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物流業界の未来予想図と若者へのメッセージ #03 【株式会社ライナロジクス代表取締役 朴成浩】

ロジ人では、物流テック業界の著名人やサービスについての取材記事を次々に発信。今回は株式会社ライナロジクス代表取締役の朴成浩さんにインタビューしました。物流業界の課題解決にAIを活かしたソリューションを提供してきた背景とこれからについて、3回に分けて記事を掲載します。#03では、朴さんが考える物流の未来や今後の取り組み、若者に向けたメッセージなどの話題をお聞きしたいと思います。

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<プロフィール>

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▼株式会社ライナロジクス 代表取締役 朴成浩氏
東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、米国の数理計画ソフトウェアメーカーの日本支店創設に参画。組み合わせ最適化の専門家として大手エネルギー企業やメーカーのロジスティクス最適化プロジェクトを推進したのち、ライナロジクスを創業し、現職。2003年4月より東京海洋大学講師、法政大学講師を歴任し、科学的な視座でロジスティクスの課題解決にアプローチできる人材の育成にも尽力している。

「2024年問題」はチャンスでもある

- 物流業界における2024年問題について、どのような課題意識をお持ちですか。

物流・運送業界ってすごく特殊な業界で、まさに今までの清算が迫られてるような雰囲気はあります。我々にとってもシンボリックであり、大きなテーマです。特に労働時間の課題は、2024年問題の全てではないけれども、各社で事業継続が危ぶまれるほど深刻な問題であると受け止めています。

それに対して、どう対処すればいいかという現場に我々の出番があると思っていて。今まで物流業界は、労働時間ひとつ取っても「走ってみたらわかる」という実績重視のスタンスでした。いざ走ってみたらドライバーに残業が必要になってしまった、CO2を多く排出してしまった、という流れで問題が顕在化してきています。デジタコ(デジタルタコグラフ:自動車運転時の速度・走行時間・走行距離などの情報をメモリーカード等に記録するデジタル式の運行記録計)のデータや運行を集計するシステムはありますが、そうしたデジタルソリューションを使っているのに、その全てが走った後に分かるものばかりなんです。でもこれからの時代、それでは対処できません。

- 労働時間など、物流業界特有の課題に対するソリューションはありますか。

走る前に、いかに綿密な計画を立てられるかが重要になってきます。既存のコースでこれだけの荷物を届けたら、残業時間がすごいことになってしまうと分かりきっている場合があります。無駄な仕事が多くなる場合もあります。

これらは実際に配送する前に、しっかりとデジタルで計画を管理していれば食い止めることができるはずですよね。我々のソリューションは、AIの力を借りながらデジタルで事前に計画をつくって、適切な運行ができるのかどうかを判断するもの。少ない手間でそういった計画を作ることが当たり前な世界にしていくことを実現したいです。厳密に管理するためには、ある程度デジタルソリューションに移行せざるを得ないとも考えています。

コンピューターで上手いこと計画を立てるっていうところは、もはやおまけです。走る前に何が起こるかを管理するための手段でしかない。計画を立てるのは人間でも構わないけれど、AIを使ったらもっと楽にできますよ、と紹介できるのが我々です。2024年問題を解決するため、役に立てる部分だと思っています。

- 2024年問題はある意味、業界全体の問題にもつながっているということでしょうか。

我々の力で、物流業界を変えるチャンスであると思っています。例えばドライバーの労働時間。今まで長時間労働でもOKとされていた理由は、一度トラックに乗って出発したら届けるまで仕事を中断できない仕事の性質上、定時が設定しにくかったからです。

デジタルソリューションがない時代は、確かにそうかもしれない。でも今は我々のシステムを入れれば、業務の指示を出す時点でかかる時間が分かります。今まで実績ベースでやってきた物流業界で、計画をしっかり立てましょう、という考え方を浸透させたいです。AIの分析をひとつの共通言語として、荷主と配送業者が話せるようになればいいと思っています。

インタビューの様子

主役はAIではなく現場の人間

- 御社の将来のビジョンについて教えてください。

人間の意思決定に関わる問題を学生時代から解き続けてきて、最初は「人間が働かなくてもいい世の中が来るんじゃないか」と思っていました。でも今は、働いてみて「人間には適度な仕事が必要だ」と考え方が変わりました。社会を支えている主役は、やっぱり働く人たちですから。その人たちがよい仕事をできるようになることが理想です。だからこそ、我々のソリューションも人間の仕事を無くすことではなくて、もっと働きやすくするための提案を続けています。

ロジスティクスは労働集約的な産業分野で、ITの恩恵にあずかれてない業界のひとつでもあります。でも、物流が社会で果たしている役割は非常に大きい。コンビニでの買い物、新鮮な刺身、海外のステーキが当たり前の日常は、ロジスティクスによって支えられています。コンピューターの力を当たり前のように借りて、人間がよりよい仕事をできるようになることが大切だと思うんです。

例えば、AIがポンと出した配車の案をそのまま活用してもいいし、参考にしながら自分で考えてもいい。担当者がゼロから考えるよりはずいぶん楽になるはずです。今はまだできていないのですが、そうした業務改善をゲーム感覚で行えるよう、ビジュアルで改善点が明確に実感できる仕掛けを作れたらいいなと考えています。最終的には、ツールを使うと自分の仕事が良くなるしストレスも減るし楽しくなる、人に自慢したくなる、といったサービスを目指していきたいと思いますね。

- 御社が提供する価値に密接に関わっている「メタヒューリスティクス」について教えてください。

コンピューターが解決する課題には、「手順がわからない」ものが少なくありません。その中でも、結果について「評価の数値化が難しい」ものにはディープラーニング、「評価が数値化できる」ものには組み合わせ最適化のアプローチを選ぶことが多いです。

ヒューリスティクスという言葉を噛み砕くと、「理由はよくわからないが、経験的によい結果が出るということが知られている手法」といえます。これをあらゆる課題において汎用的に作り出せるようにする枠組みをメタヒューリスティクスといいます。

例えば、良い配送計画を作ろうとするとき、100人の素人に1人1個ずつ考えてもらって100通りの適当な計画を作ってみるわけです。で、それらの計画を距離や時間などでひとまず数値的な評価はできますね。それで、全体の中でも評価が良かった上位10個についてピックアップすると、なかなか見所があるので、これらをうまく組み合わせるともっと良い計画が生まれるかもしれません。このように異なる計画を組み合わせて次々とさらに良い、新しい計画を生み出していく「遺伝的アルゴリズム」という概念も、メタヒューリスティクスの考え方のひとつです。

若者へのメッセージ

- これから新社会人となる学生・若者へのメッセージをお願いします。

ちょうど今年4月に新卒採用の第1号が入社しました。娘も同じ年頃です。なので同年代の方に言葉を贈るとしたら、「ビビらなくて大丈夫だ」と言わせてください。とても意欲的で、社会に対して何か自分がやりたい気持ちを持っている人もいると思います。その想いだけで大丈夫、あなたならやれるということを言いたいですね。

社会や会社なんてちょろいとまでは言わないけど、臆せずに自分の力を発揮してほしいです。せっかく社会で自分の力を振るう場を得られるので、ある意味人生の本番が始まります。自分が学生のときにこう言われたら、全く共感できないなって思ってしまう気もしますが、今まで苦しい練習のようなものをいっぱいしてきたけど、ようやく新たな晴れ舞台。ぜひ楽しんでください、という気持ちです。

ー お話いただきありがとうございました!

ロジ人編集部小早川さんと朴さん

<取材・編集:ロジ人編集部>


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