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『平凡パンチの時代』 第十章 闘士対戦士

 八王子はもともとが東西に長い形の街である。商業ビルの立ち並ぶ駅前からタクシーを走らせて北に拝島の方に2キロも走ると、街並みは旧来のひなびた田舎町のたたずまいを見せはじめる。浅川を越えて左折し大善寺にいくためのトンネルをくぐり抜けると、その先は土地開発の波がまばらに押し寄せた雑木林が左右に広がる。大善寺は大谷町の丘陵の斜面を切り開いて造った共同墓地の管理事務所も兼ねたお寺だが、この寺で海老原博幸の墓所の在処を聞くとすぐにわかった。海老原のお墓はこの大善寺の裏手に広がる墓地の一番事務所に近いブロックのはずれの一角にあった。
 谷の斜面を開発して造られたその霊園は、ちょうど左右に亀裂のようにして走り抜ける中央高速道路を見下ろす小高い丘の裏側にあたる。丘の頂上まで登れば、おそらく高速で走りつづけている車の走列が見えるはずだが、それらの疾走する車たちの騒音もここまでは聞こえてこない。
 海老原のお墓を訪ねたのは13年ぶりだが、前のときは5月の初めで、桜の花にはもう時期が遅く山つつじにはまだ、少し時期が早いころだったが、木々の新緑は燃え立つように鮮やかで美しかった。

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