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[詩]虚空の軍列


脱落した腕たちの骨を
音なくきしませる揚力を
振り翳す条件で
男の背後に黝く
ひらめくような人人の列
右のものから消えかかり
漸く輪郭をもつひだりの一人
起き上がりざま
耳をふさがれ
眼といえば
透明な釉薬に浸され
前頭葉の海底の花畑には
精悍なる蓋然性が樹木のように佇立し
明滅し
生成
しながら浮かんでいる

 「どうしてか、おれたちは
  おれたちではいられぬか」
 火箭のような問いかけを
 静謐な空洞たちの矢筒から呼び出し
 車輛と車輛のありあまる空隙へ
 かたむけながら…

軍列は死ななければ
軍列は死ぬことができる。
軍列は生きることさえできる。
できるのだと
信じたいとおもうだけの罪を
海辺にて逆立する塔となった時間を
じっと見つめる温度があり
飢えたままの男の
乳頭を結んだ中点の孔には
影像として定義されつつ
終わることなき虚空の軍列
その呼吸は追想として
凍てついて離れない
断続する事実である

 軍列は
 ことごとく孤独にして
 死ななければ いけない
 刑死しなければ
 いけない!



※本作は、第十八回『文芸思潮』現代詩賞にて奨励賞を受賞しました。