アル・カルアト・アル・ジャリード

イスパニア語では転訛してアルトラリドとよばれる。凍れる砦を意味する。

イスラム文化排斥の対象となり、破壊し尽くされて瓦礫と化した。

名のごとく、柱も壁も窓もくまなく白く、細密な石彫がほどこされていた。数ある内庭や歩廊には噴水や水路がおかれ、すずやかな水音と水紋の投影が絶えなかった。とりわけ讃えられたのは、さらに白一色のほかを排したシャジャルール・ドゥール宮の白の間だった。繊細な柱列が、樹氷の枝葉がからみあわさって凍った風情でつらなっていた。いまにもしたたるようなモカラベの漆喰の雪融けとサテンの薄氷が天井と壁面を蔽っていた。床の絨毯は芥子の白花と橄欖の銀葉をかたどっていた。

モーロの王アル・ヌールは一頭の雪豹をここで飼い、戦火がせまるとも、ウードを奏で、葡萄酒をのみ、イブン・サムラクの詩を吟じていたという。

中庭のひとつには、石の獅子が前足を揃えて寝そべる風情でおかれ、遠いウードの音にあわせてときおりうたっていたという。




スペイン、グラナダのアルハンブラ宮殿とセビーリャのアルカサルを素材とする。

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