父の愛情便〜船便どんぶらこ
パンデミックに入り、ちょうど第一子が誕生したタイミングで父が頻繁に日本から荷物を送ってくれる様になりました。使うのは2〜3ヶ月の期間で届く船便です。飛行機という文明がある時代に、まさかの手段はあのジョン万次郎がアメリカを目指したものと一緒。
陸路&海上経由で大海原をまさしく、どんぶらこ、どんぶらこ。長い月日を掛けてやって来てくれるのです。
やっと届いた暁には、
「よう頑張ってくれたなぁ、お疲れ様…」と労いの言葉を掛けたくなります。
遠距離恋愛中の恋人に会えた様な気持ちでお出迎え。ちょっとくたびれた段ボールちゃんの姿をを見て様々なドラマに想いを馳せる。
もはやロマンさえ感じます。
これまでは、EMSという国際スピード郵便を利用して日本から私の住むアメリカ東海岸まで1週間前後で到着していたものが、このパンデミックで一切無期限停止になりました。
父からの船便は、この1年弱ですでに10箱近くになると思います。内訳は私用のひじき、切り干し大根、おかきを始めとする乾物類。そして半分以上を占めるメインの荷物は子ども服、フリーズドライの離乳食、日本語の絵本やアンパンマンを始めとする大量のおもちゃです。
父にとって今孫は何が好きか、成長度合いはどうかの情報を得ている手段が「みてね」の写真共有アプリです。直接対面はまだ果たせていませんが、普段のやり取りはこのアプリ経由が中心。
寝返り、ハイハイ、離乳食開始、つかまり立ち、日々の成長を見逃して欲しくない一心で毎日大量に撮影してはアップ、様子が更に分かるように詳細コメントをつけています。
そんなまだ会えぬ画面越しの孫の姿を毎朝毎晩確認して、コメントをくれる父。
「ええ顔して笑ってんな。保存版やな。」
「えらい気に入って食べてるな。また送るからな。」
「急いで立たんでええぞ、しっかりハイハイしいや。」
パソコンからとタブレットからの両方からログインでこんなコメントをしょっちゅう付けて成長を見守ってくれています。
私もその気持ちが嬉しく、荷物が届けばすぐ開封し、届いた服や食べ物を満喫している我が子の様子を報告するようにしています。
写真や動画はアップすれば、時差があってもあちらが寝ている時間なら、せいぜい起きてくる時間を待てばいいくらいです。ほとんどタイムリーなやり取りができて便利な時代になったなぁと感心です。
その一方で、船便は便利な時代に逆行して到着まで最短でも2ヶ月要します。最近では、飛行機の便自体がキャンセル続きで運行するのは限られた本数のみ。物流自体が船便に移行してきてキャパオーバーのため、荷物の到着がどんどん遅れてきています。
先日も日本の赤ちゃん煎餅を大層気に入ったので動画をアップすると、
「そんなに気に入ってくれたら嬉しいな、また送ったからな、待っときや。3ヶ月かかるからな、なんとかならんかな。」
父の孫を想う優しい気持ちが溢れるこのコメントに私は感極まって泣けました。
離乳食の賞味期限は意外と短く、我が子の身体の成長も著しいです。父からすると、たくさん送ってやりたいと思う気持ちの反面、荷物が到着する目処が立ちづらく、サイズや季節選びの調整が難しいと歯がゆい思いをしてくれています。
連絡自体はスマホ、パソコン経由で離れていてもすぐできるのに、荷物となると全く正反対です。3ヶ月後なんて季節が1つ変わるくらいです。
幸い、紛失された事は無く、一度箱が損傷していた事はあっても今の所無事に届けてもらえているので有り難い限りです。
船便が日本の陸路にある間は郵便局が追跡。長い月日を経てどんぶらこ〜と海の上を通り、アメリカに上陸した後はUSPSというこちらの郵便局管轄の追跡で到着の目処がわかります。
父は孫の写真と動画を楽しむと同時に荷物たちの追跡も欠かしません。
「荷物がワシントンDCに着いたぞ」
「今ニュージャージーまで来てるぞ」
朝私が起きると、いち早く更新された情報が父から届きます。
遠く離れた地に住む孫や子を想い、荷造りと発送後も毎日の荷物の追跡を欠かさない父。その父の愛情がたっぷり詰まった宝箱を待つ日々を堪能しています。
今もすでに2箱が海の上です。
今日も父の愛情便達が広い広い大海原のどこかをどんぶらこ、どんぶらこと、こちらを目指して向かってくれていると思います。
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