同性愛 時々 異性愛 ~12話~

 店を出てスマホを見ると莉子から連絡が来ていた。今の莉子の人格は知らないが、連絡を寄越すことから予想するにマコかリンだろう。

 千鳥足で私は莉子の家に向かった。莉子と初めて出会ったあの時、店を出た後すぐに莉子の家に向かい一夜を共にした。この道を二人で歩いた時の心臓の高鳴り、内容のない会話、少し触れ合った手の異様な熱さを思い出す。

 出会って間もない私たちには早すぎる展開にも、私は身を任せた。それは莉子も同じであった。警戒心と性欲が溶け合って織りなす空気は、お互いの鼓動を伝え合って歩き方まで忘れさせる。それでも平常心を装って莉子の隣にいることはリードする側の当然の立ち振る舞いであった。

 全てが懐かしいこの道を歩いていると、自然と目から涙がこぼれ落ちてくる。過去に縛られて莉子を求め続ける私は、莉子を失うくらいならもう一生苦しいままでいい気がしていた。せめて家に帰っているのが莉子であったら、どれだけ救われるだろうか。

 何故こんなにも莉子に執着しているのか、自分でも分からない。莉子と愛し合っていた日々が愛おしくて、また手に入れたいと願い続けてしまう。この世には何億人もの女がいるのに、まるで莉子以外女じゃないようだ。私の隣に居て欲しいのは何年先でも莉子なのだ。

 私は莉子の家の鍵を取り出してそうっと莉子の家に入った。時間帯が遅いので起こさないように、という私なりの気遣いをしたが千鳥足でろくに歩けない私は廊下で転び、私を寝ないで待っていた莉子がリビングから慌ててやって来る。

「夏南、大丈夫?」

――嗚呼、ダメだ。今日も莉子じゃない。

 第一声で気が付いてしまった私は床に頭を擦り付けた。今すぐにでも頭を床に打ち付け血だらけになり出血多量で死にたかった。

「どうしたの?お酒飲んできたの?」

 私の背中を撫でるマコ。私は立ち上がってその手を振り払った。

「五月蠅い、放っておいてよ!」

 こんな金切り声を私は莉子に対して浴びせたことはなかった。驚いてマコは顔をゆがめている。

「夏南変だよ? 何かあった?」

 懲りずに私に触れようとしてくるマコから私は距離をとった。

「触らないで、莉子じゃないくせに。」

 マコは今にも泣きそうな悲しげな表情を浮かべた。

「被害者面してんじゃねぇよ! とっとと莉子の体から出て行けよ!」

 酒のせいで理性を失った私は非道な言葉をマコに浴びせていた。最低な言動を発していることは、重々承知であった。しかし口の動きは止まらない。喉から抑えが聞かないほど言葉が溢れてくる。

 私の中で暴言を吐き続ける私とそんな私を冷静に見つめている私がいて、冷静な私は暴言を吐き続ける私を止めようとはしているけれど少しも効力はなかった。

「何言っているの?莉子ってだれ?」

 自分のことを何一つ知らない能天気なマコに私はさらに苛立ちを覚えた。いくら抑えようとしても沸いて来る怒りは今までこらえていたものたちであった。

「お前は莉子って言う人の体に急に現れた人格なの!」

 溢れる涙で呼吸が苦しかった。息を深く吸ってもこの怒りは収まるどころか憎しみに変わっていく。

「私が好きなのは莉子なの! お前じゃない!」

 マコの顔色がどんどん悪くなっていく。

「じゃあ、じゃあなんで今まで黙っていたの?」

 マコは自分の手の震えを抑えるかのように手を重ねて自分の胸元に置いて言った。私は上がる息を整え冷静さを取り戻すためにうつむいた。私しはようやく理性が働きを取り戻し始め、後悔が渦を巻いて生まれた。

「ねぇ夏南。ちゃんと教えてよ。」
「ちょっと黙って。」

 私は立つ気力を失って床に座った。額を抑えて目をつぶった。マコは私の目の前にかがんで私の顔を覗き込んだ。

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