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雜記

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思考以上言明未満のものたち
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2023年9月の記事一覧

《祈る者》たち

 新入社員のくせに、11連休を作って神戸へ帰省する。およそ20年過ごした郷里は再開発などで表面的に少しずつ変わりながら、それでも海風の薫りと、のんびりした陽光の感じがある。気付くと父母はもう高齢者と括られる年齢で、かくも流れゆく時をいかに感じずにここまで来てしまったかということに今更悔悛したくもなる。    夕暮れに砂浜を歩く。明石海峡大橋のふもとには、夏は海水浴でにぎわうビーチがある。さすがに月曜ともなると人もまばらで、規則的に波打つ静かな響きが、空へ還っていく。波濤の音は

 いつも、海を思い出す。朝ぼらけのまどろみの中に聞こえた低く長い船の汽笛の音や、突堤にぶつかる波濤、ゆっくりと呼吸するように隆起しては沈む蒼黒い海面が、記憶というより感覚として思い起こされる。あの音は善かった。郷愁と言えるだろうか。海風が吹き抜けるわたしの生家、自室の風景とそこにある匂いには、いつも磯の香が混じっていた。それは生命を意識させる、生々しく、それでいてさわやかな緑のような、色彩を感じさせる匂いなのだ。いま、日々を蕩尽し、目標なく惰眠をむさぼる自分が、少しだけかわい