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ビーチチェアとコロナ禍の3年間

 夕焼け空の雲が好きだ。
 特に冬の空は寒気が流入することにより気流が乱れやすく、複雑な形の雲ができやすいらしい。
線条雲とか特定の呼び方を覚えたはずだが、いつの間にか忘れてしまった。

 実家のマンションには細長いベランダがある。
昭和50年代後半の築造かつ最上階とあって夏はエアコンを効かせても冷えにくく、冬は窓辺から底冷えする冷気が足元へ流れ込む。
洗濯ものを干す以外に使い道の無いスペースだと思っていたが、外出自粛を強いられた時期から愛着を持つようになっていた。

 丸一日外へ出なくても平気なタチなので「ステイホームなんて余裕!」と豪語したのもつかの間、
1週間と3日程度でかなりストレスが溜まったらしく、動いてないのに強い眠気を感じたり、やたらイライラする時間が増えていたのだ。
親と一緒にウォーキングに出ても見慣れた地域は見どころがなく楽しくない。むしろ嫌々付き合っている感じを覚えてさらにイライラが増幅した。

 保健体育の授業だったか、wikipediaの日光浴の記事を読んだ影響か、無性に日光浴をしたくなったのでビーチチェアをねだって購入。これがまた丈夫で気持ち良い。
ナイロンの帆布は滑りにくく寝ころびやすい。
一番気にいったポイントは骨組みにコールマンの折り畳みテーブルを支える鋼材みたいな薄いラメがあったことだ。そして僕専用だった。

 白い雲が二つ重なりあいひとつに解けていく様子を眺めてうとうと過ごす。ビーチチェアに寝そべって、何度もそんな時間を過ごしている。夕暮れ時の寒さが体を包む頃、目覚めた身体に染み込んでいるのは乾いてしまった喉の感覚と徹夜して動画視聴した時より贅沢な時間を過ごしたという実感だった。

 「時間の手触り」を大切にすると言おうか。コロナ禍は僕の今までの生き方、考え方を180度方向転換する起爆剤になった。過去になったからこそ思えるが、僕の中ではあの時期を一概に悪かったと悔やむ気になれない。

  万事塞翁が馬。

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