経済安全保障、日本は本気になれるのだろうか?
『経済安全保障』という言葉を最近よく耳にする。その現れだろうか、日本企業に対しての影響が出始めている。
ソフトバンクは、ファーウェイとの関係で国際的5Gへの参入障壁をなかなかクリアできなかった。楽天は、テンセントとの資本提携で米国防省含めた監視対象、日本からも外為法違反等で日米両国からの監視対象となってしまった。ユニクロは、新疆(しんきょう)ウイグル自治区の強制労働をめぐるアメリカ政府から輸入禁止を受け、直近ではフランス政府から捜査を受けている。勿論、日本企業だけではないが、この様な事例が現実化している事から目を背ける事は出来ない。
ところが、日本の政治は訳の分からない迷走を繰り返している。
対中国非難決議が見送られたドタバタ劇は記憶に新しい。与党である公明党が慎重であったが、立憲民主党までが賛成に回り、慌てた自民党親中派の動きでドタバタ劇が演じられ決議されなかった。これだけでも国際社会の中で、日本はどうするのだろうかと疑問に思った矢先に更に上回る事案が発生した。
それは、中国共産党100周年記念に対して祝意を、筆者の知る限りでは、立憲民主党の枝野幸男代表・小沢一郎衆議院議員、自民党の二階俊博幹事長、河野洋平元衆院議長から寄せられたのだ。これは確実に政治利用されるだろうし、G7等国際社会に対してどの様に説明できるのだろうか、甚だ疑問だ。
政治がこの状況で、経済界が本気で経済安全保障と言う名の、サプライチェーンの再構築、市場再構築が出来るのだろうか。
<CSR調達とは>
CSR調達と言う言葉はご存じだろうか。
CSR(Corporative Social Responsibility)は企業の社会的責任という意味であり、CSR調達とは、調達先の選定や条件の設定において、コンプライアンスや環境・人権への配慮を行い、調達先を選定すると同時に、調達先にも同様の社会的責任を果たす様に求める活動であり、多くの企業でかなり前から経営課題とし活動が既に定着している。
つまり、自社がコンプライアンス問題や環境破壊、人権問題に繋がる事業活動を行わないだけでなく、調達先企業にも同様の活動を求める。即ちその調達先企業もその先の調達先企業に求めると言う連鎖を生み出し、サプライチェーンとしてCSRを実現する事になる。
しかし、本当に定着しているのならば、前述の企業摘発の様な問題が発生する訳がない。企業は収益拡大の目的で、安い賃金を求めて生産体制や部材調達を低コストで実現し、価格競争力を構築する経済活動を企業は行っている中で、先の先まで厳格に調査し条件とする厳しさを持っていれば起きないし、誤った場合も必ず正常復帰のマネジメントが働くはずだ。この経済活動自体、企業の競争力の為に否定されるべきではないが、先の先までに至る厳格さに問題があり、甘かったと言う以外に表現は無いだろう。
言葉を選ばず極論を言えば、調達先企業が『大丈夫だよ』と言えば、性善説ではないだろうが、鵜呑みにする方が波風もたたないし、敢えて厳しく追及する事無く、アリバイ造りの形式的なCSR調達が完成している可能性がある。
現実に目を向けると、実はそれほど簡単でもない事も分かるのだ。
トランプ政権時代に中国IT企業からの調達を規制する大統領令により、日本政府もファーウェイ社やZTE社等から新規の政府調達は行わない決定を下しており、各企業も政府系関連事業などの受注条件も踏まえ、調達状況を一斉に確認に動いている。しかし、現実は既に切っても切れないぐらい、入り込んでいる事が判明している。新規調達は制限できるかもしれないが、保守なども含めて関係を断つことは簡単ではないのだ。
企業として、この簡単ではない事を推し進めれば経済的な損失が大きくなる。その対価を払っても推し進めるには、国家としての明確な指針が必要であり、守らなかった時のリスクの高さを自覚した上で、経営上の覚悟が必要なのだ。
<グローバルマーケットビジネスは国家間のWinWinが条件>
10年以上前だろうか、筆者は同僚と海外ビジネスに関して議論を戦わすシーンがあった事を記憶している。社会的には、安い労働力を求める海外展開に先行き限界が見えてきて、グローバルビジネスは本来、地産地消が成立しなければ意味が無いと言われ始めていた頃だ。
その中で、同僚は中国マーケット進出を更に強化する事を主張していたが、筆者はカントリーリスク面も含め、目先の利益にはなるし連結上の効果はあるが、最終的にその成果がどこに行くのか疑問を投げかけていたが、回答は成果を現地で出せれば持ち帰れなくともよいという趣旨の説明を同僚から受けたのであった。その同僚は、その後中国マーケットのビジネス拡大に携わり、一定の成果を上げる結果を出した。
恐らく多くの企業が同様の成果を上げているのだが、その結果が今の中国でもあると言う見方もある。間違いなく中国は大きな経済発展を遂げ、覇権国家を伺う状況にまで成長しているのだから。
企業が現地で成果を出すという事は、間違いなくその国家は繁栄するのである。つまり、グローバルで見る限り、WinWinの関係式が国家間に成立している事が、必要条件になるのではないだろうか。
<日本は本気になれるのだろうか>
対中国非難決議が議論される状況、中国国内でも反外国制裁法のリスクなどを考慮すると、企業としても覚悟を決める時代になってきたのかもしれない。しかし、この経営判断は皆で揃って同じ方向に向かえれば良いが、抜け駆けして上手く立ち回れば独り勝ちも可能で、その場合の目先の利益は大きくなる。その利益を取らずにいばらの道を選ぶには、国家としての明確な方向性、指針が欲しいのだ。それこそ、抜け駆けを許さない、抜け駆けをする方がリスクが大きいと経営者に思わせるだけのものが必要なのだ。
ところが、媚中派、親中派が厳然と存在し、政治的には一定の力を持っている事が見えている。この構造がある限り、経済界から見た時にうまく渡り合うバランス対応が可能ではないかと疑うのも道理なのだ。それこそ、莫大なコストを払って、経済安全保障対応を確立しても、梯子を外されるリスクすら感じる政治状況に見えるのだ。まるで、お隣の国の米中日和見対応に似て見えるのだから。
政治的にアジアの大国との関係を絶つ事はありえないが、是々非々の厳しい対応が必要な局面である事も間違いない。政治的にそれが示されるべきだろうし、その方向に民主的な選択で政治家を選択できるぐらいでないと、いつ梯子を外されるか分からないリスクを考慮せざるを得ないだろう。即ち政治と国民の覚悟無くして、経済界が本気で経済安全保障に向かえないのだが、如何なものだろう。
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