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ひきこもり の つぶやき(抄)

2017年末、発行されたRadio Kosatenの定期ジャーナル『YABAI TSUNAGARI(ヤバいつながり)』に寄せた、ひきこもり体験について書いた2つの短い作品をうちの一つです。

ひきこもりの状態には、実は復路と往路の2フェーズがあって、同じひきこもりの状態でも向かう方向や心境が異なります。こちらの「ひきこもりのつぶやき(抄)」は復路、もう一つの「持ち寄りパーティ」は往路に対応しています。

「変なこと言っているなぁ」なんて笑いながら、気軽にご笑覧いただけたら幸いです(笑)。

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「ひきこもりへの誘い」

今、できないことは、
今はしなくていいこと。
今、できることをすればいい。

「できることが多いほどいい」
と思っていたけど、
できることが多いと、かえって迷う。
できることが少ないと、
迷う必要がないから楽だなぁ。

やりたいことをやればいい。
楽しいことを楽しめばいい。
だけど、したいことがないなら、
何もしなけりゃいい。

時間を埋めようと
やけになる必要もない。
時間は自然と充実したもので
満たされるから。

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「窮地」

窮地に陥るのは、
何もできなくなることで 
何もしないことを学ぶため。

何かできるようになろうと学ぶのは、
何もしないことを学ぶことの
妨げにしかならない。

争わず、抗わず、逆らわず、
逃げず、避けず、目をそらさず、
引き止めず、留めず、
導かず、誘わず、手を引かず、
促さず、後押しせず、
ただ、受け入れて、見送る、
ただ、観続けて、放っておく、

Be the outsider of your own.

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「心の極地」

心には絶対零度の極地がある。
そこは、どんな存在すらも認めない、
全ての存在が無になるところ。
そこに至ると、人は絶望的な虚無感、
この上ない虚しさに襲われる。
そこには、頼りにできるものは
なにもない。
「あぁ、かみさま!」も
「おかあさん!」も
虚しく響くだけ。
もう生きていたってなんの意味もない、
無意味な自分の存在に凍えてしまう。
絶望的な虚無。

凍てつくような極寒を通り越すと、
静けさが訪れる。
生物が存在しないところは、
美しかったりもする。
空の青と砂の白しかない砂漠、
硫化水素で真っ青に染まった透明な湖。
絶対零度の極地も、
何も存在しない、美しさがある。

だけど、誰もそこでは生きられない。
無常に移ろう存在の世界に戻ってくる。
そのとき、
はかなく生まれては
消えていくものたちが、
それまでよりいっそう
愛おしい存在に見えてくる。

そんな絶望的な虚無の境地。
一度きりどころか、
何度でも訪れることになるんだけど。

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「ブラックホール」

ブラックホールに飲み込まれるのが
怖くて、必死にあがいていた
結局力尽きて、
どうやっても逃れられないと観念し
引き寄せられるがままに身を委ねた

ところが、
ブラックホールでスウィング・バイ
光速に近づいて、
未来へタイムスリップ

母船にはもう戻れない
母船の連中にとっては、
俺は死んだもの
そんな俺は違う時代へ

心の中にもそんなブラックホールがある

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「つまらない、
 さびしい、
 むなしい時間」

笑いのない時間はつまらない
愛がない時間はさびしい
意味がない時間はむなしい

作り笑いは簡単だ
同じように愛も意味も
作り出すのも簡単だ

だけど、作り笑いもよく見れば
どこか不自然で引きつって見えるように
作り出した愛も こじつけた意味も
どこか不自然だ

不自然な作り笑いを続けていると
癖になった表情が顔を硬くするように
愛も意味も作り癖がつくと
体と心を硬くする

僕はそうやって、
心と体をがんじがらめにして
たどり着いたのは人生の袋小路だった

笑いのない時間はつまらない
愛がない時間はさびしい
意味がない時間はむなしい

そんな、
つまらない、さびしい、むなしい時間
から逃げるために
僕は作り笑いをし、愛を持ち、
意味付けをしてきた
もう僕は逃げも隠れもしない
そもそもそれから逃げることも
隠れることもできない

その場しのぎの
作り笑いも
愛情を持つことも
意味付けも
もうやめた

楽しければ自然と笑いがあがる
嬉しければ自然と笑みがこぼれる
愛おしいものに出会えば
自然と愛が湧き出る
奇跡を目の当たりにすれば
自然と意味を感じる

笑いのない時間はつまらない
愛がない時間はさびしい
意味がない時間はむなしい

だけど、笑いも愛も意味も
ただあることから自然と生まれてくる
だから、僕は、この、
つまらない、
さびしい、
むなしい時間を
ただひたすらあり続ける

「何をしようと」

何をしようとしまいと
誰といようといまいと
どこにいようといまいと
愛がなければ、同じこと

何をしようとしまいと
誰といようといまいと
どこにいようといまいと
愛があれば、同じこと

何をしようとしまいと
誰といようといまいと
どこにいようといまいと
結局、同じこと
違いは、愛があるか、ないかだけ

だけど、
愛があろうとなかろうと、
意味があろうとなかろうと、
同じこと
ぼくはただそこにいるだけ

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「存在すること」

泣きながら立っている
全身どろんこになるまで
夢中に遊んでいたら
おしっこするのもすっかり忘れて
またおもらしして泣いている

そんなばっちい、
どうしようもない小さい子

そのうち両脇を持ち上げられて
上から下まで服を脱がされ
すっぽんぽんにさせられる

頭も顔も手も足もお尻もお腹も
白いあわあわに包まれて
シャワーですっかり洗い流してもらう

温かい湯船にいれてもらったら
お湯がぬるくなるまで
おもちゃで遊ぶ

遊び疲れて うとうとしてたら
お風呂から引き上げられて
ふかふかのタオルにくるまれて
おてんとさまのにおいのする
服を着せてもらう

そのまま抱えられて布団まで運ばれる
そのときにはすでに胸の中に
顔をうずめて夢の国

あした、目が覚めたら
きょうのことを全部わすれて
また同じことを繰り返す

同じ失敗を繰り返すな、
なんて言われない
感謝せよ、恩返しせよ、
なんて言われない
努力して立派になれ、
なんて言われない
親孝行、社会貢献せよ、
なんて言われない
月末に請求書が送られてくることも
ない

ただ存在する、存在

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「対句」

三十六計 逃げるが勝ち
人生万事 負けるが勝ち

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履歴

2017/10/20 Radio Kosaten『YABAI TSUNAGARI(ヤバいつながり)』』寄稿
2018/07/03 星空文庫投稿
2020/02/12 Note投稿


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