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映画『クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド』 リビュー

少し前のことになるが、映画『クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド』を観た。クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル(CCR)が1970年4月14日に英国ロイヤル・アルバート・ホールで行なった公演のドキュメンタリー映画だ。Noteでは一足先にRyoさんが感想を載せていらっしゃったが、私も基本的にRyoさんと同様の感想で、映画のハイライトであるコンサート映像については、怒涛のような全盛時のCCRのライブをフルで追体験でき、非常に感慨深かった。

私の記事では、Ryoさんがあまり触れておられなかった、映画としての側面を中心に感想をまとめたいと思う。

圧巻のコンサートシーン

私が最初にCCRを聴いたのは、1980年。当時『The Royal Albert Hall Concert』というアルバムが発表されたのがきっかけだった。このアルバムは、タイトル通り、1970年4月のロイヤル・アルバート・ホールでのライブと謳われていたので、まさに今回の映画の瞬間を捉えた音源だったはずなのだが、発表の翌年になって、実は、ロンドンでのライブではなく、同じ1970年の西海岸オークランドでの収録だったことが「発覚」。アルバムタイトルも『The Concert』と変更された。

後に改題された『The Royal Albert Hall Concert』(1980年)(eBay出品の画像より)

そんないわく付きのロイヤル・アルバート・ホール・コンサートだが、映画によると、今回のコンサート映像は50年の時を経てロンドンの金庫で発見されたという。ただ、このコンサートの映像はBBCが撮影していたという記事を見たことがあり、私も映画を見た後で自分のビデオコレクションを確認してみたところ、海賊盤のVHSでこの時の映像をしっかり持っていた。映画で「50年ぶりに見つかった」というのは、おそらくマスターフィルムのことではないかと思う。

今回の映画を見て感じたのは、そのコンサートを収めた撮影自体がかなり気合いの入ったものだったということ。まずカメラの台数の多さ。映画で中心となっていたカメラは、ステージ正面左寄りからステージ右端にいるリードヴォーカルのジョン・フォガティを捉えたものだったが、それ以外にもかなり多くのカメラが使われていた。ステージ真下からメンバーが足でリズムを取るクローズアップが使われていたり、ステージ真後ろから俯瞰で客席を映し出すカメラもあった。特にこのカメラワークは印象的で、映画を観ていて、客席からコンサートを鑑賞しているというより、バンドの関係者としてメンバーと緊張感を共有しているような感覚になった。特にコンサートのオープニングでは、シビアなイギリスのオーディエンスの前で初めて演奏するメンバーの緊張が伝わってくるようだった。

映画を観た後、自分が持っている当時BBCで放映されたであろう映像を見てみたのだが、やはり編集が異なっていた。BBCの映像では、メンバーの顔や手元のアップが結構ふんだんに使われていて、普通に考えれば、こちらの方がライブ映像としてはよく出来た仕上がりに思えた。映画の方は、比較的クローズアップが少なめで、ロングショット中心に編集されている。文字通り、ちょっと「引いた感じ」なのだ。おそらくはコンサート会場で実際に見ているような雰囲気を感じさせたいという狙いがあったのではないだろうか。

また、これはBBCのオリジナル映像でも同じことなのだが、この70年当時に実際のコンサート会場でのライブを撮影した映像としては、かなり撮影のクォリティが高いように思う。当時の機材の性能を考えれば、ズーム性能や照度の問題などある程度限界があったはず。そのことは、例えば、同じ頃に撮影されたウッドストックフェスティバルやワイト島フェスティバルなどの映像を見れば明らかなのだが、当時のBBC自体の撮影技術が優れていたか、あるいは質・量ともにかなり充実したスタッフ体制でCCRの来英を迎えたように思われる。

貴重なドキュメンタリー

コンサートの映像をほぼノーカットで見せてくれる一方で、この映画は単なる「フィルムコンサート」(死語だろうか?)のようなものではない。私自身、鑑賞するまではそういう内容なのかと思っていたのだが、実際は、コンサートをハイライトとするドキュメンタリー映画と言っていいだろう。英国の舞台芸術の殿堂ロイヤル・アルバート・ホールでのコンサートをクライマックスに位置付け、そこに至るまでの気分を高めるように、ヨーロッパ各地を転戦するバンドメンバーたちをカメラが追っていく。初めてのヨーロッパ訪問に異文化を感じているメンバーたちの姿が興味深い。こういった映像はBBCが撮影したものなのか、各国のテレビクルーが撮影したものを編集したものなのかわからないが、取材はかなりの密着度でヨーロッパ初訪問のCCRへの期待が現地で高かったことが伺い知れる。

ヨーロッパの街並みを背景にインビューを受けるステュ・クック(映画の一場面より)

考えてみれば、1960年代末から70年前後のヨーロッパでは、アメリカのバンドが本国以上にもてはやされていた節がある。例えば、ブライアン・ウィルソンを欠いて本国では落ち目になっていたビーチ・ボーイズはヨーロッパでのライブでバンドとしての自信を取り戻すことができたし、本国ではほとんど売れなかったフライング・ブリトー・ブラザーズは欧州(特にオランダ)で大歓迎されるなど、この当時のヨーロッパの人々は、アメリカ的な音あるいはモノに飢えていたように思え、社会的な視点で見ても興味深い。CCRの場合は、本国でもシングルヒットを連発していた時期なので、満を持してという感じだったのだろう。

ヒストリーものとしても秀逸

映画の前半では、ヨーロッパ各国を転戦する様子と並行して、CCRの結成からこの欧州ツアーにいたるまでのヒストリーが実際の映像も交えながら詳細に紹介されていく。長年のファンなら彼らの歴史を再確認できるし、CCRをあまり知らない人なら一から理解できる内容になっている。私が再確認したのは、メンバーのジョン・フォガティダグ・クリフォードステュ・クックの3人が同じ中学の同級生で、その当時からバンドを始めたこと(そこに暫くして、ジョンの兄トムが参加)。そして、最初に「ゴリウォグス」を名乗らされてファンタジーレコードと契約した後、ジョンとダグが徴兵に取られて一旦バンドが離散したこと。そのことを考え合わせると、親のコネで徴兵を免れる「ラッキーな息子」を風刺した彼らのヒット曲「Fortunate Son」もよりリアリティを帯びてくる。(下の映像は今回の映画からのもの)

また、私がこの映画で初めて知ったのは、69年のウッドストックフェスティバルでプロモーターが最初に声を掛けたのがCCRだったということ。その時代のロックを牽引していたCCRが参加すれば、他の同世代のロックバンドも参加するだろうという狙いだったという。ウッドストックと言えば、ジミヘンやジョー・コッカー、CSN、ザ・フーあたりの映像が印象的で、CCRが出演していた印象が薄いのだが、CCRは土曜夜のトリの予定だったという。『ウッドストック』の映画では契約の関係で映像に残らなかったアーティストが多く、CCRもそのひとつだったが、この映画ではその映像もフィーチャーされていた(今やYouTubeで簡単に見れるようだが...)

映画の前半は、このようなさまざまなエピソードが俳優ジェフ・ブリッジズ(カントリーミュージシャンでもある)のナレーションで、ほぼ時系列で語られていく。そしていよいよ「その時」1970年4月14日を迎えるわけだが、映画ではその4日前の1970年4月10日にビートルズが解散(厳密にはポール・マッカトニー脱退宣言)したことが、象徴的に取り上げられる。いわく、この時、CCRは「名実ともに世界で一番ビッグなバンドになった」と。この部分に限らず、映画ではビートルズとの比較が随所に出てくるのだが、強いて言うと、この点だけは若干違和感を感じた。映画をドラマチックに仕立てる上ではわかりやすい材料だったのかもしれないが、1970年当時は、イギリスではブルースロックからハードロック、プログレ、アメリカでもブラスロックやカントリーロックなど、さまざまなタイプのバンドが割拠していた時期であり、そもそもビートルズとCCRを同じ土俵に上げること自体少々無理があると思えた。仮に同じ土俵上で比較するのであれば、ほぼ同じ時期に同じように南部から離れた地にいながら、かの地への憧憬をもとに曲を作っていったザ・バンドと比較した方が、音楽論的にはまだ面白いと思う(当然、一般受けしない内容になってしまうが...)

ぜひ映像で見てほしい作品

この映画は、本国アメリカでは昨年(2022年)公開(Netflixで配信)され、それと同時に同じコンサートを収録したアルバムも発表されたようだ(今度こそ、本物のロイヤル・アルバート・ホールでのライブアルバムだ)。私は不覚にもこのアルバムの存在を知らなかったので、映画を観た後に何度かストリーミングで聞いたが、やはり映像付きにはかなわない。アルバムの方は各楽器の音質もクリアなのだが、その分、会場の雰囲気が伝わってきにくい。曲間の観客の拍手や歓声もフェイドアウトさせながら、あまり間髪を入れずに次の曲に繋いでいるようで、ある種スムーズに聞けてしまいすぎる。

映画と同時に発表されたアルバム『At the Royal Albert Hall』(2022年)

コンサートオープンングの少しピリピリとした緊張感、そして、メンバー・観客とも徐々に脂が乗ってくる様子。特にラストの「Keep On Chooglin'」でのジョン・フォガティのハーモニカソロで踊り狂う観客が出てくる様子などは、映像ならではのものだと思う。決して聴衆を煽ったりするわけではなく、生真面目すぎると思えるくらい黙々と演奏を続けるメンバーたちの良い意味での愛想のなさも音だけでは伝わりにくいかもしれない。CCRのファン、あるいはCCRに興味のある人は、ぜひ映画で楽しんでほしいと思う。


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