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ドキュメンタリー制作が全然進まないので、経験から学んだ基本の「き」を語ってみる。

「ドキュメンタリーの撮影に専念したい」と会社を辞めてから、ほとんどの時間を制作に費やしているわけですが、3年間も長期取材を続けているうちに、何を撮影すれば良いか分からなくなってきました。

生活を共にすることで街や人の変化を捉える感覚が鈍っていったり、構成に囚われ過ぎていたりすることが原因なのですが、一番は取材者が計画したことが何も進まずに滞っていることが原因だと思っています。

せっかく住み込みでやっているのに撮るべきことを見失ってしまって、物語はどこに向かっていくのかと不安な日々を過ごしているわけですが、無駄に撮影を続けて取材者を疲弊させたくないし、取り逃がしもしたくないなと思います。こんなときは基本を振り返るのが一番です。

ドキュメンタリーとは何を記録するものなのか。

もちろん定義は人それぞれですが、個人的には「(主人公を動機づける)原因から結果までの過程を見届ける作業」だと思っています。
以下にログライン例を2つあげてみます。

「財布を落とした金持ちの学生が、家に帰るためにヒッチハイクをする」
原因:財布を落とす
結果:家にたどり着く
過程:ヒッチハイク
主人公:お金持ちの学生

ログライン例1

「親友の余命宣告をきっかけに新薬開発を決めた製薬会社の社長が、知識人に会うために海外を飛び回る。」
原因:余命宣告
結果:新薬開発
過程:海外を飛び回る
主人公:製薬会社の社長

ログライン例2

こんな感じです。
ログラインは途中で変わることもありますが、基本的には作品完成まで、そこをゴールに目指すことになります。

撮りたいテーマ、ログラインが定まったらシーンを作ることになるのですが、ログライン例1「ヒッチハイク」のように原因から結果までの期間が短い場合は、主人公の行動予測が容易くなります。
(ヒッチハイクが上手くいかずにイライラしたり悩んだり、乗せてくれた人の車で談笑したりするようなシーンが想像できますよね。)
その一方で、主人公の成長や心境の変化が際立つような場面に遭遇できなければ作品として成り立たなくなるリスクがあります。
(心の中で「何か起これ!」って唱えます)

新薬開発のように原因から結果までの期間が長い場合は、主人公の成長や変化を撮り逃がしたとしても、撮り続けることで最低限に完成させることはできるかと思います。その一方で主人公の心変わりがドキュメンタリーに作用して、絶えず構成を変えることになったり、振り回されてしまうというリスクがあります。(ドキュメンタリーの醍醐味かもしれませんね。)

この意味で、短期取材はキャラクターが魅力的(お金持ちの学生が裕福である)ほど面白く、長期取材はテーマが魅力的(新薬開発に多くの障壁がある)ほど面白くなりそうです。

伝えたかったメッセージは何か。

さて、私が制作しているドキュメンタリーは、再開発で消えゆく街の景色がテーマなのですが、キャラクターに難があったり、物語が滞っていてもクライマックスさえ意識できていれば工夫次第でリカバリーできると思っています。(やっぱり不安ですが。)

というのも私が取材している主人公は「再開発で消えゆく街で、みんなの居場所を作る」と計画していて、私は完成までの過程を撮影しているのですが、先延ばしにされているのです。だからといって、むやみやたらに撮影しても編集で使わない素材は始めから無いのと同じです。取材相手を疲れさせてしまうだけで骨折り損になるようなら、やっぱり基本に立ち返る必要があるでしょう。

こういうときは、作品を通して伝えたかったメッセージは何かを再確認すると良いかと思います。

仮に「人々が安心できる居場所を簡単に失くしてはいけない。」というメッセージを作品に込めていたとするならば、別の取材者でそれは表現できないでしょうか。
例えば昔から街に住んでいる人の生活を覗いてみても良いと思うし、街から離れていった人のその後を追いかけてみても良い。移住してきた人に話を聞いてみるのも面白いかもしれない。伝えたいメッセージを軸に想像を拡げると色々な可能性が見えてきます。

大事なことは事象そのものではなく、それを通して伝えたいメッセージです。もちろんクライマックスが前提になりますが、もし魅力的な人物が別に見つかれば、思いきって主人公を変えるのもアリかもしれませんね。

そうして考えてみると、主人公選択はかなり大事な要素であることに気づきます。
キャラクターの葛藤や成長を追う手法(キャラクタードリブン)で制作している場合には、長期取材では取り返しがつかなくなるリスクがあるので慎重に。「あ、この人は思ったよりもテーマに対する熱量、思い入れが無いかもしれないぞ…」と少しでも思ったら、一度冷静に考えてみましょう。

その人はドキュメンタリーという長い旅を共に歩むパートナーとして、本当に相応しいでしょうか?

キャラクターを選ぶ際のチェックリスト

☑︎その分野の当事者である。
☑︎思い描く未来に向かって、自発的に動ける
☑︎トライアンドエラーを繰り返してでも続ける覚悟がある
☑︎常に行動が伴う
☑︎成長する伸びしろがある

私はカメラ撮影が好きで、「良い!」と思ったら、即撮影!という感じなので、これまで早とちりで失敗をしてきたわけで、その教訓をもとにチェックリストを作りました。ドキュメンタリーは2〜3ヶ月の長い旅路ですから、キャラクターが一緒に旅をするパートナーとして相応しいかどうか、少しくらい立ち止まってもいいかなと自分を制するもう一人の自分ができました。

主人公の選択はとても重要です。
どんなキャラクターが魅力的か知りたければ、この本がオススメですよ。

フィルムアート社は映像制作の参考になる面白い本がいっぱい。

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