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#9 言語の幽林

石の段丘はつづき
追憶のほか視覚的な森の神域
落葉たちの集団的自我が
頭痛のまえにはしる閃光を予兆する
マグカップに貼りついた
固形のミルクティーを爪ではがすとき
そうしてミルクティーの色と匂を爪は
ありていに遇する

知るといい
どこにも連続しない小箱の内側で
毎日なにか奇特なことばたちが連続して爆発する
弦楽器の残響のような夢のなかで
偲ばれた在りし日の魚たちが
いっせいにうごめき立つ 
「あのころはもう帰ってはこない」
いなくなったものたちが合唱し
空洞が屹立する午後
がりりと噛まれたラムネ菓子たちの刹那が
空洞を通って 涼しげに鳴り
すべての風は
そのとき静止することで
そのような 時刻にだけ
生きていることばたちが
待っている あの
幽けき印象画の木々の奥のほうで