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小説『廃市』 第七章 因縁〜星空のドーム〜

十年の経過の中で、松波涼子はただの若い娘から美しい女盛りの成熟した女に成長していた。全体が{思い出モード}に包まれてなんだか緩くなりそうな雰囲気が彼と松波涼子の間に漂いそうになったところで、気持ちを引き締めるように、彼女が言った。
「あたしたちの時間は互いに望んでその気になればいくらでもあります。この町にもライオンロックのあの部屋のように官能的な場所はいくらでもあるんです。あなたがお望みならばあたしたちは〈組織〉とレイコさんの目を盗んで浮気して、ひっそりそこで肉体の愛を交わしてもかまわない。あたしも、ホントは久しぶりにあなたに抱いて欲しいんです。でも、今はダメ。だって、あの方に許されている時間はあんまりないんですから。彼女はあなたとの出会いに、あなたが【デジタル・ハート】のキーワードを見つけだして、本当の彼女のところにたどり着いてくれることに最後の希望の全てを賭けているんです」
「それは無茶だよ、【デジタル・ハート】のキーワードだなんて、僕は何も分かっていないんだよ。それに、彼女だって、僕のことをよく知らないでそういっているんでしょ」
「すごいいびきを掻くこととか、オナラ癖が悪いこことか、レイコさんから聞いて知っているようです。あたくしも女に手の早い人だというのは申し上げておきました」
「まずいねえ、なんかイメージ悪くて」
「彼女は笑っておかしがっていましたから、好感を持っていると思いますよ」
そう言ってから、松波涼子は言葉をつづけた。

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