で、
美しい。

一目で恋に落ちた。
自分の中の数字がバク上りしていることに
驚いた。

見た目にはおそらく5のままだろう。

だが主観では2900くらいまでいっていた。 

つい話しかけていた。

「あなたは、なんて記号ですか?」

「私?私はアルファよ」

「アルファ、とっても美しい響きですね」

「そう、どうもありがとう」

「あなたは?」

「私は49です」

「49?あなた5じゃないの?」

5はつい見栄をはってしまった。

「あ、そうだ、最近5になってしまいました」

「ふふふ、面白い人ね、見たら分かるのに嘘ついて」

5は真っ赤になっていた。

「アルファさんは、どうして数字じゃないんですか?」

「私?私は最初から数字じゃないわ、逆にあなたはなんで数字なの?」

「え?みんな数字になってしまったんじゃないんですか?」

「それはあなたの思い込みじゃないかしら」

「私は最初からずっとアルファよ、数字になったことなんて一度もないわ」

5はようやくわかった。
世界は、ずっと変わってなんかいなかったことに。

5は、自分の認識を恥ずかしく思った。

「私は、今も5なんでしょうか?」

「5だと思いたいんだったら、そうなんじゃない?」

「私もアルファになれますでしょうか?」

「そうね、私にはオメガに見えるけどね」

「本当ですか、それは知らなかった、ありがとう」

「それより、ちょっとその辺り散歩しない?結構、面白い漢字が転がっているのよ。私、漢字を拾って、集めるのが趣味なの」

「へぇ」

5は自分にも漢字が拾えるだろうかと心配になった。

案の定アルファが指さした先に見えたのは
数字の14であった。

いやいや、
認識を変えるんだ。

14はだんだんと漢字らしきものに変形していった。
だが、アルファが見ている漢字とはまだだいぶ違っているようだった。

「こんな感じ?」

5は絵に描いて見せた。

「ちょっと違うわ、こんな感じよ」

アルファは絵に描いて訂正した。

「そうなんだ」

5は少しずつモノの見方が変わっていった。

「ほらここで、
ソフトクリームを食べましょう」

「これは350に見える」

「違うわ。紫白混甘よ」

「これは964に見える」

「いいえ。鴨遊泳池よ」

5はカルチャーショックで眩暈がした。

目の前には真っ赤な海が広がっていて
たくさんの数字の残骸が浮かんでいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?