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タッグを組んで物流の新ステージへ #03【日本郵便株式会社 上田 貴之】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスにフォーカスしていきます。前回に引き続き、日本郵便株式会社で郵便・物流事業統括部の担当部長を務める上田貴之さんにインタビューしました。#03では、「未来の郵便の在り方」についてお話いただきました。

<プロフィール>


"競争"から"共創"へ

物流業界の未来はどうなるか、上田さんのお考えをお聞かせください。

私個人としては、業界全体を俯瞰して見ながら、最適な方法で事業を成長させていきたいと考えています。もちろん私たちが高いシェアを確保し、事業収益を確保していくことができるのならそれがベストです。しかし、業界全体のマーケットが収縮していくと、結果的に事業の成長は期待できません。

よってこれから先は、「競争」から「共創」。企業と利害関係者が協働しながら新しい価値を創造していく仕組みへと、徐々にシフトしていかなくてはならないと考えます。施策によって課題は多数あると思いますが、地域や事業のため、そして日本のためになる取り組みが結果的に最適解になるのではないかと考えます。

― 「共創」には、現在取り組まれているモビリティの取り組みも含まれるのでしょうか。

もちろんです。私たちはドローンや配送ロボットをはじめとした次世代モビリティの活用法を日々検討しているわけですが、こちらも、現在従業員が関わっている仕事を全て置き換えるというわけでは決してありません。人間の生産性を高めて継続性を保つ「共創」「協業」へと深めていきたいと考えています。

― 2023年度にはヤマトホールディングスとの提携をスタートさせました。一部メディアでは“歴史的な提携”とも表現される、まさしく「共創」を代表するプロジェクトかと思いますが、いかがでしょうか。

かつて日本郵便とヤマトホールディングスは競合関係にあったといわれる仲ですが、2023年からはヤマト運輸が引き受けたメール便や薄型荷物を、郵便局がお客様の郵便受けに投函して配達するという取り組みを始めています。これは互いに「部分最適」を目指すのではなく「日本の全体最適」を目指すために始めた取り組みで、物流全体の効率化につなげることを目的としたもの。

両者の経営資源を有効活用することで、お客様の利便性アップや輸送サービスの向上、ひいては両者の事業成長が図れます。また、2024年問題や環境問題など物流業界が抱える社会課題の解決にも繋げられるのではないかと考えています。

― 「共創」を意識する背景には、何がありますか。
 
これは個人的な考えになりますが、やはりこの先の日本の人口減少が大きく影響しています。国交省が発表している宅配貨物数は、長年に渡って右肩上がりを維持しており、毎年数パーセントの成長を続けてきました。しかしながら人口減少の影響を受けると、そのままの成長ペースが維持されるとは到底思えません。この状況は他国でも同様で、人口が少なくなると荷物も少なくなるというのは抗えないことです。人口減少が明確になる中、「部分最適」つまり「自分たちさえ良ければいい」という考えを求め続けるのは難しいのではないかと思っています。

インタビューの様子

100年先を見据えて自問自答する

現状の郵便物流において、上田さんが懸念していることは何ですか。

今行われている個別の宅配ネットワークは、実は日本特有のものです。私たちのような郵便物流は「ハブハンドスポーク型」と呼ばれ、大規模拠点(ハブ)に郵便物を集中させ、そこから各拠点(スポーク)に分散させる輸送方式をとっています。長年に渡り継承されてきた方法ではありますが、これから先100年続く企業であることを考えた時「ハブアンドスポーク型が果たして正解なネットワークなのか」は自問自答し続ける必要があると考えます。決して、抜本的に大きく変更が必要と考えているわけではありません。しかしこれから先は少しずつ「ハブハンドスポーク型」から新たな形態に変わっていくのではないだろうかと考えています。

例えばどのように変化していくとお考えですか。

フードデリバリーの事業者やタクシーなど、食事やお客様を運んでいる事業者が荷物を扱い始めるといった面では、少しずつですが既に兆しが出てきています。そこに対応していくためには、私たちとしても新しいネットワークを考えつつ、100年あるいは200年先を見据えて事業形態を変えて順応していかなければなりません。現状維持を続けていては、将来的に人手不足の壁に直面するだろうと常々思っています。

― 物流業界として広く見た時、特に恐れていることは何でしょうか。

Amazonの「フルフィルメント」のように、受注から梱包、在庫管理、発送、受け渡し、代金回収まで一連の業務を全て行うといったネットワークが今後も拡大し続けることには危機感を覚えています。現状、日本の配送センターの形態は2つに大別され、「スルー型(複数の仕入れ先から納品された商品を、お客様別・方面別に仕分けしてトラックに積み替える機能を持った倉庫のこと)」、もしくは「PC型(プロセスセンターの略で、最終納品先の希望に合わせて加工・梱包を行う物流センターのこと)」です。

今後、荷物の数量が減っていくことが見込まれる中、前述した配送センターの形態や「フルフィルメント」のような仕組みを拡大していくことが、果たして全体の最適解になるといえるのか。この部分については日本郵便としてではなく、日本のネットワークとして“あるべき姿”を追い求めたいと考えるべきだと思います。

インタビューの様子

時代の変化こそが"オモシロイ"

物流業界では今、『2024年問題』が取り沙汰されていますが、今後、日本郵便ではどのような取り組みに注力していきますか。
 
私たちがいま特に力を入れているのが、「ラストワンマイル」に向けた施策です。ラストワンマイルとは、最寄りの配送センターから個人宅に届ける最終工程のことで、物流ビジネスの自動化において最も難度が高いとされている領域です。既に「自動ルーティング」と呼ばれる配送経路の最適化や、ドローンと配送ロボットを連携させた「ドローン配送ロボット」の活用を進めていますが、いずれも中長期的な取り組みを意識しています。

物流業界を目指す若者へ、メッセージをお願いします。

どの時代にも、物流あるいはロジスティクスという考え方は存在していて、これから先もなくなるということは決してないと思っています。ただ、アプローチ方法は時代ごとに変化していて、私が経験した部分だけでも大きな変化が各所で起きました。ひとつのシーンとして切り取ると大変なこともありますが、物流や郵便物流事業を通して時代の変化を間近で見届けられるのは非常に面白いことです。

例えばドローンについても、数年前まで「ドローン」という単語さえ世に浸透していませんでしたが、いまや各方面での実用化が目前に迫っています。これは産官学で密接に連携をとり、日本の将来や産業の発展について真剣に考えながら「空の産業革命」の実現を目指してきた関係者の賜物でしょう。みなさんにはぜひ、目まぐるしく動き回る社会の変化を経験しながら、物流業界を一緒に楽しめたら嬉しいです。日本の物流の仕組みは非常に優秀で、世界的に高く評価されています。私はその誇るべき仕組みをもっと多くの人、さらには海外にも広く知ってもらいたいと思っており、これから個人的にも発信をしていきたいと考えています。
 

― 「変わらずに続けていくこと」と「時代に合わせて変えていくこと」、双方のバランスをうまく見極めていくセンスが非常に重要だと感じました。上田さん、貴重なお話をありがとうございました。


<取材・編集:ロジ人編集部>


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