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労働集約型のロジスティクスこそ、ITの力で変わる #02 【株式会社ライナロジクス代表取締役 朴成浩】

ロジ人では、物流テック業界の著名人やサービスについての取材記事を次々に発信。今回は株式会社ライナロジクス代表取締役の朴成浩さんにインタビューしました。物流業界の課題解決にAIを活かしたソリューションを提供してきた背景とこれからについて、3回に分けて記事を掲載します。#02では、労働集約的なビジネスモデルが当たり前の物流業界で同社が提供する、新たな価値についてお聞きします。

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▼株式会社ライナロジクス 代表取締役 朴成浩氏
東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、米国の数理計画ソフトウェアメーカーの日本支店創設に参画。組み合わせ最適化の専門家として大手エネルギー企業やメーカーのロジスティクス最適化プロジェクトを推進したのち、ライナロジクスを創業し、現職。2003年4月より東京海洋大学講師、法政大学講師を歴任し、科学的な視座でロジスティクスの課題解決にアプローチできる人材の育成にも尽力している。

日本の物流の課題解決のため起業

- アメリカのベンチャーに約1年半ジョインした後、ご自身で起業しようと思ったのはなぜだったのでしょうか。

根底には日本のロジスティクスの分野で課題解決したいという想いがありましたが、1年半ほど働いてみて「自分にもできそうだ」と思ったのが大きいです。ビジネスの流れは、最初にお客さんを見つけて、そちらに営業をかけて、契約をしていただき、製品・サービスを提供、運用に乗せて請求書を送るといったもの。その様子を間近で見て、こうした繰り返しが企業活動を支えているということを学びました。なので、起業するときもあまりハードルが高いとは思わなかったです。とはいえ、始めてみると一番難しいのはお客様を見つける事だということに気付くのですが。

- 起業後に特に苦労したことはありましたか。

有り難いことに都度都度、様々なご縁に恵まれたおかげで実はあまり無いのです。財務的な面で危機を感じたのは2008年のリーマンショック後くらいでしょうか。あのときの1年間くらいは、日本の経済が本当にピタッと止まったような感じになりましたね。「これからどうなるんだ」ということは少し思いました。

- 社員の方々に対して、代表としてどのような心構えで接していますか。

弊社には、非常に素晴らしい方々が集まってくださっています。社員の生活が私の肩にかかっているとか、代表が従業員を支えているとか、そういった感覚はありません。仮にみんなにお給料が払えない事態になったとして、誰かが路頭に迷うかと言われると考えにくいです。そのくらい、どこでも通用する人たちが集まってくれていると自負しています。なので、私は全員がそれぞれの力を発揮できるようにしようということだけに努めています。

物流業界の課題をAIで変えるビジネスモデルとは

- 御社の事業内容について教えてください。

物流業界における「AIの民主化」、すなわちコンピューターでさまざまな意思決定や判断をする手助けをしています。ロジスティクスはAIの活用やDXが進んでいない部分が多い業界。特に、配送計画を決める際、ベテランの方が勘と経験で考えている現場が依然として少なくありません。

例えばコンピュータを活用することで、配送計画を属人化された業務としてではなく、誰でも優れた判断を行えるフローとして組み込むことができるように提案しています。

- 現場の課題をどのように解決しているか、具体例を教えてください。

我々の提案は基本はシンプルです。車両台数を減らしたい、配車業務が属人化してしまっている、というように課題が明確な場合は、自動配車システムがどのように課題解決に役立つのかお客様と話し合って導入計画作りを支援していきます。ただ、実際は課題が明確でなかったり、整理されていない現場もたくさんあるんですよね。そうした場合は丁寧にヒアリングを行って漠然とした問題を個々の課題に落とし込んでいきます。その結果、配車に留まらない全体的なソリューション提案を行うこともありますね。

- ソリューションの提案とはどういったものでしょうか。

例えば、ベテランがいないと回らない現場があったとしましょう。その原因が、配送先の情報がその人の頭にしか入っていないことであるなら、配送先情報をカルテ化して日々の業務で無理なく更新していく仕組みをソリューションとして提案します。我々のソリューションを使ってもらうというよりは、お客様の課題を可視化して、本当に課題解決したいことに対してどういう道筋でクリアしていけばいいのかといった価値を提供していくようにしていますね。

インタビューの様子

チャレンジングな課題が生まれ続ける物流業界

- 課題解決のための提案の難しさは、どこにありますか。

やはり、配車組みの難しさは、特定の人材に属人化されているスキルであり、それが現場で複雑に絡み合っていることです。そもそも物流業界は、こうした人のスキル、1日の荷量、トラックの稼働台数などをデータとして取得することが難しい現場です。

「そもそもデータで必要なものって何だろう」「この業務に必要な知識とは」といった疑問について、お客様も整理ができていないと、実際にその業務をコンピュータにやらせてみようとしても難しいです。物流会社の中でも、拠点が違うと別の世界。100%成功する方法はありません。

- 江崎グリコ株式会社などとともにパートナー企業として参画した取り組みが、経済産業省の「令和4年度物流パートナーシップ優良事業者表彰」を受賞していましたよね。

「このまま日本の物流、同じようにずっと未来もやっていけるの?」という課題が長らくありました。人口構造が変わっていく以上、労働集約的な昭和の働き方から、令和の働き方にしていく必要があるというのがひとつ。加えて、2030年までにCO2を半減しないといけないという、環境の問題もあります。その2つの観点で、もう明らかに今、物流はサステナブルではない状況なんですよね。この課題を解決しようと真っ向から取り組んだ内容が、ありがたいことに今回受賞に至りました。

- 複数社で協働しながら物流をサステナブルにしようとする取り組みの背景には、どのような考え方があるのでしょうか。

江崎グリコ様がリーダーシップをとって行っていたのですが、本質的には、これらの問題は1社だけの課題じゃないですよね。物流の課題解決の難しさは、現場の関係者が多い部分に起因しています。 荷主は「このままでは商品をお客様に届けられない時代になってしまう」という危機感があっても、実際自分が配送しているわけではないです。物流会社は「人手不足なのに人件費や燃料費は上がるし、規制にも配慮して仕事をしないと」と思っている。そこに荷受人も加わってくるので、この3者が協力してそれぞれができることをよりよい形にしようとやっていくことが大切ですよね。

- 御社が各社の中で提供している価値は何でしょうか。

数多くの関係者がいると、同じ青写真を描きながら話しにくい部分があります。「私はこう思うんだけど」「それはあなたの意見ですよね」のような流れで空中分解してしまうことも、少なくありません。そんな現場で「コンピューターはこんな最適解を出しています」とソリューションを提供できるのが我々の強みです。

各社の色がついていない意見は、その場でたたき台になるんですよね。一応しっかりとAIが考えて、よりよい答えがあるかもしれないけれども、多分理想的な最適解に比べて遜色がない、コストで言えば数%の差しかない意見です、などと説明できます。最近ですと、ChatGPTが出力した内容に多くの人が納得してしまう空気感にもやや似ているかもしれません。

ー AIが提供するソリューションありきではなく、現場が抱える課題ごとにきめ細やかなサポートを行える点もライナロジクスの強みなのかもしれません。次回は朴さんが考える物流の未来や今後の取り組み、若者に向けたメッセージなどの話題を掘り下げたいと思います。


<取材・編集:ロジ人編集部>


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