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物流業界の「悪しき当たり前」を解消へと導く #02【株式会社日東物流 菅原 拓也】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスにフォーカスしていきます。前回に引き続き、株式会社日東物流で代表を務める菅原拓也さんにインタビューしました。#02では、「少年時代から抱いていた物流業界の違和感」についてお話いただきました。

<プロフィール>

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▼ 株式会社日東物流 代表取締役 菅原拓也氏
1981年生まれ。千葉県出身。青山学院大学卒業後、西濃運輸、国分ロジスティクスの2社を経て2008年に株式会社日東物流へ入社。入社2ヵ月後、同社のトラックで発生した大事故をきっかけに「コンプライアンス改善の推進」を決意。コンプライアンスや労働環境改善に努める。2017年に2代目代表取締役に就任。


うちの父は"普通じゃない"の?

― 菅原さんは2代目社長として日東物流をけん引されていますが、ロジスティクスに触れた最初の記憶はどのようなものでしょうか。

まだ私が幼い頃、父親がトラックに積み込みをしている時、助手席にひとり座って待っていて、知り合いのドライバーさんが来るとお小遣いをもらったり、ジュースを買ってもらったり。みなさんにチヤホヤしてもらっていたことが一番古い記憶です(笑)

― 幼いころから自然と、運送の現場に足を運んでいたのですね。

そうですね。当時は、父がまだ法人化をしていなかった時期で、父自ら夜間に築地市場から千葉・成田の卸売市場に魚を配送する仕事をしていたんです。父は夕方に家を出て朝帰ってくるような生活スタイル。なかなか父と会うことがなく、たまに現場に連れて行ってもらいました。

― 当時はまだコンプライアンスも確立されておらず、業界の働き方も大変だったことと思います。子どもの視点から、気づいたことはありましたか。

よく覚えているのが小学一年生の頃の気づきです。学校で『お父さんの仕事』について書く作文の宿題が出されたのですが、『学校へ行く時間に父は帰宅して寝て、学校から自宅へ帰ると父はもう仕事に行っている。夜中に仕事をしているからなかなか会えない」という内容を書いたんですね。そうしたら学校の先生から、「昼と夜が逆でしょ」と指摘を受けたのです。「お父さんは朝仕事に行って、夜家に帰ってくるものだ」と。そのとき初めて「あぁ、うちのお父さんは普通のお父さんとは違うんだ」ということを強く感じました。コンプライアンスにまでは当然意識は及んでいませんが、自分のお父さんは一般的なお父さんとは違う働き方をしているんだ…と、学校から帰宅して母親に報告した記憶があります。後から聞いた話では、このエピソードを聞いた父親は「そんな思いをさせていたんだ」とすごく悲しんでいたそうです。

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社会人になって知った「これって変だよ、物流業界」

― 学生時代はどのようなことをしていましたか。

学生時代に物流に関して何かをしていたということは、特段ありません。しいて言うならば、「本当にいろいろな経験をしてきた」ということです。勉強をすごくしてきたわけではありませんが、いろいろなアルバイトを経験し、いろいろな遊びを楽しみ、いろいろな人とお付き合いをした。そういう経験が、人生に大きく響いているのではないかと思っています。

― 具体的に、どのように活かされたのでしょうか。

たくさんの経験を通じて出会った、まったく違う業界で働く友人との会話で、物流業界の立ち位置やおかしなところに気づくことができました。例えば、仕事中にトラックが事故を起こした場合、修理代金をドライバーが負担しなくてはいけないこと。また、仕事中に荷物を誤配送してしまった場合、一連の手続きにかかる費用をドライバーが負担しなくてはいけないこと。

サービス残業についても同様です。20時や21時まで外で仕事をしていても、事務所に預けてあるタイムカードは18時に切られてしまう。これらは物流業界ではよく耳にする話です。それでも他業界の人からすると、「仕事中のことをなぜ個人が負担しなくてはならないのか」「おかしい」という反応が返ってきます。

おかしいことでも働き続けることで当たり前と感じてしまったり、やむを得ないことだと自分自身を納得させてしまったりすることがよくあると思います。ただ、私の場合は違う業界で働く友人に内情を話して驚かれた経験から、物流業界の特殊性に気付き、やはり変えていかなくては!と思うようになりました。
 

学生時代から経験を積み、さまざまな分野の人とつながりを持つことで、問題点を改めて見直すことができたのですね。

自分が置かれたポジションの「良い部分」「おかしい部分」を明確に理解するためにも、いろいろな業種の人と会話するのはとても大切なことだと思います。社会には様々な産業、業界が存在しますが、「悪しき部分が改善された業界」と「改善がなかなか進まない業界」とで、ものすごく差が開いていると感じます。物流業界は間違いなく後者で、いまだに長時間労働をしていても「仕方ない」と思われています。ただ、できることから少しずつ、ひとつずつでも改善していかなくてはなりません。そうでないと物流業界で働こうという人がいつか必ず、いなくなってしまいますから。

物流業界の壁

― 菅原さんは現状の物流業界に、どのような危機感を抱いていますか。

どんどん良い人材がいなくなり、物流が滞ってしまう可能性が高いと思っています。メディアでは「2024年問題」が大々的に報じられていますが、2030年までに、これまで運んできたモノの30%が運べなくなってしまうと言われています。

日本の人口や労働人口が減少しているのは周知のことであるものの、それ以上に問題なのは、ここ30年ほど物流業界が続けてきた悪しき商習慣のせいで、働く人たちの給料や労働環境が悪化してしまったこと。職としての魅力が希薄になり、担い手が少なくなっているのです。そのため、今後物流業界として労働環境の改善と魅力発信を同時に行い、「物流業界で働くのは素晴らしい!」というイメージを持っていただく必要があると思っています。

― 労働環境の改善において、まずできることは何だとお考えですか。

輸送に関連する料金を引き上げることです。これを企業単位で実現するのは難しいため、公正取引委員会や中小企業庁など、国の機関がさまざまな手段で料金の値上げが成立するように働きかけてくれています。料金が引き上がると働く人たちの待遇が良くなり、それによって国内の物流サービスが今までと同様に、滞りなく展開されます。日本国内には、世界から見てもかなり優れた物流網が発達しています。しかし業界の問題を解決できないと、物流の仕組みが成立しなくなってしまうのです。
 

日東物流としては、どのような取り組みをしていますか。

「コンプライアンス経営」や「健康経営」のように、物流のイメージとは真逆の世界を体現し、それでいてしっかりと利益を上げることで、ドライバーや働く人に還元できるようなロールモデルを作り上げています。私たち運送会社は、配送に関して特別なスキルや技術、配送網を持っているわけではありません。他社と差別化できる部分は、ほとんどないのです。だからこそ、私たちの会社でできることは他社でも同じようにできると思っています。これはつまり、やり方や考え方ひとつで業界全体の働きやすさを上げられるということを示唆しているのです。そうした小さな行動の連鎖が物流業界全体のイメージや働きやすさの向上につながり、結果として人材の流入をもたらすのではないかと考えています。

社員の方々が会話されている様子

― 業界内の“違和感”を、野放しにせず真摯に向き合ってきた菅原さん。次回は、独自の目線で切り開く物流業界の未来についてお聞かせいただきます。


<取材・編集:ロジ人編集部>


次回の"2024年問題はすぐそこに。 #03"は 4/26(金)公開予定です、お楽しみに!

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