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[詩] すべて消滅する恋愛のために


恋愛は消滅する。誰も気付いていないか、気づかないふりをしている。それは悲しいことでもないが、うれしくもない。閉じられた恋愛たちを供養する人はいない。挽歌はうたわれず、通夜もない。岬の灯台の下のフェンスに結ばれた南京錠は、ふたりの名を刻んだまま。時と風とが午後を均していった。

恋愛は消滅する。けれども人は、恋愛を求める。漁火のごと、夜の海にこうこうとあかるく。海の暗みに、夥しい無数の手の波。それはわたし。わたしたちのウェイブ。消滅することのいとしさ。正しさ。生まれて死ぬこと。星々の創造。左足の次に右足が出ること。どうしようもなさ。わたしとあなた。距離。呼吸。凪。朝陽。波濤。あなた宛の恋文に、白梅柄の切手を貼りつけ。

春の風の予感に、
瞼のしたの果実がひかり。