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日用法学部#1 時効について「返さなくてもよくなる?」

初めまして、ロキといいます。
普段は法務事務所で仕事をしながら、資格の勉強や作曲、ボードゲーム、謎解き、マーダーミステリー等々…
嗜好に偏りのあるものの多趣味に生きています。

今回は日用法学部ということで、普段の生活の中で使える法律、知っていた方がいい法律をまとめていこうと思います。

#1は時効についてですが、言葉自体は聞いたことがある人が多いんじゃないかと思います。
犯罪がなくなったり、返さなくて良くなったり、法学の中ではいろんな時効があるので、その中でも普段使いできそうなものだけ書き上げていきます。
難しくなった時は飛ばしても大丈夫ですが、スキはしてください!笑

時効の種類

まずは時効の種類からです。
すごくおおまかに分けると民事上の時効と刑事上の時効があります。

  • 民事上の時効・・・ほとんどが民法で規定されていて生活に関わる権利義務を規定

  • 刑事上の時効・・・刑事訴訟法で規定されていて犯罪・起訴に関わる期間を規定

民法上の規定

まずは民事上の時効からです。
ここからさらに何種類かに分かれるのですが一番使えるであろう消滅時効からです。

消滅時効について

消滅時効とはその名の通り消えてなくなってしまう時効のこと。
要するに「貸したものを返して」という権利が消滅してしまう時効のことです。

「そういえば昔、お金貸していたよね?」
「子供の時の話?それって時効じゃない?」

「この前飲み屋で貸した4,000円返して」
「覚えてないけど時効でいい?」

こんな会話の中に出てくる時効は”消滅時効“のことです。
こんな会話だけで貸したお金が返ってこない、借りたお金を返さなくても良くなるものなのでしょうか?

民法の規定を見てみます。

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

民法第166条

法律の中では債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間とあります。
さっきの会話に当てはめると、
お金を貸した人がお金を返してと言えるのを知った時からということですが、学説上は返してと言った時、または相当期間経過後となっています。
返せるであろう期間が過ぎた時(事例によってさまざまだけど、飲み屋とかで財布を忘れたなら次に会う日とか次の給料日とかになりそう)から5年間が過ぎれば払う義務がなくなります。

なのでさっきの会話でなら「子供の時に借りた」とかなら時効が成立しそうな気がしますね!(実際は子供の契約なので別の論点になりますが…)

ただし時効ができなくなる場合もあります。
1.過去10年以内にその借金での債務名義がある
2.過去5年以内に債務承認をした

1については裁判等を起こされていないか、2については債務承認と言って借金があることを認めていないかどうか。
相手からすると裁判までしたのに時効で消滅するのは辛い…。
お金借りていることを認めていたから信頼したのにズルい。
といったお金を貸した側の権利を考えたものです。

逆にいえば権利があるにも関わらず数年間も放置した怠け者には権利はないよという考え方ですね!

これは銀行お金を借りたり、クレジットカードでの買い物料を払っていなかったり、携帯電話の料金を払っていなかったり、奨学金の返済を払わなかったり、給料を受け取らなかったり、株の配当金を受け取らなかったり。
とりあえずいろんな権利や義務はこの消滅時効によって消すことができます。

もし滞っている支払いがあるならお近くの弁護士、司法書士事務所に問い合わせれば調べていただけると思います。

またこの消滅時効は援用という行為をしないと使えないとされています。
「消滅時効を主張します!!」
と伝える行為を援用と言うのですが、法律の世界では録音でもしない限り口頭では証拠能力がないため郵便局の内容証明で送ったりします。
援用をしない限りは自動で消滅したりしないので注意が必要です。

最初の例に戻ると、
「そういえば昔、お金貸していたよね?」
「子供の時の話?時効だから消滅時効を主張します!」
ここまですれば支払い義務は消滅します。
(ついでに友情も消滅するかもしれませんが責任は取りません。)

いくつか例外を説明しましたが事情によってはまだまだあります。
契約時期によっては法改正前で10年とか5年とか3年とか1年とか決まっているものもあります。
期間が経ちそうな時に内容証明を送ることでその時から6ヶ月、期間が延びたりします。

詳しくは別の機会にまとめてお伝えします。

取得時効について

今度は時間が経てば自分のものになってしまう取得時効についてです。
さっきの消滅時効は基本的に「債権」、何かをしてもらう権利や義務、お金を払ってもらう権利や義務の話でしたが、取得時効では基本的には所有権、モノを持っている権利を取得する法律だと思っていただければ大丈夫です。

例えば、

「あれ?このカメラって僕の物じゃない?」
「えっ、昔からあるから自分のものだと思って使ってた…」

「その戸建ての建物、私たちのものなんですけど?」
「生まれた時から住んでるこの家、自分のものじゃなかったの…?」

こう言った時に使われるのが“取得時効”です。
土地とか建物となるとあんまり想像がつかないかもしれませんが、カメラとかゲームソフトとかならありえそうですよね。

それでは民法の規定を見ていきましょう。

1.20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2.10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

民法第162条

法律の中では20年間自分のものとして持ち続ければ所有権を取得するとなっている。
もともと他人のものだったものが自分のものに確定的になると言うことです。
条件さえ整えば土地でもマンションでも山でも自分のものにしてしまうことができます。
なかなか強力な効果ですけど、10年とか20年もかかるとなるとタイパはあんまり宜しくはないですね…。

それでは条件を簡単に見ていきます。
ちなみに法律の世界で条件のことを“要件”といいます。

1.所有の意思
2.平穏・公然
3.占有すること
4.(善意・無過失)


4の善意・無過失も達成すれば10年間でいいと言うことになります。
順番に見ていきましょう。

1の所有の意思ですが、自分で所有しているという前提が必要です。他の人から借りたものであれば所有の意思はなく他人所有のものを占有している、と言う状況になります。
昔借りたものをずっと借りパクしている、みたいなことならいつまで経ってもこの取得時効は成立しないことになります。
昔から借りてまだ返していないものに関しては返すようにしましょうね。
逆にいえば貸しているものに関しては返してもらうことができます。
小学校の時に通信ケーブルで貸したトゲピーのタマゴもまだ所有権は私にあると言うことになりそうです。
この点、さっき説明した消滅時効で返さなくてもいいんじゃ?っていう疑問が出てきそうです。
何かを持っているという所有権は消滅時効にかからない、と言われています。
所有権に関しては占有訴権や所有権に基づく返還請求で取り返すことができそうですね。

2の平穏・公然に関しては、何の争いもなく他の人に隠さないように、くらいの意味で大丈夫です。

3の占有していることですが、占有の方法は自主占有、他主占有のどっちでも大丈夫です。
自分が持っている、他の人に貸している、他の人から譲ってもらったけどまだ手に入っていない等々…。
とりあえず10年、20年途切れないように自分の所有としておくことが必要です。

4は手に入った時が善意・無過失であることです。
法律の世界では“善意”“無過失”という言葉をよく使います。
一般的に使う言葉としての“善意”と、法律上の“善意”は、全然意味が違います。
法律上の“善意”は「知らないこと」という意味で、今回であれば、他人のものだと知らずに手に入れたこと、が重要になります。
また無過失という要件もあるため、注意すれば他の人のものだと気づくことができた、という場合は、この無過失の部分がアウトになります。
善意・無過失、どちらもクリアしていれば、途中で他人のものだと気づいても10年間でいいことになります。

ただし実際には取得時効はそこまで使われることはありません。
例外として、即時取得という法律があって、これが成立すれば10年も20年も待たずに自分のものにできるからです。
即時取得についてはまた別の時にお話しします。

ここまでが民事上の簡単な時効のまとめでした。
民法以外の特別法については触れてはいませんのでご了承ください。

刑事上の規定

次は刑事上の時効をお話しします。
刑事上の時効も2つに分かれます。

公訴時効について

まずは公訴時効についてですが、簡単に説明すると起訴ができる期間ということになるます。
この期間が過ぎると起訴ができなくなるので、捕まることがないということですね。

「〇〇強盗事件の時効がもうすぐなんだって!」
「犯人が逃げ切ったら捕まらないのか…」

「この前復讐のために人を殺してしまったんだけど、いつまで逃げたらいいんだろう…」
「殺人の時も時効ってあるの?」

こういう場面で使う時効は“公訴時効”ということになります。
強盗や殺人をしても捕まらなくなるものなのでしょうか。

それでは法律を見てみましょう。

1.時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

一 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については35年
二 長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪については20年
三 前二号に掲げる罪以外の罪については10年


2.時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

一 死刑に当たる罪については25年
二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については15年
三 長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については10年
四 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については7年
五 長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については5年
六 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
七 拘留又は科料に当たる罪については1年

刑事訴訟法第250条

公訴時効は刑事訴訟法に載っています。
刑事訴訟法では逮捕をする手順とか、そのほか犯罪を取り締まるためにしないといけないこと、できることが載っています。

長い条文ですが、読めばそんなに難しくないかなと思います。

殺人罪などの最悪死刑になるような重たい罪の時は一生この公訴時効は成立しません。
なのでさっきあげた会話の例の2つめ「殺人の時も時効になる」かというのは、ならないというのが答えになります。

ただ人が死んでも死刑にならない罪もあります。
他人を殺す気がなかったのに軽く突き飛ばしたら、当たりどころが悪く死んでしまった…といったような「傷害致死」の場合は死刑になることはないため、時効になる可能性があります。

罪の重たさによって期間はバラバラです。
会話の例に出てた強盗の場合であれば、2の三になるので、10年間逃げ切ればそのあとその罪については捕まらなくなります。
(強盗の途中に人を殺めた強盗致死になると公訴時効はなくなりますが…)

捕まる時は基本的には“逮捕→起訴”という流れがあります。
公訴時効は起訴ができるタイムリミットなので、時効直前に逮捕をしても、起訴に至らなければ時効は完成してしまいます。

逮捕したものの証拠が集まらなく裁判に持ち込めない場合にそんな状況になります。

公訴時効のまとめは死刑にならない人を殺した罪じゃなければ数年から数十年で逮捕されても刑罰を受けなくなるタイムリミットが存在する、ということでした。

刑罰の消滅時効について

また起訴されたあと、刑罰を言い渡された後にも時効はあります。
刑罰を受けることが決まったがそれがなされる期間が長い“刑の消滅時効”という制度です。
この制度はあまり使われることはありません。

逮捕されて勾留されて起訴されて判決が言い渡されて、その判決通りの刑を受けずに逃げ出すか、刑務官から忘れ去られるか、天変地異で機能しなくなるか、そんな状況になるかと思います。

犯人を裁判所や拘置所に行かずに在宅で起訴される場合にごく稀にあるとのこと…

こちらの消滅時効もランクごとに分かれています。
無期懲役とか重たい罪なら30年、罰金とか勾留とか軽い刑罰なら1年から3年ほどになります。

この"刑の消滅時効"が適用されたよ!っていう人がいてたらコメントで教えてください!

告訴期間について

時効とは少し違うのですが、訴えられる期間が決まっているものもあります。

これは申告罪と呼ばれる罪に限られるのですが、被害者が受けた犯罪を被害届を出すような感じで起訴をするような場合、起訴せずに6ヶ月間過ぎた時は、その人から起訴をすることができなくなります

主な申告罪は、器物損壊や名誉毀損、親族相盗例というような身内の中で窃盗や詐欺がされた場合です。
こういう場合は被害者が訴える!と言わないと逮捕されることはありません。

親族相盗例なんかは家族の揉め事は家族内で話し合え、それでも問題があれば6ヶ月以内に起訴しろ、的なニュアンスです。

短いですが告訴期間の縛りもこれくらいかなと思います。

これで刑事上の時効をほとんどお伝えできたかなと思います。

まとめ

今回は日用法学なので生活で使えそうな法律を紹介していきました。

借りたお金を返さなくても良くなる
借りパクされたモノの所有権は時効にかからない
土地や建物でも淡々と自分のものとして使っていれば手に入れることができる等、
民事上は知っておいて損はないような法律でした。

これを読んでいただいている皆さんの中で一体何人くらいがこれを実行できるのでしょうか。

刑事上の公訴時効に関しては知っているだけで試してみようとは思わないようにお願いします。
もし試してみたとしてもこの記事のことは内密にお願いします(笑)。
逆に殺人罪は時効にかからないというよくわからない理由で、周りの人を犯罪者にしないように抑制をお願いします。

公訴時効の話でいうと、マーダーミステリー をしていると「そんな昔の事件、すでに公訴時効やろ…」って思うような話がいくつかあります(笑)。
もしそんなハンドアウトで密談の時に突っ込まれそうなら「公訴時効過ぎてますよね?」と言ってあげてください。

それではこんなところで#1は締めようかなと思います。
長い間読んでいただきありがとうございました。

次の記事までしばしお待ちを・・・

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