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【LTRレポート】八坂神社節分祭の舞妓芸妓舞踊奉納

(初投稿2024/3/13、最終改稿2024/3/13)

はじめに

 2024(令和6)年2月2&3日、節分の日、ロングタイムレコーダーズの関西支部メンバー2名は、京都の四条通り東詰めに鎮座する八坂神社を訪れました。目的は節分祭(2日・3日)で奉納される京都の四花街(かがい)*[祇園甲部(こうぶ)、祇園東、先斗町(ぽんとちょう)、宮川町]による舞踊を見学し、レポートと映像をNPOの活動報告として一般に公開することです。

*これに上七軒(かみしちけん)を加えたのが五花街。「京都の五花街」の項を参照のこと。

節分祭と八坂神社での舞踊奉納

 節分は立春の前日。平安時代には疫鬼を祓う「追儺(ついな)」の儀式が宮中で行われました。これが民間行事に変容したのが豆撒きです。全国の寺社で特色ある節分祭を祝いますが、八坂神社は上記の四花街が氏子であることから、各花街の舞妓と芸妓が神様へ舞を納めるのが恒例になっています。磨き抜かれたプロの伎芸をお茶屋(芸妓を呼んで客に飲食をさせる店)以外で目にする機会はめったになく、記録して多くの方々に伝えたいと考え、足を運びました。

 当日は朝から曇りで冷え込みましたが、午前9時には50人を超える写真マニアが場所取りのため列をつくり、高揚感が伝わってきます。私たちも国内外の観光客に混じって待つことしばし。あでやかな着物姿のきれいどころが登場すると、いっせいにシャッター音が響きます。洗練された舞の所作の一つひとつにあちこちから感嘆の声が聞こえました。

 そもそもお茶屋には「敷居が高い」イメージがあり、近寄りがたいと思う人も少なくありません。また、一般に彼女たちと街なかですれ違っても許可なく撮影することは禁止されています。しかし、この時ばかりは舞踊をすぐ近くで鑑賞できるうえ花街ごとの流派の違いもなんとはなしに感じられるので、一見に値するといえるでしょう。

 日が暮れたら別のお楽しみも。歴史上の人物や人気役者、話題のキャラクターなどの仮装をした芸舞妓がご贔屓筋の待つお茶屋をめぐる「お化け」というイベントが催され、お祭り気分がいっそう盛り上がります。これは「京都のハロウィン」と呼ばれているとのことですが、さて!?

八坂神社には多くの人が詰めかけていた

京都の五花街

 京都市内には5つの花街が現存しており、伝統あるおもてなしの場として世界に名を轟かせています。八坂神社の門前に祇園甲部と祇園東、南座の近くに宮川町、鴨川を渡った西に先斗町があって、これらが八坂神社の氏子になります。少し離れた北西部に位置するのが、もうひとつの上七軒。こちらの舞踊奉納は、隣に建つ北野天満宮で行われます。なりたちも舞の流派も異なるものの、誇り高い京の花街としての価値観を共有して切磋琢磨し、歴史を超えて受け継がれてきた文化と伎芸を守り続けているのです。

舞妓と芸妓はどう違う?

 舞妓と芸妓は、ともに宴席での歌舞音曲により客を楽しませる女性のことです。芸妓になるために修業中の少女が舞妓で、15歳から20歳ぐらいまで概ね5年間、唄や踊りのみならず、華道、茶道、書道、さらに京言葉や行儀作法なども厳しく仕込まれます。加えて、掃除や洗濯、使い走りもしなくてはならず、毎日が目の回る忙しさ。このようにして伎芸や教養ばかりかお座敷でのふるまいも一人前と認められ、ようやく芸妓としての一歩を踏み出すのです。

各花街の舞踊と節分祭の演目

 江戸では歌舞伎舞踊が主流であるのに対し、京都・大阪で独自に発展したのが上方舞。京都のものをとくに京舞と呼んでいます。歌舞伎舞踊は歌舞伎の演目から「踊り」の部分を取り出したのが始まりですが、京舞は御殿舞(宮廷の女官の舞)を源とし、時代が変わるたびに能や人形浄瑠璃などの影響も受けて、お座敷で披露される「舞」として完成しました。そうした経緯から、京都を含む上方では「舞」に基盤を置いた流派が継承されることが多いといわれます。

 四花街それぞれの舞踊の流派と特徴を次にまとめました。

①先斗町 当日の演目(以下同じ):「梅にも春」2024年2月2日 13:00
(映像 https://youtu.be/9oi-aNIqtLE?si=7witDNGgj9ok8bEt
尾上流。歌舞伎俳優の六代目尾上菊五郎が創始したもので、舞台芸術性の高さは随一です。「梅にも春」は演劇的な演出で新春の風物詩が描かれ、若々しく表情豊かな舞踊が見せ場でした。
演者 立方(舞踊、以下同じ):秀芙美さん、市琴さん
   地方(楽器および唄、以下同じ):市乃さん、豆八重さん

②宮川町 「姫三社(ひめさんじゃ)」2024年2月2日 15:00
(映像 https://youtu.be/9oi-aNIqtLE?si=ORE7EfC2lChBGanC&t=212) 
若柳流。かつての楳茂都(うめもと)流に代わって現在は若柳流五世若柳吉蔵師が指導しています。三味線と鳴物、唄が重なり、扇を使った優美な舞踊が持ち味の「姫三社」は宮川町の定番。
演者 立方:小はつさん、ふく侑さん、ふく凪さん、とし涼さん、はなともさん
   地方:(唄)ふくはさん、はるゆうさん、美恵雛さん
      (三味線)千賀ふくさん、君有さん、小せんさん

③祇園甲部 「祇園小唄」2024年2月3日 13:00
(映像 https://youtu.be/9oi-aNIqtLE?si=2aqhByGRf_FQp1Za&t=454
京舞井上流。代々女性が継承してきた京舞を代表する流派です。女らしい表情(振り)を抑制し、腰をおとして背筋を伸ばして舞う「静の舞」に特徴があります。「祇園小唄」は昭和5年のサイレント映画「祇園小唄絵日傘」の主題歌で大流行し、今日も演じられる人気の演目です。
演者 立方:まめ彩さん、亜佐子さん、槇沙子さん
   地方:だん満さん、まほりさん、えびのさん

④祇園東 「祇園小唄」2024年2月3日 15:00
(映像 https://youtu.be/9oi-aNIqtLE?si=LoSZK93GGDieqaQL&t=751
藤間流。藤間紋師が日々の指導にあたり、江戸の歌舞伎舞踊の要素も織り込まれています。舞手が入れ代わり立ち代わり現れ、上下前後の動きも闊達で、華やぎを感じさせる演出でした。
演者 立方:満彩尚さん、富瑛梨さん、満彩音さん、叶静さん、叶鈴さん、叶園さん、雛子さん
   地方:録音音源により無し

                 ◆

 今回、舞妓と芸妓による舞踊奉納を直に拝見し、併せて記録できたことは、たいへん有意義であったと感謝いたします。四花街の舞踊はいずれも能をはじめとする日本の芸能を柔軟に取り入れながらそれぞれに成熟の度合いを深めたもので、「無形文化遺産」として非常に重要な位置づけにあることがよく理解できました。

 末尾になりますが、八坂神社、五花街歌舞会はじめ関係者の方々にご理解と情報提供をいただいたことに謝辞を申し上げて結びとさせていただきます。

                                     (京)

参考文献

相原恭子(2001)『京都 舞妓と芸妓の奥座敷』文春新書
郡司正勝(1977)『日本舞踊辞典』東京堂出版
藤田洋(2001)『日本舞踊ハンドブック』三省堂

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