見出し画像

アイドルが売れるためには 〜歌の力は裏切らない

売れてるアイドルには理由がある、という話の第三弾。不可思議な話なのだが、何故か生歌信仰が異常に強いのは一体どういうことなのだろう。PAもどうしようも出来ないくらい各メンバーの声の大きさがバラバラとか、外の現場で声が抜けてこないとかあるくらいなら被せにすればいいのにとは思うのだけども。

アイドルと名乗るのであれば、最低限として歌って、ステージに立つということが基本となる。古い歌謡曲の中のアイドルを掘り返しても、軽い手振りをしても、歌は歌っている。歌の力はアイドルとしてのベースだと考えるべきだ。


【歌を歌うとはつまりどういうことか】

ここで一度、歌を歌うということがどういうことなのか、ということを段階に分けて定義したい。

1.音程が取れている

2.声量が出ている

3.高低差のある音が出ている

4.テクニックがある

5.感情がこもっている

この5段階に分けてみたわけだが、生歌で歌うのであれば1は言うまでもない。ここがクリア出来ないのであれば、音程を取るためのボイストレーニングをきちんとするべきだ。特別問題がある人でない限り、トレーニングをすれば鍛えれる項目である。


【声量=エネルギー量の法則】

意外とアイドルの多くが気付いていないのが、声量だ。歌が上手いというと、3や4のイメージが強いが、まず声量の大きさをクリアしなければただの鈍ら刀に過ぎない。

簡単に言えば、声量はエネルギーの量と言い換えていい。第一回のフィジカルの中でも言ったが、パフォーマンスというのはエネルギーの交換である。ベースとなる歌で声量が小さいということは、どんだけ飛び跳ねても伝わる事はないのだ。

そして、声量と言うと、大きな声とイメージする人が多いのだが、正確にはよく響く、というイメージの方が正しい。「腹から声を出す」とよく言われるが、声帯をきちんと閉じて、息を高い圧で一定に出すために腹筋や胸郭を使って響かせる。なので、声を出すというよりも、鳴るという表現の方が個人的には好んでいる。体の大きさ、声帯の形、頭蓋の形など様々な要因によって、声の質や鳴り方そのものに個性がある。それは息の量によっても変わるわけで、まずは自分の声の鳴り方というのを知ることは重要である。

声量が大きいと、芯のある声になるというのが1つだ。反対の言い方をすれば、蚊の鳴くような細い声といえば芯のない頼り無さげな声、とイメージ出来るだろう。芯のある声というのは、何かを伝えようとした時の説得力に繋がるし、より遠く、より多くのお客さんに伝えようとした時に、マイクを通して音として音量を上げた声以上に、生の声の声量があるかどうかというのは、受け手の印象が異なってくる。

また、声量の大きさというのは、表現力に直結する。上手い人の歌を聴いてみると、フレーズまたは単語、細かく言えば1音ごとに抑揚のコントロールが出来ていて、緩急がドラマチックに感じるのだ。グループアイドルの場合、サビの音が大きくなることを人数でカバーしているに過ぎない。

明るいハッピーな曲、夏曲などではあまり気になる事が無いだろうが、情感のある曲、激しい曲を歌った時に、この声量の差というのが如実に出る。ラウドなバックトラックなのに、声がぺらっぺらな場合、何のために後ろがラウドなのかその音楽で何を伝えたいのか、どんな感情を伝えたいのか、何を歌いたいのかが全く伝わらない。つまり、盛り上がるものも盛り上がらない。案外、そこを意識していないグループは多い。

 

【高低差のある声の強み】

正直なところ、音階としての高い低いというのは、トレーニングで幅を拡げれるだろうが、アイドルとしてその子じゃないと出せないような音の曲作りをすることはあまりないように思う。もちろん自分の中の上手さという意味で、チャレンジするのは良い事だろう。

だが、これが三番目に来ているのは理由がある。これは二番目の声を響かせるということが自覚的に出来ていないと出来ないからだ。

高い声の魅力というのは言うまでもないだろう。高く綺麗な声というのはもちろんきちんと体を使って響かせることが出来ているから余裕のある声というのが生まれる。ただこの高低というのは実際には生まれ持った身体的特徴に基づくので、際限なく鍛えれるものではない。

逆に低い声について語られる事が少ない。低い声というのは、がなるようなノイジーな声だけではない、太い声を出すということは男性的で、骨太なイメージとなる。ロックな、というのが伝わりやすいだろう。例えば怒った時に、声のトーンが低くなるのは分かるはずだ。同じ現象で、低い音には独特の勢い、感情というのがある。

例として、こぶしファクトリーの野村みな美を上げさせてもらった。後半になるにつれ、歌唱法が低音の響きを増してパワフルになるというのが分かるはずだ。もちろん、フィジカルの強さ、声の響きというのがまずあって、その上で魅力的な低音を使う事で、楽曲の持つパワーというのを声で表現している。これはかっこいい曲、だけじゃない、爽やかな曲でもサビの疾走感を出すためのパワー、エネルギーというのは大事なものだ。その時にこういう事が出来るのは非常に重要である。

 

【テクニックは数様々】

4番目のテクニックだが、実はこれまでの項目にもテクニックと呼ぶべきものが多く書かれている。しかし、まずはここまでにクリアをしなければ、使えても意味のないものだ。

ボーカルとしてのテクニックは数様々なある。基礎的なところを言えば、まずはロングトーン。歌い終わり、サビ終わりに同じ音を長く出す技術だが、同じ息の強さを保つ必要がある。これがきれいに出来るだけでも安定した歌声に見えるはずである。

次にビブラート。ビブラートもどこで出すかによって分かれるし、人によって出しやすさも異なるという。ビブラートは歌の情感やパワー、スピード感を増してくれる。フラットな歌声よりも心地よく聞こえてくれるわけだ。

アタック、アクセントと呼ばれるのは、発音のテクニックで曲中のフレーズや歌詞に合わせて、音を強く出すことでそこを際立たせたり、メロディの波を盛り上げる技術となる。コレオと合わせて考えるなら、腕を振り上げるような振りのところは、大きく出すのではなく強く出すこの技術を使う事で、迫力を増す。

見過ごされがちなのは滑舌である。どんなに大きく歌おうが、歌詞が聞き取れない歌はぼんやりしたものだ。BiSHのように歌唱法として音を潰しているのは別として、何か曲の雰囲気を伝えなきゃいけないような歌なのであれば重要だ。聞こえやすい発音というのもトレーニングできるテクニックの1つなのだ。

 

【歌は心とはよく言ったもので】

究極の話、どんだけ笑っていても、歌っている声に何の感情も入っていない歌はもはや歌わなくていいとさえ思う。歌う事に意味が無いからだ。

シチュエーションがあって、物語性のある曲の場合、その物語が進む事で感情の変化が曲となる。そこを声で表現するのが歌だ。声の大小も響きもテクニックもつまるところ、この感情を表現するためのツールである。

このレベルで歌える人は、当然曲への理解、感情表現について考えて歌っている。何となくの曲のイメージ、何となくステージに立って歌っている人の何となくはこういうところに透けて見える。

 

【もう1つあるのは、声の個性】

上に上げた全ての項目が最高得点だったとしても、それがあらゆるものの頂点かといえば、そうではない。人間の声には声質というものがあり、それぞれに個性がある。

非常に澄んだクリスタルのような煌めきのハイトーンボイスも魅力的だし、低くしゃがれた声も一度聴いたら忘れられないようなフックのある声としてすごく魅力的に見える。

ボーカルとしての個性で言うなら、BiSHは分かりやすい。アイナ・ジ・エンドのノイズの混じった独特の鳴りは一発で誰が歌っているのか分かる、というのは皆納得いただけるだろうが、他のメンバーも非常に個性的で面白い鳴りをしている。楽器を持たないパンクバンドというも、本人達の声が楽器としての強さを持っていることが楽曲のパワーを何倍にも押し上げているのだ。

=LOVEの野口衣織の声も特筆すべきだろう。「手遅れcaution」で見せる低くて堅い鳴りは、どこか甘めのイメージがある=LOVEの中では特殊である。ハロプロに精通する指原プロデューサーならハロプロではよくあるこういう特徴的な声を飛び道具的に配置して、曲をよりパワフルにする手法を活かしたというわけだ。

 

【あえて究極のうまさを定義するなら】

ボーカリストとして好きなアイドルはもっと多くいる。道重さゆみのどうやったってさゆみんワールドに引きずり込まれる声はあんなに強い声は他に存在しない。誰がどう逆立ちしたって敵いっこない。

その上で、あえて上に上げた様々な要素を踏まえるとすれば、鈴木愛理という存在を上げておく。

持って生まれた身体特性によるフィジカルの強さ、ハロプロエッグから叩き込まれた技術、豊かな低音から伸びやかな高音、性格から滲み出る愛嬌は仕草だけでなく声質にも現れている。

正直、才能×努力の質と量を重ねられたら、何を食べてもここには辿り着けないというのが、鈴木愛理である。

特筆したいのは、低音の鳴りだ。野村みな美の低音はあえて強く膨らませて出した低音だが、愛理の低音は自分の声の輪郭を壊さずに、低い音を鳴らして表現しているのが分かる。その上で、声のトーンや出し方で声の表情を変えるから非常に滑らかに変化し、幅がある表現となっている。ボーカリストとしての質が一枚上である。

 

アイドルというものに憧れた時、可愛い服を着て、ステージに立ってキラキラした世界が目に映っていたのだろう。その時、憧れのアイドルの手には必ずマイクがあったはずだ。アイドルごっこではなく、本物のマイクを握ったのなら、そのマイクを使う歌にはこだわってほしい。例え地道なトレーニングだとしても、その歌が誰かを掴む礎になる事には間違いない、ということを分かってほしいのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?