第五回 利根川

外でデモがうるさかったのでデモをやめろっていうデモをしてきたところ。

保育園時代の話をしよう。
保育園にはお昼寝の時間があった。
僕はほとんど眠れた試しが無く、ぐっすりと眠るタメを横目に教室を走り回るような一匹の猿だった。
先生からこっぴどく怒られ、仕方なく自分の布団の範囲の中でウルトラマンガイアごっこをする以外には方法はなかった。

でも一度だけ眠れそうな日があった。
その時不思議な体験をした。
先生の中で若いギャル味のある先生がいた。
その先生が深緑色の絵の具を水に溶かし空き缶からそれを僕のお腹に垂らしてくるという妄想をした。
エッロいなああ!っと思った。
あれが僕の初めての性的興奮だったのだと思う。


お昼休みにはレゴブロック職人として汗を垂らした。
嫉妬した奴らによってそれは何度も破壊されたが卒園が近づく頃には作成の依頼すら承っていた。
とある日(one day)、いつものようにレゴブロックで作業をしていると不意に頬にキスをされた。
Mちゃんだ。「わたしのぶくんのこと好きえええーー」とカミングアウトされ舞い上がった僕は教室で覚えたての側転を連発する。
僕を知ってる人なら分かると思うが寺口はこうなったらもう止まらない。
呆気に取られる園児達、決死で止めに入る先生、迷い込んだ小ガメ。
保育園はパニック状態。
完全に寺口は恋に落ちてしまったのである。
しかし、事実は小説よりも奇なり。
事件は起こる。
帰りのお歌の時間になるとMちゃんが僕の親友のリョウと手を繋いでいる。
血の気が引いた。それは悪夢。
僕は冗談ぽくMちゃんとリョウに近づきその繋がれた手をじゃんけんのピースの形で離そうと試みるがこれがまあ離れないこと。
ハサミでは石を砕けない。
じゃんけんの決まりを学んだ。
本当だったらその場でリョウを殺めたいところだったが分が悪すぎる。
なにせ我が保育園の番長だ。
リョウは5才の頃に1つ上の年長組の教室へ一人で殴り込みに行ったことがある男、117センチ26キロ。
ほぼタンクローリー。
対する寺口は112センチ19キロ。
ラパンじゃん。
あの側転を返してくれよ。
ピアノの伴奏に合わせ「トントントントンひげじいさん!」と泣き叫ぶ寺口。

側から見ればそれはあまりにもブルースだったに違いない。

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