同性愛 時々 異性愛 ~1話~

 人間は本気で驚くと指先まで硬直するのだ、と私はそんな知らなくてもいいような心が身体に及ぼす影響を、恋人からの『別れよう』というたった四文字で鮮明に痛感していた。上司に押し付けられた残業に苛立ちを募らせヒートアップしていた私の脳内は、そのメッセージで一気に氷点下まで温度が下がった。

『どうして?私、何かしたかな?』

 ここ最近の自分の行いを振り返り、私は適切な謝罪の言葉を探し回っていた。けれど思い出せる記憶というのはごくわずかで、それは一年も付き合っていればありふれた記憶たちであった。私が返信したメッセージにすぐに既読が付いたが、返信はなかなか返ってこなかった。私は居ても立っても居られず、進めなければいけない仕事があるにも関わらず迷うことなく帰宅の準備を始めた。
 私のポケットに入っているスマホがバイブレーションと共に音を立て、私はすぐさまスマホをポケットから取り出した。

『余命半年なの。』

  そんな文言がスマホのディスプレイに表示されていた。

( 余命? 余命って、あとどれくらい生きられるかのこと? それが半年?)

 頭が錯乱し私はしばらくスマホの画面をただじっと見つめていた。
  死という非現実的なものが自分の恋人には迫っているのだ、もっと先の未来だろうと思っていた時がこんなにも早く訪れるなんて。一定時間触らなかったことで暗くなった画面には、これまで見たこともない程の自分のあほ面が映し出された。

 私ははっとしてもう一度スマホを起こし『今から帰るから待っていて。』そう端的に返信し、荷物を持って走り出した。今日に限ってほどほどに高いヒールの靴を履いてきた自分に私は腹を立てつつも、必死に足を動かした。会社を出てすぐにタクシーを拾うと、私は自分の恋人の住所を運転手に告げた。

 運転手は50歳ぐらいの中年の男で、私の焦りなどは微塵も察知せずに呑気に返事をし、のろのろとタクシーを発進させた。その男の運転が著しく遅い気がしたがきっと気のせいだ、と私は自分に言い聞かせ湧き上がる激しい感情たちを必死に宥めていた。     

 しかし自分が貧乏ゆすりをしていることに気が付いたのは、恋人の住むマンションが見えて来た頃であった。
 恋人の住む部屋の合鍵は以前もらっていたため、呼び鈴を鳴らしても応答がないことを確認し私は合鍵を使って恋人の家に入った。

「莉子ー? お邪魔するよー」

 私は声をかけながら玄関で靴を脱ぎ、電気が付いているリビングへと向かった。リビングの扉を開けるとソファーの上で体育座りをしている恋人を見つけ、私は恋人の姿が見えたことにまずはほっと胸を撫でおろし近くに駆け寄った。

「大丈夫?」

 恋人の隣に腰かけ背中を摩ると、恋人はゆっくりと顔を上げて私を見た。意外にも恋人は涙を流してはいなかった。

「夏南。」

 私の名前を無表情で呼ぶ恋人のおかげで私は緊張をほぐし、恋人の髪を優しく撫でた。

「莉子って誰?」

 しかし突然私の恋人である莉子の口から発せられたそのセリフで、私はただならぬ異常を察知し始めた。私は恋人の名前を間違えたのか? と自分を疑ったがそんなわけはない。それに表情の暗さや言葉の色のなさは、いつもの莉子とはだいぶ異なっていた。

 自分自身の名前を忘れている恋人は記憶喪失なのかもしれないな、と錯乱している脳内を必死に落ち着かせ冷静に分析したふりをしたが、私の存在を忘れていないことからするによく聞く記憶喪失とは少し違うことが感じられた。

「浮気?」

 そう言って私を見上げる莉子。私はすぐに否定しけれど、私のその焦る様は浮気などの禁忌を犯す哀れで愚かな愚民とよく似ている気がして、そんなことは絶対にあってはならないと私は出てきそうになる言い訳がましい言葉をぐっと飲み込んだ。
 落ち着いて私は一回深呼吸をした。莉子の眼差しは変わらず鋭く、そして冷たい。

「貴方の名前は?」

 一年以上付き合っている恋人にこんなことを聞くタイミングがあるなんて私は思いもしなかった。莉子が今すぐにでも私の質問を鼻で笑って、莉子だよと言ってくれれば私はどれだけ救われるだろう。そんな望みも嵐の中に置かれた蝋燭の火のように儚く、莉子は一瞬たりとも口角をあげなかった。

「リンだよ。」

 いつもより恋人の声が耳の中を良く通り、頭の中に重い訛りのように蓄積する。
 

ーー誰だよ、リンって。

 莉子は無宗教だし他に名前なんてないはずだ。私は訪れる家を間違えたのか、と思ったが、目の前にいる恋人は確実に私の愛する恋人の姿形をしている。しかしいつもより目つきは鋭いし、不機嫌そうな雰囲気を醸し出していて、まるで違う人間が私の恋人に憑依したかのようだった。

 私は目の前に居る恋人にどんな言葉をかけてよいのかわからず言葉を詰まらせていた。そんな私を恋人は不満そうに睨んでいた。

「何?」

 私に威圧的な態度をとる莉子。これほどまでに喧嘩腰な莉子を見るのは初めてで、私は後退りしそうなほど彼女から異常な攻撃心を感じたのだ。

「い、いや。なんでもない。さっき言っていた余命の話って……?」

 私は名前を聞いたことで感じ始めた不穏な空気を払拭するため、話題を変えた。するとリンは伏し目がちに悲しみを目一杯演出していた。その胡散臭い演技で私はさらに、いつもとは違う彼女から放たれるオーラを感じた。

「私、余命があと半年なの」

 私の様子を上目づかいで伺いながら莉子は言った。同情を誘う魂胆が見え見えで私は目を細めると、自分の思うとおりの反応を示さなかった私が気に食わないのか、莉子は私から目線をそらした。軽く舌打ちも聞こえた気がした。

「別れよ」

 莉子はそう言って顎を上げ私を見下して言った。そのふてぶてしい態度で、私の思うとおりにならないのならお前なんて要らない、と莉子に言われた様な気がした。

「ちょっと待ってよ。」

 突然の話に私は動揺し莉子の腕を付かんだ。すると仕掛けた罠に獲物が引っ掛かったかの如く、莉子は口角を上げた。

「どうせ死ぬのよ? ならさっさと別れとほうがいいじゃない?」
「それは別れる理由にはならないよ。ダメ」

 シリアスな話であるはずなのに、莉子は私が必死に別れを拒む様子を見て愉快そうに眼を細め口角を上げていた。その顔は、まるでピエロだ。

「そう」

 莉子は私の腕を振り払った。私は莉子に起こっている現状が分からないながらも、莉子との関係を取り留めたことにつかの間の安堵を感じた。莉子は私から離れ台所に向かった。そして冷凍庫から棒アイスを取り出して、くわえた。体型を気にしているいつもの莉子は、普段この時間帯に何かを食べることなどない。

「り、リン、こんな時間に食べていいの?」

 リビングに戻ってきた莉子に対して私はそんな言葉を投げかけた。

「五月蠅い!!」

 するとリンは凄い剣幕で怒りを露わにした。今にも刃物を持って私に襲い掛かってきそうな勢いがあり、私はそんな見たことのない恋人の様子にただたじろいでいた。

「余命の少ない私に、なに偉そうに指図してんのよ!」

 余命の少ない、そのフレーズはまるで免罪符だ。莉子の過剰な言葉の攻撃は続いた。

「あんたはいいよね、これから先の長い人生、いくらでもアイス食べれるんだから!」

 そんなこと、言いがかりもいいところだ。自分の余命を盾に私に罵声を浴びせてくる莉子は、病気以前に性格がどうかしていた。穏やかで優しいいつもの莉子がいったいどうしてしまったのだろう、と私は酷く混乱した。私が何も言えずただ呆けていると急に莉子は座り込み、頭を押さえた。

「大丈夫?」

 私は慌てて莉子の元に駆け寄り背中を摩った。先ほどの余命の話が本当であればこの莉子の苛立ちも体には毒かもしれない。そんな心配をしていると

「あれ?」

 と急にトーンの高い声を出して莉子は顔を上げた。

「夏南、帰ってきてたんだ!」

 急に明るく笑顔な恋人が現れて私は自分の目を、そして耳、自分の脳まで疑った。ほんの一瞬でリンの性格は消え去り、いつもの莉子より若干明るく振舞う恋人が目の前に現れた。

「もう、こんな床にアイスなんて置かないでよ夏南」

 先ほど莉子が持っていたアイスがうずくまったせいで床に落ちていて、それを莉子は拾って言った。莉子は自分が先ほどまでアイスを食べ、私に苛立ちを募らせていたことをもう忘れていた。

「それを食べていたのは君だよ。」

 私がそういうと莉子はえ、と声を上げた。

「違うよ。私がいつもこの時間は何も食べないもの。夏南なら知っているでしょ?」

 莉子はアイスを袋に入れて冷凍庫に仕舞った。
 先ほどのまでのリンと明らかに性格が違うことはわかるが、いつもの莉子とも少し違う気がするこの恋人は、いったい誰なのだろうか。唖然とする私を不思議そうに見つめる恋人。いつもよりも目が大きく丸く開かれている。

「おなか減った? ご飯食べる?」

 私は頭を押さえてソファーに座り込んだ。莉子に何が起こっているのか少しも状況が掴めなかった。

「大丈夫?」

 いつもより甲高い恋人の声でより一層頭が痛む。私は重い頭を持ち上げて、きっと隣に座っているだろう恋人に目線を送った。
 私の隣で心配そうな表情を浮かべる恋人を赤の他人のように思えてしまうのは何故だろうか。見た目は私の恋人、莉子であるのに、私の心と体が全力で彼女は莉子ではないと拒否していた。

「落ちついて、答えて欲しい。」

 先ほどのリンの恐ろしさを思い出して私は前置きをした。例え女同士であろうと包丁を持ち出されては、敵うわけがない。

「うん。」

 私の言葉の意図が分からないようで恋人はただ頷いた。

「貴方の名前は?」

 どうか、今私が感じている違和感が気のせいであって欲しい。ゆっくりと開かれる恋人の口を凝視して私は返事を待っていた。

「マコだよ。忘れちゃったの?」

――嗚呼、やはりこの人は莉子ではなかった。

 その絶望感は、今まで生きてきた人生の中では類稀なる絶望であった。きっと莉子は病気なのだ。なにかの拍子に気が狂い、体の中に複数人の人格を産んでしまった。

「そうだったね。ごめんね。」

 察しの良い私は何も言うことなく恋人を抱きしめた。姿形は恋人のままであるのに人格は私の好きな恋人ではない。冷静に今起きている状況を理解しようとしても、その現実を否定する私が頭の中の思考をぐちゃぐちゃと乱していた。

 いつか聞いたことがある、多重人格という病気かもしれないなと私は恋人を胸元から離しながら思った。けれど姿形は元の恋人のままであるため、病気なんかではなく私の記憶違いなのではないか、なんて雑駁した考えまで脳内に浮かんでくる。けれど自分の肌で感じる違和感は悲しい程に正確で、やはり私の愛しい恋人は病気なのだ。その現実から逃げてはいけない。

「今日は仕事があるからまだ寝れないんだ。先に寝ていて。」

 私はマコにそう告げて自分の持ち帰った荷物の中からノートパソコンを取り出した。

「何時ごろに終わるの?」
「分からない。」

 パソコンを開いて仕事を始める私に、何度もマコは話しかけてくる。

「明日も仕事なんでしょう? 寝ないと体に毒だよ?」

 その言葉は、以前私が莉子に対して放った言葉だった。莉子は仕事熱心で向上心の塊のような女性だった。いつも男に負けたくないとひたむきに仕事に取組み、てきとうに仕事を済ませる私とは仕事への姿勢が全く異なっていた。最初私はそんな莉子の様子を馬鹿にしていたが、段々とそんなストイックな莉子の姿に惹かれていった。

 そんな莉子が失われて今私の横に恋人としているマコは、世間知らずで社会に出て働いたことがないような口調で話していた。

「そうだマコ。今度有給取れる?」

 私は出来るだけ早く莉子を病院に連れて行きたかったため、パソコンから目を逸らさずにそうマコに尋ねた。

「夏南、何言っているの?」

 マコは不思議そうに私を見ていた。

 私のパソコンを操作する手の動きがぴたりと止まる。

「私は夏南のお嫁さんで、専業主婦でしょ?」

 マコはただそう言って立ち上がって洗面所に向かったようだった。その背中を最後まで追えず、私は目元を抑えた。かすかな手の震えを顔で感じて、自分の心が上げている悲鳴をキーンとなる耳鳴りで感じ取った。

 以前私が莉子に、いつか結婚しようと言った時、莉子は私に出世して楽な暮らしをさせてあげると得意げに言っていた。どんなに失敗しても馬鹿にされてもくじけず頑張っていた莉子。そんな莉子を思い出し、私の目から涙がこぼれた。私が好きだった莉子は、今はいないんだ。そんな現実があまりにも苦しくて、私は今すぐにでも心臓を吐き出してしまいそうだった。

 どんな状況に陥っても私は莉子を愛し続けると思っていた。しかし人格が変わってしまった、ただそれだけのことで愛が揺らいでしまっている私は本当に莉子のことを愛していたと言えるのだろうか。

 程なくしてマコはリビングに帰ってきた。私は目元を抑えるのをやめて仕事に打ち込むふりをした。

「本当にまだ寝ない?」

 マコは私の隣に座って聞いた。

「うん。」

 私は出来るだけ平常心を装い返事をした。お前は誰なんだ、と発狂しそうな我を抑えてパソコンの画面を見続ける。

「そっか、無理しないでね。」

 そう告げるとマコは私の頬に一つキスをして寝室へと向かった。

 キスをされた頬が、叩かれたかのようにジンジンと熱く痛む。

 付き合ったばかりの頃、まだ恋が情熱的だった頃。頬のキスじゃ満足できないから、口にしてよ。莉子は私にそう言った。その言葉は私の中の情欲的な炎に油を注いだ。そして私は堪らなく、莉子を愛おしいと思った。性欲の行く末は愛情だと私は信じ、私は自分の最大級の愛情表現を莉子にした。

 あの時の幸福感は莉子も感じていたはずで、私たちは美しき情愛を共有し、ファンタジーの世界も劣る程幸せな私たちだけの世界を構築していた。けれどマコとなった莉子の中にはその記憶はない。軽い頬のキスで満足できるほど成熟した愛を持つマコは、やはり莉子ではないのだ。それは私にとっては悲しく、生きるのが耐えられなくなるほどの地獄だった。

 涙で画面が揺れて、仕事がちっともはかどらない。これから私はどうすればいいのだろう。姿形は変わらない莉子を内面が変わってしまったという理由だけで見捨ててしまったら、私は自分の罪深さに生き耐えることが出来るのだろうか。分からない、自分は莉子の恋人としてどのように行動するのが正解なのか。少しも分からない。もしかしたら明日目が覚めたら莉子が戻っているかもしれない。そんな一縷の望みを信じ私は必死に手を動かした。

 終わらせなければいけない仕事、働かない頭、意味が分からない現実、私の中に過る“別れ”という言葉。全てが壁になって私の四方八方を塞いでいる。身も心も全てが現実を受け入れず、足を動かそうとはしない。

 何とか仕事を終えて上司にデータを送る時にはもう早暁の頃であった。あと数時間で出勤する時刻になるし、なんだか脳みそが覚醒し少しも眠くないため睡眠をとる気にはならなかった。私はパソコンで『多重人格 都内 病院』と検索した。意外にも多くの病院がヒットしたため選ぶことに苦戦したがなるべく早く診てもらえる病院を見つけ予約を済ませた。

 油断すると壊れた涙腺から涙が零れてきそうで、愛おしい莉子を見たくて私はパソコンを閉じて莉子の眠る寝室へと向かった。

 私は莉子が寝ている寝室の扉をそうっと開けた。まだ莉子は寝ているらしく、私は莉子の寝ているベッドに腰を下ろした。すやすやと眠る莉子の寝顔はいつもの莉子の寝顔だった。私は莉子の頬に手を伸ばした。色白で肌質が柔らかい莉子の肌に触れることが私は好きだった。私が触れるとくすぐったそうに微笑む莉子も、くすぐりが一切効かない私に反撃しようと抱き着いて来る莉子も遠い過去の記憶のように感じられる。

 けれど気持ちよさそうに眠る莉子に表情を見て、私の中にある現実逃避な思考は霞み莉子を守りたいという本能が目覚め始めた。逃げたい、という微かな甘えも私の中にはあったが、それは莉子の恋人だというアイデンティティが、たった今無理やり封じ込めた。

 莉子が目覚めて、莉子ではない人格が現れても、私は冷静に莉子の隣に居なければいけない。なぜなら今の莉子に頼れる人間は私一人なのだ。私が莉子の助けにならなければ莉子は路頭に迷う。私がそばに居て支えてあげなければ。

 私の決意も知らず莉子は呑気に規則正しく寝息を立てている。目が覚めたらいつもの莉子であって欲しい、その思いを伝えるかのように私は莉子の額にそっと唇を当てた。私の鼻腔を通った香りは、初めて感じたときから変わっていない莉子の香りだった。私が触れたことで莉子は体をピクッ、と動かした。
 起こしてしまったかな?と私は莉子の顔を覗き込む。

 ゆっくりと開かれる莉子の瞳。どうか、いつもの莉子に戻っていてくれ。心拍数が早まるのを感じながら私は強く願い莉子の顔を見つめ続ける。莉子の第一声に私の全集中が集まる。第一声がいつものようにおはよう、ただその一言であって欲しいと私はじっと莉子を見た。

 しかし一向に莉子は言葉を発さない。私の眼差しに怯えるように眉を八の字にした。違う、今日も莉子は莉子じゃない。私は瞬時に察知して莉子から距離を取った。

「お名前は?」

 私は見られていることに耐えられないようで莉子は布団で口から鼻まで顔を隠した。

「メグ」

 かすかに聞こえる程度の声量で彼女は言った。リン、マコに続き今度はメグか。私は自分の額を抑えた。一体メグという人間はどんな人間だろう。昨日に比べて心の余裕が出来ていた私は慎重にメグという人間を分析しようとした。私に怯えた表情を見せつつも距離を取らないところからするに、私たちは何らかの関係性を持っているはずだった。

「私のことは分かる?」

 メグはゆっくり頷いた。

「夏南さんは、私を助けてくれた。」

 私のことをさん付けで呼ぶメグは、とても弱々しい人間だった。か細い声で私の質問に答え、私と目が合うことを恐れて私を直視できていない。

「私があなたを助けたの?」
「そうだよ、私がお父さんに殴られているところを助けてくれた。」

 メグの中の世界ではどうやら私は保護者の立場であった。挙動不審でありながらも私の隣にいるメグは私のことを信頼しているようだ。体重も莉子と変わらないはずなのにメグの頬は酷くやつれて見えた。

 メグの様子を可愛そうな子として見ていた私は次の瞬間、ハッとした。すっかり忘れていたが莉子も幼い時父親から虐待を受けていたのだ。

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