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ロカストだより 第3回 「旅する思弁/思弁する旅――滞留について」 渋革まろん

 このエッセイは、LOCUST+の前身、LOCUSTメルマガにて配信された文章です。編集部員・渋革まろんが「劇団ダンサーズ」による『動員挿話』を引きながら、LOCUSTのテーマである「旅」そして「群れること」について思索を巡らすエッセイです。
 ぜひ、お読みください。

 旅は超えることだ。としよう。単なる物理的な移動が「旅」であるなんてことはなく、普段の生活圏のなかで体験できなかったり、知ることの出来なかったりすることへ向けて、意識の越境が起こらなければ「旅」をしたなんて言えないだろう。その土地ならではのご当地グルメに舌鼓を打ち、見慣れぬ遺跡や跡地に歴史の想像力をたくましく広げ、悠久の自然と出会い、人間が存在していることの不思議に想いを馳せる。

 日常とは習慣だ。としよう。朝起きれば、服を着て、歯を磨いて、靴を履いて、バス、そして電車に乗り継ぎ、職場で「おはようございます」。Windowsの電源を入れるとHOW TOタスクがわたしのふるまいを起動させる。そしてわたしの身体にプログラムされた労働のルーティンがはじまる。電話が鳴る、受け取る、マニュアルを読み上げる、苦情やクレームはSVにエスカレーション、わたしの身体に許された、たった一つの可能性は労働のオートプレイによるシステムの破綻なき遂行だけなのだ。

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