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幻想博物誌

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架空地名、架空生物、架空事象、架空伝承についての創作事典です。
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#架空生物

月の僧侶の話

月の僧侶の話

ハリ・ハリ・アウァツァラティ(いたいのいたいのとんでいけ)

こうとなえると、地上でだれかの苦痛が生起されたとき、まろやかな真珠層の、ひかりの被膜がそれをくるんで、一りゅうの輝きがうみなされる。そしてしたたり、上天へ、月へとおちていく。

月上には水の記憶の海があり、その底には寺院がある。

雨滴のごとくふる真珠は、多くは到達することもなく、とけて漂いちってしまうのだが、ときに底に至り、月の寺院の

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シロワタドリ

シロワタドリノキの花の種子。全長十センチ程度の鳥のかたちになり、ポプラの種子に似た綿毛の羽で飛びたつ。クチバシはガクの変形であり、声はない。聴覚もない。銀色の眼紋はあるが視覚器官ではなく、視覚もない。たいへん軽く、全身がまっしろな柔毛に覆われている。着地すると動かなくなり、やがて湿り、綿毛を縮ませ、かたちをなくしてしまう。季節風に乗り、飛びたって一帯を白くそめる様子は春先の風物詩となっている。

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アオクイドリの話

アオクイドリという鳥がいた。青いものとあらばすべて喰らう鳥だ。細い嘴の奥からこれも細い舌をだしてするすると青色を吸う。花であろうと石であろうと虫であろうと、吸われたあとは水のように透きとおってしまう。アオクイドリは砂漠のヤギさながらに、ふたたび生いしげるためのささやかな残余をゆるすこともなく、地上も、地下も、空さえも根こそぎ貪った。かれらがふえるにつれこの色はひたひたとうしなわれていき、二百年もす

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シウィトトルの話

シウィトトルの話をしましょう。

アメリカ大陸東海岸、南東へと分かれのびたフロリダ半島から、さらに南へ下っていくと、海中にひとすじの隆起があります。
細い島々と、海面上に出るにはいたらない浅瀬がつづいています。フロリダキーズです。一帯は、豊穣なサンゴ礁であり、多種多様な生命でみちています。

ふたまた尾びれを金色の鋏のようにかがやかせるイエローテイルスナッパー。
まっかな地に黒水玉で装うカーディナ

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ワド・アズラト

アラビア語で青い川を意味する。

モロッコのリフ山系にある川。川床には青金石や藍銅鉱などの鉱石片がちらばり、空と水の区別がつかぬほどいっさいが青く見える。

一帯ではゆえしれず石の色がぬけることがしばしばあり、そうして透明になったものを鳥啖石とよび、アオイシクイドリの喰跡であるとする。

アオクイドリとアオイシクイドリの話

あるとき一匹のジンが、炎のようでもあり雪のようでもあるひとつの夢をもちき

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