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ダリル・ホール with トッド・ラングレン コンサートレビュー(2023年11月21日 大阪 Zepp Namba)

ダリル・ホールの来日は、2015年のホール&オーツでの公演以来。その時に見た大阪での公演は、ヒット曲オンパレードで非常に完成度の高いものだったが、その反面、ファンが喜びそうな曲だけを「パパッとやって終わった」という印象を受けた。観客との一体感や彼ら自身が楽しんでいる雰囲気があまりせず、何だか「ビジネスライク」な雰囲気を感じた。

ホール&オーツのオリジナルアルバムは、ファーストから83年の『Rock 'n Soul Part 1』までは全て(ついでに言うと、デビュー前の未発表曲集やグループ結成以前にダリルがメンバーだった「ガリバー」のアルバムも)持っているが、私自身、さほど熱心なファンというわけではない。そんなわけで、80年代後半以降のホール&オーツの活動や、ダリルのソロ活動もあまりフォローはしていなかった。ただ、2000年代半ば頃からダリルが始めた、彼の自宅にゲストを迎えてセッションをする番組『Live from Daryl's House』については、たまに見る程度ながら、そのリラックスしたライブ感がとても良いと感じていた。

そんな中、今回は「Daryl Hall and the Daryl's House Band」としての来日。しかも、大阪公演は1階席オールスタンディングのハコとあって、件の番組のような親密な雰囲気で見られるのではという期待のもと、「いち早先行予約」でチケットを予約した。そのおかげか、会場では比較的早めにホールに案内され、ステージから10メートルくらいのところに陣取ることができた。

パワフルなトッド・ラングレン

今回の公演は、トッド・ラングレンとのジョイントというのも興味深かった。ラングレンは、ホール&オーツの異色作と言われる3作目『War Babies』(1974年)のプロデュースを担当するなど、ダリルとは旧知の仲。同じフィラデルフィア出身でソウルミュージックに造詣が深いほか、前衛的な面もあるなど、ダリルとの共通点も多々ある。実際、ダリルとは相性が良いようで、『Live from Daryl's House』にも複数回出演している。とは言え、私自身はトッド・ラングレンについてはあまり詳しくない。彼がメロディメイカーぶりを発揮したいくつかの有名曲を知っている程度だ。「奇才」とよく形容されるだけあって、よく言えばバーサタイル、悪く言えば捉えどころのない彼の音楽には、なかなか付いていこうと思わなかったというのが正直なところ。

ステージは、そのトッドの登場で幕を開けた。上で述べたように私はトッド門外漢なので、彼について多くを語るべきでないと思うが、とにかく彼の迫力ある姿に驚いた。私の中のイメージは、「Hello It’s Me」の頃の長身で面長、センシティブそうな天才ミュージシャンだったので、全身黒づくめのズドーンとした体型で、半袖の上の黒ベストから太い二の腕がのぞいている、オジー・オズボーンのような姿にまずは驚いた。

今回のライブでのトッド・ラングレン

彼のセカンドアルバムの「首吊り」ジャケットなどのイメージから、キーボードの後ろにいる姿を勝手に抱いていた私は、トッドが何の楽器も持たずに、ヴォーカリストよろしく、マイクを手にステージ中央に立ったことにも驚いてしまった。そのヴォーカルは、まるでウォーレン・ジヴォンのように野太くも力強く、彼の若い頃の繊細な声しか知らなかった私は、ここでも驚いてしまった。さらに、トッドは歌詞の内容に合わせて、まるで手話のように身振り手振りを加えて歌う。歌詞を理解できない日本の観客向けの配慮かと思ったが、後でYouTubeを見たら、アメリカでも同じように歌っていた。(下の映像は、日本に来る少し前のロサンゼルスでのライブ)

途中、何曲かでは、日本製のグリーンのストラトタイプのギターでロックギタリストぶりも披露してくれたトッドのセットは、たっぷり14曲。後が控えているだけにさすがにアンコールはなかったが、最後の方にはスモーキー・ロビンソンの「Ooo Baby Baby」など、ソウルナンバーのカバーも披露し、ダリルと共通のルーツも感じさせてくれた。この辺りの選曲も含め、彼の音楽性の一部かもしれないが、今は亡きローラ・ニーロに通じるものも感じた。

年齢を感じずにはいられなかったダリルのヴォーカル

約20分の休憩を経て、いよいよダリル・ホールが登場。オープニングは86年のソロ2作目からのヒット「Dreamtime」。以前に比べると少しお腹が出ているように見えるが、黒いスーツ姿におなじみの黄色と赤のギターストラップでテレキャスターを低めに構えるその姿は相変わらずカッコいい。ステージは『Live from Daryl's House』のダリルの家を模した背景になっており、一瞬その番組を見ているような錯覚にも陥る。ダリルズ・ハウス・バンドの音もソリッドだ。

今回のダリルは、期待通りすこぶるリラックスした雰囲気で、観客にも積極的に話しかけるなど、本人が演奏を楽しんでいる様子も伝わってくる。その点、前回のホール&オーツ公演の時のよそよそしさとは明らかに違っていた。選曲は、昨年発表されたダリルのソロ・コンピレーション作『BeforeAfter』にも収録されている曲を中心に、ホール&オーツのヒットを要所要所に挟む構成。85年にポール・ヤングがカバーしてヒットさせたホール&オーツ作品「Everytime You Go Away」では、S&Gの「明日に架ける橋」風のゴスペル調アレンジが印象的だった。(下の映像は、今年8月のテキサス州フォートワースでのライブ)

ただ、曲が進むにつれて感じたのは、2015年に比べて明らかに高い声が出なくなっていること。今回の来日公演でたまたま喉の調子が良くないのか、年齢のせいで高い声が出なくなっているのかわからないが、曲が盛り上がる高音部をオクターブ下げて歌う姿も度々見受けられた。そして、敢えて言うと、単に高音部が出ないというだけでなく、ダリルズ・ハウス・バンドの勢いのある音に対して、全体に少し外れてしまっているような印象さえ受けた。感覚的には、半音の8分の1くらいキーが外れているような雰囲気だった。

そんなダリルのセットだったが、「Sara Smile」「I Can’t Go for That」とヒット曲が続いて盛り上がったところで一旦メンバーが退散。「休憩ありの2部構成か?」と思っていたら、今度はメンバーたちとともにトッド・ラングレンも再登場。ホール&オーツの「Wait for Me」、トッドの「Can We Still Be Friends」をそれぞれデュエットで歌い、さらにはフィリーソウルのグループ、デルフォニックスのカバー「Didn't I (Blow Your Mind This Time)」と続いた。(下は今年6月、ニュージャージー州アトランティックシティでのライブ)

こうやってダリルとトッドが並んで歌うと、ダリルのみならず、トッドの声、さらには、今のバンドの中でダリルとは一番長い付き合いのチャーリー・デシャントのサックス、この3人の年長メンバーの音がバンドの音からやはり少しずれている印象があった。ファンの方には申し訳ない喩えだが、日本でよくありがちな青春時代の懐かしのスターが登場するショーで、すっかりお腹の出た往年のスターが張り切っているけれど、それゆえに見ていて余計に辛い─そんな印象さえ受けてしまった。見た目が若々しいのでついつい失念してしまうが、ダリル・ホールも現在77歳。その年齢を考えれば、無理もないかもしれない。ただ、今回は、前回のホール&オーツ公演とは異なり、ダリルが終始ノリノリで楽しそうだったことが嬉しい点だった。ホール&オーツの場合、ヒット曲か多すぎて、セットリストがどうしても画一化し、本人たちも飽きてしまうのかもしれない。

ダリル・ホールがジョン・オーツを訴えた?

そんな感想を抱いてこのレビューを書こうとしていた11月23日、ダリル・ホールに関するあるニュースが入ってきた。ダリルがジョン・オーツに対する一時的な接近禁止命令を裁判所に申請したというのだ。現時点では、ダリルがジョンに何らかの訴訟を起こしているということ以外、詳しいことは不明のようだが、今回のニュース記事を読むと、ダリルは昨年出演したトーク番組『Club Random with Bill Maher』で「ジョンは、単にビジネスパートナーであって、クリエイティブパートナーではない」「『Kiss On My List』は全部、僕ひとりでやった」などとも語っている。

今のところ真偽はわからないが、この年齢になって長年のパートナーを訴えるというのは、いかにもアメリカ的と言えばそれまでだが、音楽ファンとしては何とも寂しいところ。昨年の10月まではホール&オーツとしてのコンサートも行っていたというが、2015年の公演で私が感じた「よそよそしさ」は、もしかしたらこんなところに原因があったのかもしれない。

[Set List]
Todd Rundgren set
01. Real Man
02. Love of the Common Man
03. It Wouldn’t Have Made Any Difference
04. We Gotta Get You a Woman
05. Buffalo Grass
06. I Saw the Light
07. Black Maria
08. Unloved Children
09. Hello It’s Me
10. Sometimes I Don’t Know What to Feel
11. I'm So Proud
12. Ooo Baby Baby
13. I Want You
14. The Want of a Nail

Darryl Hall set
01. Dreamtime
02. Foolish Pride
03. Out of Touch
04. Say It Isn’t So
05. I'm in a Philly Mood
06. Every Time You Go Away
07. Babs and Babs
08. Here Comes the Rain Again
09. Sara Smile
10. I Can’t Go for That
[Encore 1:  w/ Todd Rundgren]
11. Wait for Me
12. Can We Still Be Friends
13. Didn't I (Blow Your Mind This Time)
[Encore 2]
14. Private Eyes

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